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こちらダンジョン遺失物センター ~落とし物の声を聞き、持ち主に返すのが仕事です~  作者: 本田べじ


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棚卸は年に一度、必ずしましょう②豆の器と禁断の扉

「棚卸って何よ?」

「説明しなさいよ」


横から双剣が騒ぐ。


「このセンターにやってきた遺失物は、基本的には持ち主に戻します。ですが、様々な理由で持ち主に返すことができない遺失物の多くは、この扉の奥で保管されているんです。なかには少々厄介なものもあるので、かならず年に一度は所在を確認して、遺失物がきちんとあるかを見たり、メンテナンスをしたりします。ということで、今日はミランダとメリンダのお披露目も兼ねて、棚卸をします。ついでに掃除も済ませてしまいましょう」


店主はそう説明すると、黄色の三角巾を頭に巻いた。気合い十分だ。


「いい男が台無しよ」

「すごくダサいわ」

「…………さて、さっそくはじめましょう」


双剣の言葉を華麗にスルーして、全身を黄色で決めた店主が鉄の扉の取手に手をかけた。

扉には幾重にも歯車のような鍵がかかっている。何やら呪文のようなものを呟くとその鍵が一つずつゆっくりと光をまとって回り出す。やがてすべての歯車が回ると閂状の鍵が抜けて扉が開いた。


「このままだと不便なので、器に移ってもらいましょうか」


そう言ってエプロンのポケットからコーヒー豆を3粒取り出すと、カウンターに並べた双剣と僕の上に一粒ずつ置いた。

そしてまたしても呪文を口にする。するとコーヒー豆がにょきにょきと大きく形を変える。やがてそれは人間の子供のような形をとった。

僕の上に置かれた豆は銀髪の少年の姿に、双剣の豆は、おかっぱ頭の双子の少女の姿になった。薔薇の刺繍が入った赤いドレスの上に、白いバラをモチーフにしたエプロンを着けている。双剣をイメージして作ったようだ。ちなみに僕は店主とおそろいの黄色いエプロンだった。


「さあ、しばらくはこの身体を使ってくださいね」

「どうやればいいの?」

「どうやってその身体に入るの?」


豆が人の姿になったことに驚きの声をあげていた双剣が店主に訊ねた。


「器は私の魔力でできていますが、動かすのはあなた方の魔力です。この器を自分の身体だと思えばすぐに動かせるはずですよ」

「私たちの魔力で?」

「自分の体を動かすように?」

「わからなかったらバルムンクが教えてくれますよ」


店主がすでに器に移動している僕を見た。双剣のことで困ると、店主はすぐに僕に投げてくるのだ。頼られているようでうれしくもあるが、ただ単に面倒くさいだけなのかもしれないとも思う。


「えっと、実際は本体から離れることはできないんだけど、遠隔で操作する感じで」

「はあ? もっとわからないんですけど」

「あの、その、剣先から意識を飛ばす感じで」

「こう?」


なんとか無事に身体を手に入れた双剣たちとともに、さっそく棚卸を開始した。

扉の中は高い天井の広い空間になっていて、棚が整然と並んでいる。その棚には大小さまざまな形をした黒い箱が載っていて、そこには店主の丁寧な字で、取得日、取得場所、品名、経緯が書かれている。


「箱を開けて、中のものがなくなっていないか確認してください。あと状態も確認してくださいね」


ミランダが右側の列、メリンダが左の列、僕が真ん中の列を担当することになった。はじめて人の形になるからか、彼女たちの歩き方は拙く本当の子供のように見えた。棚に掴まりながらゆっくりと歩くがちょっとした動きでバランスを崩して転んでしまう。


「何よ、この身体」

「動きにくいったらないわ」


心なしか声も幼く聞こえる。


「しかもなんかコーヒー臭いわ」

「豆って考えるとなんか屈辱」


だが毒舌は健在だ。毒づきながらもどこか楽し気に手足を動かしている。

僕は何度か人の形になったことがあるから動くのは慣れていた。いままでは棚卸は店主とやっていたから手順もすべて把握している。二人を見守りながら箱を開けて異常がないかを確認していく。

『星の降る回廊』の3層に落ちていたグローブ、『大いなる海原』の深層部にあった万年筆、『交差する夕暮れ』の浅層で見つかったティーカップなど、落とし物は多岐にわたる。ここにあるものは様々な理由で持ち主が現れなかったものたちで、ここでひっそりと眠っているのだ。


「落とし物が増えたら置く場所がなくなるわ」


ミランダが呟き、メリンダも同意する。


「このまま誰も取りにこなければどうなるの?」


部屋の奥で作業をしていた店主が二人の疑問に答える。


「そうですね、ずっとこのままというのもかわいそうなので、一定の期間がすぎても引き取りにこなければ、その時は古道具屋などに引き取ってもらってますよ。彼らにとってもずっとここにいるよりもいいでしょうから」


それを聞いて二人の顔がさっと曇った。いつのまにか二人は真ん中の列に移動していて、不安な気持ちを落ち着かせるようにぎゅっと手を握りあっていた。


「私たちも、この箱に入れられるの?」

「古道具屋に売られるの?」


ここは、やっと手に入れた二人が安心して過ごせる場所なのだ。赤色の瞳がゆらゆらと彷徨う。

店主は眉を下げて微笑んだ。そして不安を取り除くように二人の頭をそっと撫でた。


「誤解をさせてしまったようですね。安心してください。ここにいるかどうかを決めるのは私ではありません。この部屋にいるのは、自ら望んでここで眠ることを決めた遺失物たちなんです。もちろん、ここを出て道具屋に行くかどうかを決めるのも遺失物の意思にゆだねていますよ。まあ、ほんの少しの例外もありますが」

「自ら望んで……?」

「なぜ? なんでわざわざ自分から封印されるようなことをするの?」

「さあ……それぞれの考えがあるんでしょうね」


店主は部屋の中をぐるっと見渡した。それぞれの遺失物に思いを馳せているようだった。そして僕と目が合うと少しおどけるように笑った。


「詳しいことは今度バルムンクに教えてもらってください」


またこちらに投げてくる。でもその表情がとても優しかったので、まあいいやと僕は思った。昔、この部屋で自ら望んで眠りについていたことがあるから、僕はここにいる遺失物の気持ちはよく分かるんだ。


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