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こちらダンジョン遺失物センター ~落とし物の声を聞き、持ち主に返すのが仕事です~  作者: 本田べじ


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誇り高い落とし物①騒がしい双子

果てしなく続く砂漠の先に、大きな神殿が見える。蜃気楼のように揺らめくそれは、どのくらい遠いのか見当もつかいない。ここを共に訪れたはずの男は、とうにいなくなっていた。

「暑いわ」

「暑いね」

鈴の鳴るような透き通った声が砂と一緒に風に舞う。

こんな場所に置き去りにされたというのにその声はとても落ち着いていた。

「どこかにいないのかしら」

「私たちの本当の主が……」

日の光を反射して、きらりと何かが鋭く光った。





◇◇◇




ダンジョン内にある『遺失物センター』は今日も落とし物で溢れている。


「これはこれは……」


目の前の店主が珍しく困ったように頭を抱えていた。原因は分かっている。落とし物としてセンターに届いた一対の双剣。鞘から抜かれた状態で布に包まれて落ちていたらしい。少し古いが、名のある匠によって作られたのか細かいところにまで細工が施された美しい剣だ。柄の部分には薔薇の花が繊細な金の線で描かれ、芸術品としての価値も相当なものだろう。さらに刃こぼれの一つもない刃先は白く鋭い光を放って、きちんと手入れされていることがわかる。見た目だけでなく実用性も兼ね備えているなかなかの名刀だ。この双剣を作らせたのはよほどの金持ちに違いない。


だが、これがまあ喋る喋る。

いつも静かな店内が二人の話声で溢れかえった。しかも品のある見た目からは想像もできないような言葉でお互いを罵っている。


「あんたのせいでこんなところに置き去りになっちゃったのよ!」

「なによ、メリンダがもたもたしてたのが悪いんだわ」

「はぁ? そもそもミランダ、あんたが選んだ飼い主でしょ? あんたのせいなのよ!」

「どこが! メリンダが選んだ冒険者はもうとっくに死んじゃったって話じゃない。いまの飼い主の方がまだマシだわ!」


喧嘩をし続ける双剣に、店主がごほんと咳ばらいをする。だが熱くなった彼女らは気づかない。


「だいたいあんたが――」

「すみません」


メリンダだかミランダだかが話そうとしたとき、店主がよくとおる澄んだ声で呼びかけた。自分たちに話しかける人間がいるとは思わなかったのか、双子はぴたりと口を閉じた。


「あなたたちの持ち主のことを教えてもらえますか? ここは『ダンジョン遺失物センター』です。遺失物の声を聴き、持ち主のもとに届けるのが私の仕事です」


二人を覗き込むそのまなざしはとても優しく誠実なものだった。


「あなた、私たちの声が聞こえるの?」

「ええ、聞こえていますよ」


そう答えた途端、二人は品定めするように店主に視線を送った。ときおりひそひそと何かを話し合っている。その様子を気にすることなく店主はお湯を沸かしてコーヒーを作りはじめた。豆を挽く音がようやく静かになった店内に響く。口の細いケトルから糸のようにゆっくりとお湯を注ぐと、ふわりとコーヒーの香ばしい香りが漂った。カップは4つ。双子の前と店主の手元に一つずつ。


「はい、これは君のぶんです」


突然店主が僕の方を振り向いた。カウンターの奥、店主の後方にある棚の上段にいる僕に手を伸ばし、残ったカップの前に置くと優しく微笑んだ。


「今回は君の助けが必要になりそうです」


僕はその言葉に、嫌な予感しかしなかった。


全3話です

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