第六夜 魔法階級
「へぇ……なかなか活気があるもんだな」
「……リオスさん、ちゃんと眼鏡は掛けてるよね?」
「もちろん、ほら」
リオスさんは眼鏡をクイッと持ち上げて見せた。うん、確かに認識阻害は働いてるね。だからこそ私の目にも稀にいる美男子程度に写っている。
「気をつけてね。視線がちょっと痛いから」
人が群がるほどではない。けれどどうしても視線が集まる程度には認識されてしまう。
どうしたもんかな……。もうちょっと効果の強い魔導具を用意した方がいいのかな。
「んん……たぶんどうしてもそれなりの美しさは出しちゃうんだろうな」
「ん? なんて?」
「いや、なんでもない」
小声で呟いてみたが、どうしようもないことを考えることほど無駄なことはない。だけどまぁ、たまには無駄を満喫するのも悪くない。
「ねぇ、リオスさん。街に降りるのは久しぶりなんでしょ? 良かったらご飯でも食べない?」
「ご飯か、いいね! 今まで自炊ばっかりだったからちゃんと美味しいご飯を食べたいよ」
「だったら私が奢るよ。お金ならあるし、いつかお返ししてね?」
「じゃあ今回はお言葉に甘えようかな。悪いけど今は無一文だから……いや、まぁ多少はあるんだけどさ」
100年近く昔の通貨は持ってるのかな? でもリオスさんが活動してたのって統合期の前だし……もしかしたら高値で取引できるかも。まぁ今はいいか。
扉に下げられた鐘がチリンと鳴った。厨房の奥からは肉の焼ける匂いが流れてくる。私もお腹が減ってきたな。
「僕あんまり分からないからメリネアのオススメでお願いするよ」
「そう? じゃあ……」
私は店員さんにバジルソースステーキとパン、飲み物を二つずつ注文した。待ち時間、ずっと奥から香ばしい香りが流れてくる。
「……メリネアの先生ってどこの国にいるの? 境界って言っても結構あるでしょ?」
「ベネって言って分かる?」
「……あ、帝国だっけ?」
「帝国は60年前に滅んでるけど、まぁソレ」
ここからは西に10,000キロくらいかな。港に言って海を渡って……あれ、結構時間かかるな。最初は船でも使ってゆっくり行こうと思ってたんだけど……。
美味しそうに料理を食べ続けるリオスさんを眺めると私一人では決めかねる。
「リオスさん。飛空船を使えば数日で到着できるけど、どっちがいい? ゆっくり行くのと、早く行くの」
「……せっかくだしゆっくり行こう。そのついでに魔導師の資格でも貰って……まぁ色々やろうよ。僕はつい最近出てきたばっかりなんだからさ」
「ふふ、それもそうね」
リオスさんはしばらく人里には降りてなかったんだもんね。見て回りたいものも多いか。世界もそこそこ変わってるだろうし……じゃあゆっくり行くか。
お昼を食べ終わり、店を後にした。空はまだ明るい……っていうかここは夜にならないのか。陰半球は正午を過ぎれば炎魂が少しずつ輝きを抑えるから……。
「こっち側は暗くはならないの?」
「まぁ曇ればある程度は暗くなるよ? でも夜は来ないね。いっつも昼さ」
「ふぅーん」
……まぁ今日は夜の時間まで歩くかな。日の下で野宿ってなるとなかなか……。
5時間ほど魔法を利用しながら歩くと、すっかり街の影は見えなくなった。地平線の向こうには新しい街があるだろうけど……。
「さて、今日は魔法のお勉強をします。いいですね?」
「はい! 先生!」
「なんですか? リオスくん」
「椅子と黒板はどこから出したんですか?」
「それは後で説明します」
椅子に座ったリオスさんは黒板を見つめて目を輝かせていた。なんか……こう見ると得意になってしまうな。
「まずはおさらいをしましょう。初級と呼ばれる五つの基本属性、火・水・風・土・雷。それは大気に、そしてあらゆる生命に流れている魔力ですね」
「うんうん」
「中級の……上位属性と呼ばれるのは炎・氷・熱。それから基本属性の混合が中級ですね」
基本の魔力は誰しもが多少は持っている。そして固有属性は2つ以上の魔力を扱うとき、あるいは上位属性を扱うときには邪魔をすることがあるから、属性によっては上手く使うことができない人もいる。
「だから、あなたが中級魔法を使えないとなると固有属性を持っている可能性が高いというわけです」
「へぇ……。先生の属性は?」
「私は風化、とは言っても中級までの魔法は使えますよ」
右手の上に氷の結晶を作り出してリオスさんに見せた。正直、氷専門の魔女などと比較すれば疎かではあるものの、それなりの精度だとは自負している。
「綺麗だな……。上級魔法は使えないの?」
「上級はさらに細かな操作が必要だし……属性は空間、光、重力だからなかなかね。でも固有属性っていうのは無条件の上位属性みたいなものだから」
だからリオスさんが固有属性を扱えればそれだけで戦力が跳ね上がると思う……思うんだけどなぁ……。
「ま! 分からないことは考えても仕方ないよね。今日はテント張って休もう」
「……」
魔法鞄からテントを取り出して……あ。私、テントなんて一つしか持ってないや。参ったな……参ったな!
「り、リオスさん。今日は私が見張りをやっておくから……リオスさん?」
「……あのさ、つまり……混合魔法を使おうとしたとき、反発してくる力が固有属性ってこと?」
「まぁそういうことだね。どうかしたの?」
「だったら僕、なんとなく分かるよ。効果は分からないけど、“そういう魔力”があることは分かる」
……となると。となると、だ。それはつまり……リオスさん本来の力を見れるってことじゃんか!
「ぜひ、ぜひそれを試そう!」
私は先ほどまでの問題を忘れ、リオスさんにがっついた。




