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第十五夜 従属魔法

「っと……雑談はこの辺にして、本題に入ろうか。メリー、私がリオスの魔力を見てやればいいんだな?」


「えぇ、お願いします」


「つってもまぁ、すでに見ちゃいるんだがよ」


 師匠は自分の頬を撫でながらリオスさんの顔をマジマジと覗き込んだ。いや、顔じゃなく、そのもっと深いところか。私には見えないところを、師匠はその眼で貫いている。


「まぁ……固有属性だってのは確かだが……こりゃ停止だとか固定だとか、そんな大層なもんじゃねぇぞ」


「そうなんですか? 実験したときは私の魔法が止められたので、てっきりそういった類のものかと……」


「そもそもお前ら、天体がどう動いてるのか、知ってんのか?」


 空の動き、その問いはなかなか難しいものだった。諸説はあるものの、私達魔法師にとって、そう簡単に現象の理屈を決定することはできない。そもそも空が動いているのか……あるいは……。


「まず結論から言おうか。リオス、あんたの魔力属性は“従属”だよ。自分で言ってて恐ろしいがな」


「従属……?」


 それは一般に召喚魔法やテイム魔法と呼ばれる属性の……珍しいと言えば珍しいけれど、それ自体には攻撃性も影響力もさほどないはずだ。


「しかしそれを信じろと言われても……」


「テイムの条件はな、動物や魔物にそいつらの魔力を遥かに超える量の従属性魔力を当てちまえばいいのさ。積極的に下につこうとすんならそんな条件もねぇがな」


「いやまぁ……それくらいは知ってますが……」


「で、だ。月も太陽も魔力の塊なんだよ。ずっと大昔……それこそ神の時代に天が創られた際に生まれた産物、その後に大地ができたんだ」


 ……知らない話ではない。ただそれはあくまで神話……だから一体、何だというのか……今は師匠の話を聞くしかない。


「従属性の魔力は、格差があれば魔法さえも従えられるらしい。分かるな? 要は魔力を支配下に置けるというわけだ。性質上、大規模な魔法とも呼べる天体を従えるのも、不可能な話でもない」


「何万……何億年も輝き続けてるんですよ? そんな無尽蔵な魔力を従えるってことはつまり……それを更に超える魔力というのは(いささ)か……。そもそもそんな魔力ならこの大地が保たないでしょう?」


「だから抑え込まなければ人の生気を奪い、草木は枯れるのだろ? 月と太陽、その規模でなければそもそも耐えられないということだ。ふざけた野郎だぜ。大半の従属魔法師はスライムを手懐けるのがやっとだってのに」


 師匠の話を、黙って聞いているしかなかった。信じられる話ではない。ただ……ただ、だ。確かにリオスさんの魔力も無尽蔵だ。不可能な話でもないのかもしれないと、それは分かる。しかし……。


「従属の魔力なら……リオスさんの魔力が底なしの理由が分からないんですが……」


「さてな。そもそもイレギュラーばかりの存在だろ。その辺は考えるだけ無駄だ。強いて言うなら、それこそ伝承通りに“美しさゆえ”なんじゃないか?」


「……つまり僕はどうしたらいいんだ? 属性がどうとかは置いておいてさ、日が変に動くのを止めたいんだけど……」


 そうだ。すこし話が脱線してしまったけれど、そもそもの目的はそこだったということを忘れてしまっていた。リオスさんの属性なんてものはその手掛かりであって、それが目的ではなかった。


「一度従えてしまったものはなかなか手放しづらい。ましてや生命でないとするなら特にな。手っ取り早いのは、あんたが魔力を捨て去っちまうってのだが……」


「それはダメです!」


「あぁ、分かってるよ。私としてもそんな理由で死んでほしいとは思ってねぇよ」


 魔力を捨てるとはつまり、命を落とすということだ。もっとも、リオスさんほどの魔力ならばすぐに無くなることもなかろうが……。


「別に……僕はそれで世界が良くなるなら……」


「ダメだって!」


 リオスさんは確かにこの時代に相応しい人間ではないのかもしれない。ただ、100を超える者など種族によっては珍しくもない。わざわざ死を選ぶことはない。


「一応……手がないわけでもない。ただまぁ相当……リオス、お前にとっては厳しいものになりかねんぞ」


「ん? おう、それで良くなるなら構わないよ」


「悪いな」


「……っ!? リオスさん!?」


 師匠がリオスさんの手に触れた瞬間、彼は脱力してソファに倒れ込んでしまった。意識はあるけれど、手足に力が入らないような、そんな様子だった。

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