6−1
ここは、どこだろう?
どこだかわからない。ただ暗い場所に隆二はいた。
視線の先、僅かな光が見える。そちらに向かって歩き出す。
「……?」
視界の先に、人影。目を凝らす。
肩より少し長い綺麗な黒髪、線の細いシルエット。見覚えのある柄の、着物。
「茜っ」
名前を呼ぶ。叫ぶ。
人影は振り返る。隆二のよく知っている笑顔を浮かべて。
「茜っ」
駆け出す。
手を伸ばす。彼女の右手を掴み、
「あかねっ」
その瞬間、彼女は白い骨となり、闇の中へと崩れ落ちた。
喉の奥で悲鳴があがる。
『りゅーじ』
背後から舌足らずな声で呼ばれて振り返る。
「マオっ」
ふわりふわりと、居候猫が浮いていた。
よかった、マオはまだ居た。
「マオ……」
手を伸ばし、マオの右手を掴もうとすると、
『大丈夫だって言ったのに、嘘つき』
淡々とマオが呟き、その姿が掻き消えた。
掴み損ねた右手。
「っ、マオっ」
「帰って来るって言ったのに、嘘つき」
『大丈夫だって言ったのに、嘘つき』
「嘘つき」
『嘘つき』
声が責め立ててくる。
姿は見えないのに声だけが。
「だからちゃんと見とけって言ったのに」
別の声がどこかで囁く。
「京介っ」
声をあげても誰の姿も見えない。
「嘘つき」
『嘘つき』
「嘘つき」
やめろ、やめてくれ。頼む……。
『隆二の、嘘つき』