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こちらダンジョン遺失物センター ~落とし物の声を聞き、持ち主に返すのが仕事です~  作者: 本田べじ


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棚卸は年に一度、必ずしましょう③逃げ出したリュートを追え!

棚卸は順調に進んでいった。はじめてで拙いとはいえ二人が頑張ったのも大きかった。

店主が「ほんの少しの例外」の封印が緩んでいないかの確認も終えて、残すはあと数列となった。

ミランダとメリンダが下の段を、僕が脚立を使って上の段の箱を開けていく。

一番上の真ん中に置かれたひときわ大きい箱に手を伸ばした時、その手ごたえのなさについため息が零れた。


「店主、やられました」

「やはりですね」


大きな箱の中身は空になっていて、説明書きにはこう書かれている。


『ダンジョン『渇水の大地』の5層に置かれていたリュート』


リュートとはギターに似た弦楽器だ。それがなくなっている。


「なに? なくなったの?」

「誰かに盗まれたのかしら」

「いえ、これは自分の意思で動いたんですよ」


店主の説明に二人が首をかしげる。自らの意思で封印された遺失物が、自らの意思で逃げ出すとはどういうことかと不思議そうにしている。


「動いたらだめだっていつもいってるのに」


ただでさえこの部屋は先が見えないほど広い。しかもここは亜空間だから、うっかり空間を移動してしまえば、どのダンジョンに入り込んだか特定するのに時間がかかる。ここから逃げ出したかったのならそれでもいいが、”彼”は違う。早く見つけてあげないと。

ほっそりとした手が伸びてきて焦る僕の頭をぽんぽんと軽く叩いた。


「まあ、いつものことですから。それに、彼女たちがいればきっとすぐに見つかりますよ」


とりあえず残りを終わらせましょうという店主の指示で、他の箱に異常が無いことを確認すると棚と床の拭き掃除をして棚卸は終了した。


「お疲れさまでした」

三角巾をとって癖がついた髪を撫でつけながら店主が僕たちをカウンターに座らせた。普段はカウンター内の棚の上から見ているから、反対側から見る風景はいつになってもなれない。


「今日は飲めるはずです」


店主は4人分のコーヒーを入れると、それぞれに手渡した。

いつも店主は飲めないと分かっていても剣の形の僕たちの前にコーヒーを用意してくれる。湯気を感じるだけでも幸せな気持ちになるからいいんだけれど、やはり飲むのとは違う。いまは人の形をしているからちゃんと淹れたてのコーヒーを飲むことができる。


「美味しいのかしら」

「コーヒー豆がコーヒーを飲むって考えたら、シュールね」


二人がおそるおそるカップを持ち上げて口を近づける。猫のようにペロッと舐めると、同時に顔を顰めた。


「苦いわ」

「これ泥よ」

「ふふ、やはりあなた方には苦すぎたみたいですね」


いったんカップを下げると、その中に白いクリームをたっぷりと注ぐ。カップからはみ出しそうなほどのふわふわな泡がプルンと揺れる。さらにそこに茶色のソースをかける。


「これでいかがでしょう」


疑い深そうな目で店主を見つめたあと、二人が意を決して口をつける。途端にぱあっと光が差したように表情が明るくなった。


「美味しいわ!」

「すごく甘くなってる!」


彼女たちの鼻にはクリームがついている。微笑ましくて思わず笑ってしまう。すると、二人の視線が一気にこちらを向いた。


「何よバル。何笑ってるのよ」

「えっ!」

「ブラックコーヒーが飲めるからって威張らないでほしいわ」

「べ、別に僕はそんなつもりじゃ……」


店主はふふっと微笑んで、小さな声で「そろそろですよ」と呟いた。

それとほぼ同時に、またあの大きな音が鳴り響いた。音は先ほどよりも近い場所から聞こえてくる。


「行きますよ!」


店主の掛け声とともに僕たちは一斉に声のする方へ駆け出した。

鉄の扉の向こう、真ん中の列の奥から音が聞こえてくる。


「眠りから目覚めたばかりで混乱状態にあります。でも賑やかな音に反応するのでなるべくこちらも大声を出しましょう!」


声を張り上げる店主は珍しい。ポケットから謎の笛まで出して甲高い音を出している。

ミランダとメリンダは状況をあまり理解していないまま「ねえ、どういうこと?!」「説明して!」と大声で騒いでいるから問題ない。

僕は大きく息を吸い込み叫んだ。


「ガク! こっちだよ!」


ガクは遺失物のリュートの名前だ。ガクは寂しがり屋で、時々封印を解いては人を探して彷徨ってしまう癖があった。人に会いたくないけど会いたい気持ち、僕にはとてもわかる。だから混乱した状態で間違ってダンジョンに入ってしまって魔物に壊されたりする前に、僕が見つけてあげないといけないのだ。


「ガク!」


何度か叫んでいるうちにリュートからでている音が呼応するように響き始めた。


「近いですね」


広い部屋の中のどこかで孤独に耐えているガクを、僕は必死に探した。


「ねえ、あれかしら?」

「あれだわ、きっと」


双子がまったく同じ仕草である一カ所を指さした。

その先には箱が置かれていない空の棚が並んでいて、その下段のさらに下のほうに茶色いかたまりがあった。大きな音がするたびにその棚が揺れる。

僕は思わず走り出すと、棚板に身を隠すように横たわるガクに手を伸ばした。


「ガク、大丈夫? 迎えに来たよ」

「今回も無事に見つけられたようですね」


店主に撫でられたガクは、観念したように、けれど嬉しそうにポロンと鳴った。


次回で終わります。

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