第八夜 ピリネジオ
「ん……魔物じゃないね。人かな?」
「人……? あ、確かに」
リオスさんに言われて気づいたが、南西の方向から10ほどの魔力がそれなりの速さで接近してきていた。魔力の揺れはないから魔法は使ってない……騎馬隊かな?
「今から寝るところだったのに……!」
「まぁまぁ、いいじゃないか。……どこかの騎士団かな」
地平線から顔を覗かせたのは馬に跨った武装集団だった。えーっと……確かあの方向はピリネジオだったかな。相当に裕福な国だったような。
だがそれは関係ない。せっかく……せっかくリオスさんと寝れるところだったのに……!
「私はピリネジオの衛兵、ジル・バーンと申す。……お二方は旅人とお見受けするが……?」
「あぁ、そうだね。彼女はメリネア・ラングベイド、三級の魔女だ。で、僕はリオ……」
「ちょっと待ったぁ!」
私は急いでリオスさんの口を塞いだ。この人……正気か? たぶん今、普通にリオス・リーデンと名乗ろうとしたぞ。そんな伝説の名前を伝えたらどうなるか……まぁ分からないのか。
「リ……リオよ。私の従兄弟でね」
「え、従兄弟?」
(分かってよ! あなたの名前って絵本になってるぐらいなの!)
リオスさんの耳元で小声で叫んだ。分かってくれ……自分の価値を……!
「お、おう。従兄弟だ」
「……そうか。何かと事情があるのだろうから詳しくは聞かないが……それはそれとして聞かねばならんことがあってね」
「何か?」
「わざわざ言うまでもないとは思うんだが……この周辺で何やら大きな爆発が確認されてね」
……あ。さっきのリオスさんの……あれか。そうだよね……あの規模の魔力暴発が起こればそりゃ感知もされるよ。その上、直後に中級魔法も使ったわけで……。
「少し、話を聞かせて貰えるかな」
「……仕方ない」
私達は馬の隣をゆっくりと歩いた。私は箒で飛べばもっと速く進めるんだけど……まぁいっか。
そんなことよりだ。今は明るいけど夜なんだよ。リオスさんと仲良く寝れてるはずだったのに……。いや、はしゃいじゃった私達が悪いとはいえ……。
「しかしまさか魔女様だとは……悪いね。その辺はちゃんと取り調べをしなければならない決まりなんだ」
「まぁ……私達からは何も言えないよ」
「リオ殿は魔導師なのかい?」
「魔法使いだね。資格は持ってなくて……まぁ旅の目的の一つがそれだよ」
……嘘ではないか。うん。目的っていうかついでだけど……うん。
「時間があるなら魔法協会にでも行くといいよ。我らがピリネジオの支部はなかなか大きいから、三級の資格なら取れると思うよ」
「……ん? なんか試験とかないの?」
「ああ、ちゃんとした試験があるのは二級以上なの。で、二級以上の魔法師が公式の場にいれば三級にはなれるんだよ。もちろんそれなりの魔法能力を見せる必要はあるわけだけど、まぁリオ……リオなら平気だよ」
危なかった……。癖で普通にリオスさんって呼ぶところだった。2人きりじゃないときはそのあたりも気をつけないと。
「でも支部に魔法師がいるなんて珍しいね」
「うちは国が大きいからね。支部長が二級の魔女様なんだ。変わったお人だが」
そんなことを話しながら遠くに見えた高い防御壁、あれがピリネジオか。何かと来るのは初めてかな。
「ははぁー! すごいなぁ。こんなにも世界は面白いのか!」
そんなことを叫びながら目を輝かせているリオスさんの顔を見てるだけでも楽しい。確かに相当大きな街だから興奮するのも分からなくはない。まぁこの後どこかで色々聞かれるわけだが……。
「……? なんか、思ったよりも雰囲気がいいね?」
「衛兵の休憩所だ。君達は旅人なんだろ? あまり雑に扱うのもどうかと思ってね」
「いいのか? そういうのはちゃんとしといた方が……」
「魔女様とその連れともなるとね、そう雑には扱えないのよ。……さて」
それから数十分、極めて事務的な会話が続いた。爆発の原因、それを起こした理由、そしてそのときの周囲の状況……。
「なるほど。まぁこっちで事件性はナシと処理しておこう。この後はどうするつもりだ? 協会に行くのか……少し観光でもしていくのか……」
「当分の目的地はベネなんだ。まぁ協会寄って……ちょっとくらいは観光してもいいのかな? ねぇ、メリネア」
「そうだね。ちょっとくらいなら」
「ベネか。なかなか長い旅をするんだね。観光するなら気をつけたまえよ。2人とも……特にリオ殿は顔が良いようだから」
そうなんだよなぁ……。まぁ私と行動してたら下手なことも起こらないだろうけど……重ねて認識阻害の帽子でもプレゼントしよっかな……。
「まぁなんかよく分からないけど、終わったなら行くよ。いいんだろ?」
「あぁ、だが外までは送るよ。長いこと拘束してしまったからね」
重い腰を持ち上げて、外の扉へと歩みを進めた。時刻は……深夜の1時じゃんか。どこかで宿かなんかを取らないとな……。
重い扉から一歩外へ踏み出すと、鋭い日光が突き刺さった。夜なんだよな……昼だけど夜なんだよ。そして何より……堂々と立って待っている女性が1人。……たぶん魔女だな。
「おい、ジル! そこの魔法師2人、アタシが貰ってっていいかい?」
「……なんで来たんですか。ダンジェさん」
「面白そうな魔力を感じたからよ。アタシはカーリー・ダンジェ、魔法協会ピリネジオ支部長だ。2人、お前らはなんだ?」




