カフェは本業ではありません①センターの日常
全3回です。
「できたわ!」
「こんなの簡単よ」
ミランダとメリンダが得意げに顔を見合わせる。その手には生クリームが溢れそうなほど注がれたコーヒーカップが握られている。
「どうかしら」
「合格? 合格よね?」
店主が顎に手をやって首を傾げる。眉間に皺が寄るほどいつになく真剣な顔でカップを睨む。その顔を、手や顔にまでクリームをつけた双剣が食い入るように見つめる。
双剣はいま、赤いバラのドレスに白いバラのエプロンをつけた少女の姿になっている。それは店主が珈琲豆で作った器でできている。僕も同じようにいまは人間の少年の姿をしている。
双剣が急にカフェの仕事を手伝いたいと言い出し、それならばと客に出すためのカフェラテの審査を行うことになった。合格しなければ珈琲を作ることはできないと店主から告げられた双剣は、張り切って試験に挑んでいるのだ。ちなみにカフェラテのベースとなる珈琲は店主が淹れたものだ。
「残念、不合格です」
「はぁ? なんでよ」
「見る目がないんだわ」
途端に双剣が文句を言う。人間の姿をしている分、いつもより迫力が増している。薄く可愛らしい唇から繰り出される毒舌と舌打ち、ツンと顎を上げた高飛車な表情。せっかく可愛らしい姿をしているのに台無しだ。困ったように店主が笑う。
「そもそもカフェラテには生クリームは入れませんよ。これじゃあウィンナーコーヒーです」
双剣が丸みを帯びた頬をさらに丸く膨らませて店主を睨みつける。
「こっちのほうがおいしいじゃない」
「おいしいのはわかるんですが種類の話であって」
「店主のバカ!」
「石頭!」
「バルムンク、あとは頼みますよ」
「えっ、僕⁉」
双剣の口撃に早々に白旗を上げた店主は例のごとくすべてを僕に押し付けて退散し、飲みに来ていたジェイドの前に椅子を持って行って座った。
ぶつぶつと文句を言い続ける双剣を完全に僕に任せたつもりなのか、すらりとした長い足を優雅に足を組み自分用に淹れた珈琲をゆったりと口に運ぶ。
「煩くてすみません」
「こんなに賑やかなのは珍しいな」
「この姿で彼女たちに会うのは初めてですね。ミランダとメリンダです」
「ああ、この前の双剣か」
「わかります?」
素晴らしい剣なんですがごらんの通り気が強くって、と苦笑する店主にジェイドが酒をあおった。
人間の姿をしているときは、遺失物の声は普通の人にも聞こえるようになる。僕が何度か人間の姿でジェイドに会ったことがあるからか、双剣が人間になっているということにも特に驚いたりはしない。
店主の説明を聞きながら双剣を眺めていたジェイドが、口の端を挙げながら笑った。
「だが俺は気の強い女は嫌いじゃねえ」
その言葉に双剣が目を見開いて勢いよくジェイドを振り返った。その4つの瞳には軽蔑と侮蔑と嫌悪感が山盛りに詰め込まれていた。
「きもっ!」
「うざっ!」
「やっぱり無理かも。俺も心折れそう……」
その冷たい視線から逃れるように、心臓を抑えながらカウンターに突っ伏した。
「怖ぇよ! 視線で人が殺せるって」
「いまのはジェイドが悪いです」
空になったグラスを下げながら店主が追い打ちをかけると、ジェイドはしゅんと項垂れたままつまみのピクルスをちびちびと齧った。
店主は双剣を振り返ると、諫めるように言い聞かせた。
「君たちも、いろいろ好きにしてもかまいませんが、あんまりお客さんに喧嘩を売らないように。……ジェイドはしかたないですが」
「あれ、なんで俺だけ喧嘩売っていいみたいになっちゃってんの?」
ジェイドがわざとらしく口を尖らせた。
この穏やかな日常は突然の来訪者によって破られた。




