その指が示す場所は④エプロン防衛戦
半透明の膜のような瞼から真っ黒い瞳がこちらを睨みつけている。先ほど見た、美しい人魚とは大違いだ。
魔物というより化け物といった方がしっくりくる。
しかもそれがあと2匹、同じようにずるずると這い出てきた。
「人魚ってなんでしたっけ?」
さすがの店主も若干顔が引きつっている。
人魚の化け物は下半身を魚のようにぴちぴちと動かし、跳ねるようにこちらに向かってくる。しかもものすごい跳躍力とスピードで、一気に距離を詰めてきた。
「店主!」
いつものようにさっと倒してしまうことを期待していたが、なんと店主が化け物をよけた。
「な、何してるの? なんで倒さないの?」
「だって、攻撃した勢いであのぬるぬるが跳ね返ってきたら嫌じゃないですか」
まさかそんな理由で?
話している間にも化け物たちの攻撃は止まず、店主はそのすべての攻撃から逃げ続けている。
「で、でも店主、エプロンしてるじゃない」
「ミランダとメリンダにはダサいって言われましたけど、これ結構気に入ってるんですよ。汚れたら嫌じゃないですか」
洗って落ちるかもわかりませんし、と黄色いエプロンを見つめる。汚れてもいいようにするのがエプロンの役目じゃなのか。しかも二人にダサいと言われたこと、何気に根に持っている。
「そのエプロン、とてもよく似合ってるよ! 本当に!」とよくわからないフォローをするが、店主は一向に攻撃する気配がない。相手の攻撃を完璧によけているから敵わない相手ではないはずなのに。
逃げているうちに、湖からはかなり離れてしまった。遺失物の姿もここからは見えない。
「さて、ここまでくればいいでしょう」
何もない草原の真ん中でようやく足を止めると、店主は腕を伸ばして両方の手のひらを合わせた。ぱしんと乾いた音が鳴る。
それと同時に三体の化け物の動きが止まった。身体が動かないのか、呻きながら手足を動かそうと踏ん張っている。
店主が合わせていた手のひらを、腕を伸ばしたまま大きく横に開いていく。その動きに合わせて周囲の気温が一気に下がった。僕の刀身も結露する。
「残念ですが、鬼ごっこはここで終わりです」
ちっとも残念じゃなさそうに告げると、店主の手のひらから風が発生した。温度の低いその風が触れたものはたちまち凍り付いてしまう。草や木とともに、三体の人魚たちが氷の中に閉じ込められた。
そして手を振り下ろすと、凍った人魚たちは真っ二つに割れた。
「見てくださいバルムンク。汚れませんでしたよ」
「う、うん」
得意げにシミひとつない黄色いエプロンを広げて見せる店主の後ろで、人魚たちが青白く光って消えていった。




