↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

いまはどこ?

作者: をはち
掲載日:2026/08/31

目覚めるたびに、人生が始まる。――でも、今回は何かが違う。


曾根崎みゆきは、ごく普通の家庭に生まれた。


両親は睦まじく、笑顔が絶えない家だった。


みゆきは明るく、未来に夢を抱く15歳の少女だった。


だが、その日、すべてが変わった。


自転車に乗っていたみゆきは、幅寄せしてきたダンプトラックに巻き込まれた。


轟音と衝撃。


世界が暗転し、意識が途切れた。


次に目を開けたとき、彼女は18歳になっていた。


3年間、昏睡状態だったのだと医師は告げた。


両親の涙に濡れた顔が、彼女の記憶に焼き付いた。


足は動かなかった。


リハビリの日々は過酷だったが、みゆきは諦めなかった。


2年後、20歳になった彼女は看護師になる夢を抱き、医療の道を志した。


車椅子での生活は不自由だったが、彼女の心は折れなかった。


やがて、同じ病院の若き医師と恋に落ち、結婚。愛らしい女の子と男の子に恵まれ、


仕事と家庭を両立させながら、子供たちを立派に育て上げた。


時は流れ、みゆきは86歳になった。


病室のベッドに横たわり、孫たちに囲まれながら、穏やかな最期を迎えようとしていた。


幸福に満ちた人生だった。微笑みながら、彼女は目を閉じた。――そして、目を開けた。


そこは病院のベッドだった。


見慣れた天井。両親のすすり泣く声。


みゆきの心臓は一瞬止まったように感じられた。


「みゆき! 目が覚めたの!?」


母の声が震える。


父の手が彼女の手を強く握る。


「3年間…ずっと…」


医師がそばで何かを呟く。


みゆきは静かに頷いた。知っている。すべて、知っている。


だって、これは8度目の人生なのだから。


1度目の人生では、彼女は画家になった。


2度目では教師。


3度目では執筆家として――どの人生も鮮やかで、幸福で、完全だった。


86歳で穏やかに死に、目を開けると、そこはいつも同じ病院のベッド。


両親の涙、医師の安堵の声。


そして、彼女はまた新たな人生を「生き直す」。


だが、今回も何か違う。胸の奥に冷たい違和感が広がる。


ベッドの硬さ、消毒液の匂い、両親の声――すべてが現実すぎるのに、どこか薄っぺらく感じる。


まるで舞台のセットのようだ。みゆきは考える。


自分は本当に目覚めているのか?


それとも、昏睡の夢の中を彷徨っているのか?


あるいは――すでに死んでいるのか?


彼女の視界の端で、何かが動いた。


カーテンの揺れか、影か。誰も気づいていない。


みゆきの心臓が早鐘を打つ。


8度目の人生で初めて、彼女は恐怖を感じた。


これまでの人生では、どんな困難も乗り越えてきた。


だが、今、彼女は知らない。


自分がどこにいるのか、何者なのか。


現実と夢の境界が溶け、闇が忍び寄る。


病室の時計の秒針が、異様に大きく響く――チク、タク、チク、タク。


まるで何かをカウントダウンしているかのように。


みゆきの耳元で、誰かが囁く。


「これは何度目?」


声は彼女自身のものだった。彼女は目を閉じた。


もう一度、目を開けるのが怖かった。


次に目を開けたとき、そこがまた別の人生なのか、


それとも永遠の闇なのか――それを知ることを彼女は許されていない。

読んで頂き、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。