第十夜 三級魔導師
「よし……」
リオスさんは闘技場の中心で魔導具を一つずつ丁寧に外していた。……先に回収しといてあげた方がよかったかな。魔法鞄の中が散らかってしまいそうだ。
「おい、メリネア。アレがアイツの本来の魔力ってことか?」
「ええ、今までは魔導具で抑えてたんです。ほら、あんなのが街中を歩いてたら倒れる人も出そうだから」
「……バケモノがよぉ……」
リオスさんの魔力にあてられたら抵抗の少ない人達……つまり一般人はみんな倒れてしまうだろう。だから指輪もブレスレットも手袋も、いくつも同じ効果のものを装備させているんだ。
「後で上級の拘束用魔導具をくれてやるよ。あんなに付けてたらいざってときに困るだろ」
「アレ全部上級なんですよ」
「…………じゃあ希少級でどうだ」
「いいんです?」
「借り一つだ」
なかなか良い約束を交わせたな。希少、つまり世に出回っている中では最高等級ということ。普通に手に入れるなら億は下らない。
「おーい。もう初めていいのか?」
「あぁ、好きなタイミングで始めろ」
「好きなタイミングかぁ」
リオスさんの垂れ流す魔力に心を焦がされる。だけど火じゃないね。水でもない。……雷か。
「ふぅ……」
指先に無限の魔力が収束している。嵐の真ん中にいるような、そんな魔力の風が吹き荒れた。二級や一級の魔法師が出せる魔力ではないが……。
「『雷』」
「ッ!? な、アレが魔法だと!?」
豪雨の雷が壁に打ち付けられた。『火』と同じ、魔法も何もない、ただの暴力的な属性魔力の放出。
「どうだ? 三級になれるかな?」
結界は壊れはしない。ただ、それだけだ。地震よりも激しく揺れる。地上も……まぁ多少は揺れてるだろうか。
魔力という特異な質量を持っている分、雷魔法は実際の雷よりも破壊力が高く、それゆえに電圧などは下がるために殺傷力は低い。しかしあれは……ただ単純に質量を持った雷のように見えた。
「……くっくっ……当たり前だ。クソ生意気な魔法使いがよ……。明日からは三級魔導師を名乗れ」
「やった!」
正直、あんな三級魔導師はどこにもいない。特級に至るような者が駆け出しのとき……いや、それでもこうはならない。
「……なぁ、リオスさん。アンタ、どんな顔してるんだ? ほら、伝承じゃあ色々言われてるんだろ?」
カーリーさんもその辺は気になるのか。私としては見せないでほしいと思うところもあるが……。いや、それを言うのはやめておこう。
リオスさんはカーリーさんの言葉を受けて少し戸惑いつつも帽子と眼鏡を外した。……本当に心臓に悪い。目を逸らしたいと思いつつも、逸らすことができない。
「えーっと、これでいいのかな?」
「ッ……」
困り顔で微笑む様子はとてもこの世界の者だとは思えないほどに儚く美しかった。やっぱりダメだ。私は無意識に天を仰いだ。
「……なるほど、もういい! とっとと眼鏡かけろ」
「え、そんなメチャクチャな……」
リオスさんの片付けや装備を手伝い、そのまま下った階段を戻った。
地上に上がると、変わらず日の光が眩しい。が、もう寝ないと疲れてしまった。時間でいえば深夜なのだから。
「カーリーさん、空いてる部屋はありますか? もう寝たいんですが……」
「ん? あぁ、そうだな。2階の奥の部屋、あそこに確か泊まれる部屋が2つか3つあったはずだ。好きに使え」
「じゃあ失礼します。また明日」
2階に上がる階段を一つずつ踏み締める。長かった。本当に……これまでの人生を、この一日で半分ほどを経験したような気分だ。
「じゃあリオスさん。今日はありがとう。また明日、よろしくね」
「ああ、こっちこそ色々助かったよ。これからもよろしく」
私は精一杯の笑顔で手を振り、部屋に入った。悶える前にベッドに顔を埋める。そうだよね。明日も明後日も……ふふ。
なんとも表現しづらい満足感を抱いたまま、私はゆっくり夢に落ちた。




