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こちらダンジョン遺失物センター ~落とし物の声を聞き、持ち主に返すのが仕事です~  作者: 本田べじ


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前を見ながら後ろを見る③時の牢獄

ダンジョンは大きな城のような場所だった。魔法陣で到着した場所は城の庭。空は暗く黒い雲が立ち込め、湿気の混ざった生ぬるい空気が身体にまとわりつく。人間化すると剣のときよりも五感が鋭くなる。普段あまり感じない肌の感覚や匂いには特に敏感だ。

見上げるほどの高さの城は黒っぽく煤け、外壁には蔦が絡みついている。庭の草木も荒れ果て随分長いこと放置されていたのか、錆びた鉄の門を開けるときぃきぃと悲鳴のような音が鳴る。


「気味の悪い場所ですね」

「気味が悪いのはこれからだぞ」


相変わらず言っていることと表情が一致しない店主がのんびりと口にすると、ジェイドが苦い顔をして唇をゆがめた。


「ジェイドは来たことがあるんですか?」

「ああ。ここのボスはちょっとやっかいだから気をつけろよ」


ジェイドが見上げた先には塔のように伸びる城の頂上がある。ダンジョンのボスがいる場所を深層というが、下に降りるばかりではなく、上へ上へと攻略していくパターンのダンジョンもある。今回はそのタイプで、ボスは頂上にいるのだという。

僕たちは話しながら門から伸びる道を進む。魔物の気配はまだなかった。


「なにがやっかいなの?」

「ん? それはなあ……ボスは頭の中の時間を操るんだ」

「時間?」

「記憶といってもいいが、もっと生々しい。実際に目の前に本当にあるかのように、自分が二度と見たくないものを見せる」


僕が訊ねると、ジェイドは思い出したくないというように首を横に振った。


「それは興味深いですね。で、ジェイドは何を見たんですか」

「お、俺はほら、強い精神力の持ち主だから。そんな精神攻撃喰らうはずねえよ」

「それもそうですね」


優しさか、単に面倒くさかったのか華麗に流した店主は、目前に現れた大きな扉の前に立ちゴブリンの顔の形をしたドアノッカーを二、三度大きく鳴らした。


「鳴らす必要あるか?」

「一応礼儀ですよ」


案の定誰も出て来ないのでドアノブを回すと店主がゆっくり扉を開いた。

その途端、大量の蝙蝠のような小型の魔物が開いた隙間からあふれ出すように一斉に襲い掛かってきた。


「わっ!」

「うわっ! なんだこいつら!」


驚いて腕で顔を覆う僕とジェイドを尻目に、店主は手を伸ばすと勢いよくいくつもの黒い何かを飛ばして魔物を貫いた。大量にいた魔物をあっという間に倒してしまった店主は、「お邪魔します」と声をかけながら平然と中に入っていった。


「前来たときはあんなのなかったぞ」

「暗いところに住み着く魔物は音に敏感です。音に反応して人を襲うのでその性質を利用しただけですよ」

「そっか、だからさっきノックしたんだね」

「ある程度減らしておいた方が後が楽でしょう?」


呆れたようにジェイドが肩を竦める。


「ったく、これだよ。護衛される側がそんじょそこらの冒険者より強いんじゃ俺ら冒険者の立つ瀬がねえ」

「ジェイドはそんじょそこらでは無いでしょう」

「店主に比べりゃ大差ないさ」


扉の中は広く立派なエントランスだった。明るさは外とあまり変わらないほど薄暗いが何も見えないほどではない。床は大理石で左右に等間隔に凝った細工が彫られた大きな柱が並んでいる。その柱の間にはこの城の主とその家族と思われる肖像画がいくつも飾られ、それを照らすようにわずかな灯りがゆらゆらと揺れている。至る所に蜘蛛の巣が張っていて絨毯などは破れているが、昔はとても美しい城の入口であったことがうかがえる。

まだ一層だからか先ほど倒した魔物以外にはほぼ敵はおらず、ほこりが積もって汚れてはいるが調度品の洗練された美しさに感心しながら店主が進み、僕たちはそのあとに続いた。

しばらく行くと、中央に大きな階段が見えてきた。血のような真っ赤な色をした絨毯が敷かれている。


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