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Gナンバーの居候猫  作者: 小高まあな
第五幕 猫眠、暁を覚えず
10/14

5−2

 エミリが振り返り、白衣に告げる。

「出番ですよ」

「……おまえら、人使いが荒いぞ」

 苦々しげに白衣が呟きながらも、それでも仕事はきちんとするらしい。

「今、エネルギーの状態は?」

 こちらにくるなという言いつけを守り、ダイニングから言葉を投げかけてくる。

「マオさん、今、お腹空いていますか?」

 それをエミリが優しく翻訳して問いかけてくる。

『……うん、空いてる。さっき食べたのに』

「そうですか」

 わかりました、とエミリは安心させるように微笑んで答え、

「足りないそうです」

 白衣の方を振り返ると、冷たく言った。そのエミリの態度にも何かいいたそうに白衣は口をひらいたが、結局時間の無駄だと思ったらしい。言葉を飲み込む。

 代わりに、

「なら、これを」

 ピルケースを投げて来る。エミリがそれを片手で受け取ると、説明を促すように白衣を見る。

「人の精気をつめたカプセルだ。研究所ではいつも使っているGナンバーの食事だ」

 エミリがそれを開けると、赤と白の二色になったカプセルがいくつか入っていた。

『……知ってる、それ』

 マオが小さく呟く。

『あのころ、ご飯はそれだった』

「そうですか。……なら、偽物というわけではないのですね」

「進藤、お前はこちら側の人間なんだから信頼しろよな」

 嫌そうに白衣が呟くのを、隆二達は全員スルーする。

「これを食べていたんですね?」

『うん。それだと一個で足りていた』

「なるほど、わかりました」

 エミリがちらりと隆二に視線をやる。指示を仰ぐように。

「あげてやってくれ」

 そう頼むと、

「わたしがですか?」

 意外そうに尋ねられた。

「……不満か?」

「いえ、ご自分でやらなくていいのですか?」

「両手塞がってんだよ」

 怯えたマオにしがみつくように握られている腕を見る。

「嬢ちゃんは信頼している」

 彼女はマオをG016ではなく、マオとして見てくれている。少なくとも、この件にかんしては、彼女は信頼できる。

 エミリは驚いたように一度目を見開いてから、

「……ありがとうございます」

 小さな声で呟いた。それからカプセルを取り出すと、

「はい、マオさんどうぞ」

 差し出す。マオが小さく口をあけたところに、それを放り込んだ。

 どういう仕組みなのか、エミリの手を離れ、マオの口に入ったところでカプセルは見えなくなる。

 こくり、とマオの喉が動く。

「いっぱいになるまで与えろ」

 白衣の声がとんでくる。

「マオさん、どうですか?」

 問われてマオが小さく首をふる。不安そうな顔をして。

『いつもなら、これでよかったのに……』

「大丈夫、まだあるから」

 それに隆二は優しく言葉をかける。それにマオが躊躇いがちに頷いた。

 大丈夫、と言いながらも隆二自身、不安が拭えない。ケースの中にはまだ沢山のカプセルが詰まっている。これでひとまず安定すればいい。

 けれどももし、これを全部食べても足りなかったら?

 自分で考えた想像に、背筋が凍る。

 ありえない。そんなことあってはいけない。

「どうぞ」

 エミリが差し出すカプセルを飲み込むマオを見ながら、万が一が起きないように祈る。

 最初のころは、まだ余裕があった。大丈夫だろう、という気がしていた。

 だけれども、カプセルの量が半分になっても、未だ何も起きないとなると、事情はかわってくる。

 マオはもう完全に泣き顔だし、エミリも眉をひそめたままだ。

『……ごめんなさい』

 マオが泣き声で呟くと、慌てたようにエミリが笑顔を作った。

「マオさんのせいじゃないですから、謝らなくていいんですよ」

『だけど、お腹いっぱいにならないから……』

「大丈夫です。はい、どうぞ」

 マオの頭を撫でてやりながら、隆二は黙ってそのやりとりを見ていた。ここまで、大丈夫、という言葉が白々しく聞こえることもない。

「……なあ、一応、念のために聞くんだが、これって、これしかないのか?」

 振り返って白衣に尋ねると、悪びれもせず頷かれた。

「この役立たずが」

 舌打ちする。

 それが不満だったのか、白衣が何か言おうとするのを睨んで黙らせた。さすが研究班、隆二の身体構造がどうなっているのかも、きちんと書面で理解しているらしい。立ちはだかろうなんていうバカな気は起こさない。

 隆二に立ち向かおうとする意思のある唯一の少女は、残り少ないカプセルを、ゆっくりとマオに差し出している。指先がかすかに震えている。

 食べても食べても、足りない。

 最後のカプセルを飲み込んだあと、

『おなか、すいた』

 マオが小さく呟いた。

 食べても食べても、満腹にならない。満足しない。

 食べた端から消費されている。ぎりぎり存在を保つのに使われているのだろう。ということは、今体内に残ったエネルギーがなくなったら、その時は?

「……あいつら全員捧げたらどうにかなんないかな」

 背後の白衣達を思いながら小さく呟く。

「足りないかと」

 意外にもエミリはそれを咎めはせず、ただ事実を突きつけて来た。

「例え、わたしをいれたとしても、足りません」

「嬢ちゃんを巻き込む気はないけどな」

 小さく呟くと、エミリは意外そうに片眉をあげた。

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