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「あの、お姉様」


その次の日の朝だ。朝食後に部屋に戻ろうとしたところでエンジェルが声をかけてきた。

今日は父と義母は領地のことで朝食もとらずに仕事をしており、シーヴァはその件で父に呼ばれて朝食をとってすぐに出て行った。

ふたりしかいない。


「エンジェル。何かしら」


話しかけてきたのは初めてだ。今までひっそりと自分の部屋で父が雇った家庭教師からの教育を施されていた。義母は積極的にエンジェルに話しかけることはなかったし、シーヴァと話しているところも見たことがない。おそらく孤独な日々を送っているはずだ。


オーロラとしては積極的にかかわるのは嫌だった。

だが、話しかけられて無視をするほど今世ではまだひどいことはされていない。とにかく警戒心を持ったうえで最低限の会話をする。それしかない。


「ありがとうございました」


「え?」


「母のことです。ホスピタルに入れていただけたと聞きました」


「ああ」


侍女か誰かに聞いたのだろう。


「人が病気になっているのだもの。どんな人であってもわたしはできる限りのことをするわ」


「ここに来るのが怖かったんです。母は主人を裏切った人間ですから」


「その人がどういう人生を送って来たかじゃなくて、とにかく助けたかった。それだけよ。よかったわ。信用できるホスピタルだから安心して過ごしてもらえる」


「はい。本当に感謝しています」


「あなたのお母様の連絡先をあとで侍女に届けさせるわ。手紙でなら連絡がとれるから」


「え?本当ですか?」


エンジェルの顔が輝く。

エンジェルを信用できないと言ったって母親との連絡くらい取れるようにしてやってもいいだろう。


「ええ。ではもういいかしら?」


そう言って去ろうとしたのだが。


「あの、お姉様の母君もその……愛人だと聞きました」


「……」


「わたしと同じ境遇なのかなと思って……」


確かにふたりとも父の愛人だ。

だが、オーロラはここに来てから一度も母とは連絡をとっていない。

時々スコットをやって無事にやっているかどうか確認をしてもらっているだけ。


オーロラの表情をじっと観察する。


これはもしかして前世と同じパターンなのだろうか。

この顔の裏に実は般若のような顔が隠れている?

自分と同じ赤い髪にゴールドの瞳。


色はまったく同じだけれど、顔だちは全然ちがう。

オーロラは少し釣り目できつめの顔だちなのに対し、エンジェルは丸い大きな目をしており、かわいらしい顔だち。少しそばかすがある。


その丸い目の奥に本当にそんな顔があるのだろうか?

けれど前世では完全に騙されていた。

今世ではそんなヘマはしない。


「確かにわたしの母も父の愛人だった。あなたと同じ境遇には違いないわね」


「そうですよね」


嬉しそうに見える。だけど騙されない。


「だけど、それだけよ」


「え?」


「境遇は同じ。それだけ。では部屋に戻るわね」


オーロラはそのまま部屋まで後ろを振り返らず歩いた。

必要最低限のことしかあなたとは話さないわ。エンジェル。


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