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先に席を立ち、オーロラの前に手を差し出す。
今までケーキを食べていたからそのままの素手だ。さきほどは手袋をしていたのに素手?オーロラも素手だ。
躊躇していると、ウォルターは気にせず手をとった。
「気にしないで。先ほども言ったけれどわたしたちは夫婦になるんだよ」
「はい」
その手をとると、まず驚いたのはそのざらざらした触り心地だ。
剣をふるっているのだわ。
ごつごつざらざらしたその手は剣だこや豆がたくさんできているからに相違ない。
このスマートな細くひきしまった体躯と言い、ウォルターは本当に剣士として成長しているのだろう。
そのままエスコートされるままに歩くと、かつての庭にかつてと同じようにデイジーの花畑があった。
綺麗に真っ赤なデイジーが咲き誇っている。
ルヴィエ王国のジルのお屋敷には白いデイジーもあったが、ここは赤いデイジーのみ。
まるで一面自分がいるようだ。
「君をイメージして作ったんだ」
「え?」
「七歳の誕生日に渡したかった花束のつもりだ。受け取ってほしい」
あたりは少し日が暮れかけており、春の真っ赤な夕日がウォルターの顔を赤く映している。
その夕日の中でキラキラと碧い瞳が輝いていた。
「ウォルター殿下?」
護衛騎士がついてきていたが、かなり遠いので会話は聞こえまい。
「絶対に渡したかったのに、突然祖父に呼び戻されたんだ。強引に連れ帰られてしまったからどうすることもできなかった」
祖父?というと……。
「しかもそれからずっとルヴィエの王宮ででしばらく滞在することになってしまったから連絡も取れなくて」
ルヴィエ王国。
そういえば、前世でウォルターの母である亡きセシル王妃はルヴィエ王国の王女だったと聞いたことがある。祖父というのはもしかしてルヴィエ王国の国王?
ルヴィエにいたということ?
「やっと戻ったときには君はグッドフェロー公爵と一緒に王都へ行ったとミシェルから聞かされてどれだけ驚いたことか」
「覚えていてくださったのですね」
まさかあの子どもの頃の約束を覚えているなんて思わなかった。
「ああ。俺は一度言ったことは必ず守る。だからこれをプレゼントさせてくれ。ここから毎年君の誕生日にはデイジーを眺めよう」
「ウォルター殿下」
一面真っ赤なデイジーの花畑は真っ赤で、そして赤い夕陽の下でとても綺麗だった。
「一輪だけいただいても?」
「え?一輪と言わずいくらでも持って帰っていいよ」
「いえ。一輪、ウォルター殿下が選んでください」
ウォルターは自分で手折り、それをオーロラへと渡した。
「ありがとうございます」
「いつでも手折ってあげるよ」
「はい」
オーロラはその一輪をまた押し花にして栞にするつもりだった。
ウォルターがノエルと出会った時に思い出としてずっとしまっておけるように。
少なくとも今はまだウォルターはノエルと出会っていないのだから。




