第一夜 始まりの物語
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それは いまから 100ねん ちかくも むかしのこと。
ちいさく まずしい むらに ひとりの おとこのこが たんじょうしました。
おとこのこは このよの なによりも うつくしい かおだちでした。
ゆうぐれの かいがんに さきみだれる ぎんいろの はなばたけよりも ずっと ずっと。
むらじゅうは おおさわぎです。てんしさまだ、かみのこだ などと たいへんに いいまわりました。
しっとすることさえも ゆるされない びぼうでした。
そして ふしぎなことに おとこのこの たんじょうから ひると よるの じかんが すこしずつ ながくなりました。
かれが 10になるころには ひると よるの じかんは 10ねんまえの 2ばいの ながさに かわりました。
おひさまと おつきさまが かれの うつくしいかおを もっとながく ながめていたかったからです。
いつからか おひさまは しずむのを わすれ、おつきさまも そのかおの とりこになりました。
せかいの はんぶんは あさを わすれ、もうはんぶんは よるを わすれました。
かれの まわりの おはなは いきをわすれ、そのかがやきを ほぞんしたままに かれてしまいました。
せかいが かれの うつくしさに ほうかいしてしまったのです。
おとこのこは いつからか むらびとから きらわれることになります。もちろん あまりの うつくしさのために むらの むすめたちは こころのそこから きらうことは できませんでしたけれど。
どこまでも みりょうし、すかれてしまった いみごでした。
かれが おとなになったとき まちから そのすがたは きえてしまいました。
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「わぁ! 素敵なお話だね! お母さん!」
「ふふ……素敵かな? メリーがそういうならそうなんだろうね」
私は幼い頃、お母さんに読んでもらった絵本をよく覚えている。
朝日の訪れないこの街の反対側には、夜の訪れない街が存在する。そしてその原因である、この世の何よりも美しい人が存在する。
誰がこんな話にときめかずにいられるのか。私にはそちらの方が理解できない。
月明かりの下に一輪だけ咲く白い花よりも、ずっと綺麗なのだろう。私の理解力ではとても想像できないのだろう。
「ねぇ、お母さん。私ね、いつかその男の子に会ってみたいな!」
「……そうねぇ……。あんまりオススメはできないかな。あなた死んじゃうかもよ?」
「死ぬほど綺麗なものってすごいじゃん!」
「ふふ……そうね、大人になったら好きにしなさい」
お母さんが優しくそう言ってくれた。大人になったら自由にしなさいと言ってくれた。
だから私はそれまでずっと魔法の勉強をした。死なないように、殺されないように。
魔法学校を主席で卒業することもできたし、魔女試験だって現役で合格することができた。
全てがその彼に会うためだと知れば、みんな笑い飛ばすことだろう。あるいは心の底から心配されるか……
けれど私はそのロマンが欲しかった。安定した生活なんかこれっぽっちも興味はない。せっかくそこに面白いものがあるのだから。
「よし、行ってきます! お母さん!」
私は玄関に立てられたお母さんの写真に挨拶して扉を潜った。




