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Gナンバーの居候猫  作者: 小高まあな
第五幕 猫眠、暁を覚えず
11/14

5−3

『りゅーじ?』

 マオの目が、とろんっとしてくる。

『……ねむい』

「待てっ」

 大声を出してそれを遮る。遮ってから、ああでも寝かせた方がエネルギーの消費が少なくなっていいのか、と思い直す。

 けれども、今マオを寝かせてしまうことは、一言で言ってしまえば、怖い。もうそのまま目覚めてこない気がする。

 マオが片手で目を擦る。眠気に耐えるように。

「ごめんな」

 その頭を撫でようとして、動かした手が、つっと宙を切った。

「っ!」

 隣でエミリが悲鳴を飲み込む。

 今、確かにマオの頭の辺りを触ったはずなのに、手は何も触れなかった。

 マオは気づいていないのか、ぼーっとしている。

 存在がまた揺らいでいる。

 一つ深呼吸をして意を決すると、もう一度手を動かした。

 今度はちゃんと触れた。

 頭を軽く撫でてから、その手を頭に置いたままにする。離すのが怖い。もう触れなくなってしまうんじゃないかと思うと、怖い。

 マオがもう殆ど何も言わないのは、限界に近いからなのだろう。

 エネルギーが足りない。ここにいる人間四人を使ってもまだ足りない。このままだと消えてしまう。

 居候猫が。

 それならば……。

「……わかった」

 自分にできることは一つしか思い浮かばない。

「じゃあ俺のをやるよ」

 マオがほんの少し首を傾げるが、言葉が届いているのかはわからない。

「神山さんそれはっ」

「黙れ」

 エミリの悲鳴のような言葉を低い声で遮る。

 不死者は死んでもいないが生きてもいないから、マオの食事に値するような精気はない。それでも、死んではないのだから、なにか、それに該当するものはあるはずだ。

「どれだけ摂っても死なないんだ。さすがにこれだけあれば、足りるだろう」

「でも……」

 そんなことをして無事で済むのかどうかはわからなかった。マオは救えないかもしれないし、本当にそれで隆二が死なない保証も実のところない。不死者の定義において、そんなこと想定していないから。それでも、なにもしないでただみているだけなんて出来なかった。

 だって、

「いやなんだよ、もう誰かが消えるとかそういうのは!」

 自分で思ったよりも大きな声がでた。

 だってもう、考えただけで耐えられない。

 隣でエミリが息を呑んだ音が聞こえる。

「マオ、お前、言っただろ!」

 うつろな目をしたマオの両肩を掴む。顔を正面から覗き込み、強い口調で告げる。

「隆二にはあたしがいるから大丈夫だって! いなくなられたら、駄目なんだよ! 約束しただろうが。約束は守らなきゃ駄目なんだろ」

 全部、お前が言ったことだ。

『……やくそく』

 マオの瞳が少しだけ動く。小さな声で言葉が漏れる。

「ああ、約束しただろう」

 それに力強く頷く。

「ちょ、ちょっと待てっ」

 ようやく事態を理解したのか、白衣達が動き出す。

「お前等何を勝手に決めているんだ! そんなこと許可する訳にはっ」

 さすがに放っておくことができないと思ったらしく、こちらの部屋に入って来ようとする白衣を、

「来ないでください!」

 隆二の隣にいたエミリが叫ぶことで遮る。そして、鞄から取り出した銃を、白衣に向けた。

「来たら、撃ちます」

「なにをっ!」

「本気ですっ!」

「進藤、お前自分が何をしているのかわかっているのかっ」

「こんなことしてどうなるか」

「前回の失態もあるのに」

「うるさい黙れっ」

 大声をあげる白衣を、それよりも大きな声でエミリが遮った。らしくない言葉遣いと剣幕に、白衣達が固まる。

「確かに、わたしはこの間失敗しました。あのときは救えなかった。……違う、救い方がわからなかった。でも、今回は違います。マオさんが消えるのを、このまま手をこまねいて見ている。それが間違っていることはわかる。ならば、わたしは、それに抗います」

 いつもと同じ、淡々とした、それでいて強い意志を感じさせる声でエミリは続けた。

「もう何も、神山さんから奪わせたりさせません」

 はっきりと言われた言葉に、息を呑む。ああそうだ、もう何も盗らせない。こいつらには渡さない。

「嬢ちゃん」

 何か言おうと彼女を見ると、

「はやくしてください」

 冷たく一言言われた。

 そのいつもどおりな態度に救われる。ほんの少しだけ、心にゆとりが戻ってくる。

 彼女の言うとおりだ。どうなるかわからない。それでも、今、マオがいなくなることよりも怖いことなんてなにもなかった。

「ちょっとまて、落ち着いて考えろっ」

「最悪、共倒れだぞ!」

 白衣の声。

 共倒れ? ああ、それもいいじゃないか。

 マオを守れなくて、それより先、生きることにしがみついている意味なんて、あるか?

 事態を理解するだけの頭が回っていないのか、ぼんやりとこちらを見てくるマオの頬に手を添える。

「大丈夫」

 小さく微笑むと、マオの唇に唇を重ねた。

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