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こちらダンジョン遺失物センター ~落とし物の声を聞き、持ち主に返すのが仕事です~  作者: 本田べじ


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誇り高い落とし物③真の主

冒険者の男が顔を醜く歪めて店主ににじり寄った。

「はあ? あんた何言ってるか分かってんの?」

「ですが、遺失物(彼女たち)が嫌がっていますので」

「お前頭おかしいのかよ。そもそも人の物取ったら泥棒だろ?」

「ええ、ですからこちらで買い取ります」


店主は懐から金貨を数枚取り出した。


「人間の尺度で物を評価するのは好きではありませんが、相場はこのくらいでしょう」


目の前に突きつけられた金貨に男はごくりと唾を飲んだ。数少ない上級の冒険者でなければ金貨などそう目にすることはないだろう。そのまま受け取って帰ってくれれば問題なかったのだけれど、欲が出てしまったらしい。

男は差し出された金貨をひったくるように店主から受け取ると、素早くカウンターに手を伸ばした。金貨も双剣も、どちらも手に入れたい。

そんな浅ましい行為が店主と双剣の両方の逆鱗に触れた。


店主が男に向かって片手を伸ばすと、目に見えないほどの速度で何かが飛び出した。速すぎて、それが魔法なのか暗器なのかはわからない。その何かは双剣を掴んだ男の腹に勢いよくぶつかり、速度を落とさずに地面に叩きつけられた。

ひっくり返った男は呻き声を上げながらも身体を起こそうともがいている。その手に握られた双剣がゆらりと妖しい光を放ちながら動き出した。

正確には男の手を操っている。自分の意思に反して動き出した腕に驚き、剣を放そうとするが指先はぴくりとも動かない。双剣は男の顔を目掛けて斬り掛かった。

鋭く繊細な切先はいくつもの細い線を描いた後、やや遅れて真っ赤な血が吹き出した。


「やめろっ! 放せ!」


何度も剣は振り下ろされる。傍目には一人芝居のようにも見えるが、男の顔は目を背けたくなるほど血だらけになっていた。

柄に施された金色の薔薇の装飾が、男の血を浴びて赤く咲いた。その姿は気高く美しく、強かった。

男が悲鳴を上げながら失神するも、双剣は動きを止めなかった。だらりと力の抜けた両腕は操られるままに男の喉笛に狙いを定め振り下ろされる。

その時。


「その辺にしておきましょう」


凄惨な状況には似つかわしくない穏やかな声で、店主が双剣を静止した。両手で暴れる二人を優しく包み込んでいる。


「でもっ……」


抵抗しようとしたミランダが、何かを感じたのか、突然ぴたりと動きを止める。


「あなたもしかして……」


男に一切の興味をなくしたように、メリンダの荒々しい気配が霧散した。

男の手からおとなしく離れた二人は、店主の手の中でじっと何かを考えるように黙ってしまった。

店主はくるりと手首を返すと、美しい軌道を描きながら双剣についた血を払い落とした。そして「冒険者なら、顔の傷は箔が付いていいでしょう」と一人で何かを納得しながら、意識のない男を転移用の魔法陣まで引きずっていった。

戻ってきた店主は双剣をカウンターにそっと置いた。


「あなた強いのね」

「ほんと、一瞬すぎてよく見えなかったけど、一撃だったよね」

「気に入ったわ」

「私も。それによく見たらすごくいい男じゃない」

「そのダサいエプロンをとればもっといいわ」


恋する乙女のように、血で赤く染まった刀身をわずかによじる。たしかに店主はとても美しい。整った顔や髪の色から目の色まで、どこか人形のような美しさを感じる。


「あなたならいいわ」

「私たちを使う栄誉をあなたにあげる」


双剣が店主をまっすぐ見つめる。私たちが認めた唯一の存在なのだから喜びなさいと高飛車に、けれどどこか切実な声で言う。

店主はまるでお姫様に使える騎士のように深々と頭を下げた。


「光栄です」


だがすぐに困った顔で笑った。黄色いエプロンの裾がひらりと翻る。


「ですが私は冒険者ではありません。あなた方の持ち主には相応しくない」

「でも……!」

「ここは遺失物センターです。かならずやあなた方に相応しい持ち主が現れますよ。それまで気長に待ちましょう」


双剣に向けて言ったはずの言葉が僕にも響く。このセンターに一番長くいる僕にも、いつか必ず持ち主を見つけると店主が言っているように感じた。


「これからしばらくの間、よろしくお願いしますね」

「よろしく……えっと」

「私のことはどうぞセンター長と呼んでください」

「…………よろしく店主」


店主の美しい姿とセンター長という呼び名が、彼女たちにはしっくりこなかったようで、何事もなかったように二人で声をそろえて店主と呼んだ。

店主はいままでも出会った人々やモノに「センター長」と呼ばれたがっていたが、いままでそう呼ばれているのを聞いたことはない。

店主はどうしてでしょうと首を傾げていたが、気を取り直したのか僕の方に視線を向けた。


「バルムンク、新しい仲間が増えましたよ。ミランダとメリンダのこと、よろしくお願いしますね」

「は、はい……!」

「なによ、伝説の魔剣だかなんだか知らないけど、私たちに指図しようなんて1万年早いわ!」

「ちょっと竜を殺したくらいで調子に乗らないでよね。私たちだってその気になれば竜の一匹や二匹、簡単にやっちゃえるんだから!」

「どんなふうに倒したのか、参考まで聞いてあげないでもないわよ」

「さっさと話しなさいよ」


静かなこの店も、なんだか賑やかになりそうだ。


次回は棚卸しのお話です。

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