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こちらダンジョン遺失物センター ~落とし物の声を聞き、持ち主に返すのが仕事です~  作者: 本田べじ


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その指が示す場所は②人魚の湖

ここはダンジョン遺失物センター。世界中のダンジョンの落し物がここに集まってくる。

カウンター奥の棚の定位置で、僕はいつものように店主の様子を眺めていた。店主は遺失物の声を聴くことができる特別な能力を持っている。ほかにも、楽器の演奏や魔法、珈琲を淹れるのも得意だ。

僕もここにやってきた遺失物の一つだが、店主の計らいでこのセンターにいさせてもらっている。最近やってきた双剣も加わり、なんだかにぎやかな日々を過ごしている。

今日は珍しく静かな日だ。遺失物もカフェのお客さんもいない。


「暇ですね、バルムンク」

「暇よ」

「つまらないわ」


店主の問いかけに答えたのは双剣のミランダとメリンダだ。隣の棚から遮るように口を出してくる。


「新しい仲間は来ないのかしら」

「遺失物は誰かの落とし物だから、僕たちの仲間ってわけではないよ」

「うるさいわよ、バル」

「黙ってて、バル」


店主は困ったように微笑んで、のんびりとした仕草で珈琲を飲んだ。


「そもそも、本当にこんなところに落し物を届けに来るお人よしなんているの?」

「そうですねえ、遺失物がここにやってくる経緯は大きく3つあります。一つは、本当に親切な冒険者が届けてくれる場合。これは確かにそんなに多くはないですね。もう一つはダンジョンが届けてくれる場合です」

「ダンジョンが?」

「不思議ですか? あなたたちもダンジョンが届けてくれたんですよ。まあ、ダンジョンからしてみれば異物の除去に近いのでしょうが」


ダンジョンには意思がある。もちろん疎通できる類のものではないが、それぞれが文字通り生きているのだ。ダンジョン内に忘れ去られた遺失物は、その多くがダンジョンの意思により外に排出される。排出された遺失物は、このセンターの前にある移動用の魔法陣の前に置かれていることが多い。『砂漠の迷宮』のダンジョン内で置き去りにされた双剣も、それによってここに来たのだ。


「私たちが異物?」

「冗談じゃないわ!」

「まあまあ、ダンジョンの考えなので私たちとは違うのでしょう。あなた方はとても美しく強い双剣ですよ。ねえ、バルムンク」

「えっ? あ、はい」


誇りを傷つけられた双剣がギラギラと刃を光らせるのを店主が落ち着かせる。

彼女たちはプライドが高い分、血の気が多く時折物騒になる。

なだめられて気を取り直したのか、メリンダが訊ねた。


「で、最後は?」

「最後は、こちらから見つけに行きます」

「見つけに行く?」

「ええ、ダンジョンのどこかにいる遺失物の声が聞こえた場合、そのままにしておくと危険なので、その場所まで迎えに行くんです」

「わざわざ?」

「ダンジョンにいる落し物の声がここから聞こえるの?」


店主は形のいい眉を片方だけ上げると、ゆっくりとあたりを見回した。そして耳を澄ませるように少し首を傾けた。


「そうですねえ……これは『人魚の湖水』ですね。階層はまだ浅い……3層、いえ4層でしょうか」


店主が呟きながら確認を求めるように僕に視線を送った。

僕はそれに答えるように慎重に返した。つい先ほどから、遺失物の声が聞こえていた。少しの諦めと悲痛なほどの願いがこもった声が空間を超えて耳に届く。


「4層で間違いないよ」

「さすがバルムンクは耳がいいですね」


褒めるように声を掛けられ、つい嬉しくなってしまう。誰かの役に立てることは嬉しい。それが親しくしている人間ならばなおさらだ。

双剣には声が聞こえないらしく、戸惑いの声を上げている。


「ということで、しばらく留守にしますね。ここを頼みますよ、ミランダ、メリンダ」


店主は棚に手を伸ばし僕を掴んだ。身体がふわっと浮き上がる。そのまま店主は僕をエプロンの腰ひもに差した。安定感はないがいままで落ちたことはない。


「え、いまからダンジョンに行くの?」

「私たちも行きたいわ!」

「魔物がいるんでしょ?」

「斬りたい!」

「刺したい!」


彼女たちは美しいだけの剣ではない。強いことにも誇りを持っているのだから、剣として使われたいと思うのだろう。店主のことは主にしてもいいと思うほどに認めている。そんな存在に使われることはこの上ない喜びだろう。

だが店主は首を振った。


「連れていけません」

「どうして?」

「バルばかりずるいわ!」


店主は困ったように眉を下げながらも、きっぱりとした口調で「だめです」と告げた。


「……そもそも、私はバルムンクも”使う”ことはないんですよ。彼には遺失物の正確な位置がわかります。だから一緒に来てもらうだけで」

「じゃあ、私たちはずっと剣として使われることはないの?」

「それじゃあお飾りじゃない!」

「安心してください、ちゃんと考えていますよ。まあ、あなた方が納得すればの話ですがね」


黄色いエプロンに剣という不思議な恰好で、店主は移動用の魔法陣の上に乗った。

青白い光が身体を包む。硬い剣が光の粒と一緒にほどけていくような感覚はいつになっても慣れることはない。ぐっと身構えると、店主の手が優しく柄を握ってくれる。

光が消えて目を開けると、そこはもうダンジョンの中だった。


「さすが『人魚の湖水』というだけあって美しい場所ですね」


開けた空間には草原が広がっている。その中ほどには透き通る水を湛えた大きな湖があり、そのほとりでは小型の魔物が水を飲んでいる。攻撃の意思はないのか、こちらを見る気配もない。一瞬ここがダンジョンの中だということを忘れてしまいそうになる牧歌的な光景だ。

気持ちよさそうに目を細め、前髪を穏やかな風になびかせる店主は、まるでピクニックにでも来たように見える。ここで珈琲を飲んでいたとしても違和感がない。

このダンジョンに来るのは初めてだった。店主はいろいろなダンジョンに行っているはずだが、このリアクションからして店主も初めてかもしれない。

あたりを見回してみるが下に降りる階段などは見当たらない。

唯一あるとすれば、この目の前に広がる大きな湖。


「この中に入るのかな」

「そうですねえ、ダンジョンの名前になっているくらいですし、そうなのかもしれません」

「僕は泳げないよ」


念のため伝えておく。そもそも泳げる剣というのが存在するのかはわからないが店主は時々僕たちがモノだということを忘れる節がある。伝えておくに越したことはない。

店主はふふっと笑みをこぼした。


「私も泳げませんが、まあ大丈夫でしょう」

「えっ! それほんとに大丈夫なの?」


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