雪のようせい
お母さんから聞いた話。
ここら辺には『雪のようせい』が出るらしい――
この町には一年中ずっと雪が降っている。わたしが生まれてから一度もあの雪は止んだことがない。お母さんも、そのまたお母さんも雪が止んだところを見たことが無いらしい。
どうしてって言われても、そういうものだからとしか分からない。
だってどうして朝が来て夜が来るのかって言われても分からないでしょ? それと同じ。とくに疑問に思ったことも無かった。
そんなある日だった。
「知ってる? この辺にはね、『雪のようせい』が出るのよ」
「雪のようせい?」
お母さんが言った雪のようせい。小さい頃に見たことがあるんだって。
外に出かけて、道に迷って。暗くなって帰り道が分からなくなったとき。夜道にぽわぽわって浮かぶ光を見たらしい。心細かったお母さんはその光についていくと、いつの間にか町に戻ってこれたんだって。
それ以来、小さい頃は何度か見たことがあるって言ってた。
でも大きくなってからは見れないって、少し寂しそうだった。
「あなたも見れるかもしれないわね。羨ましいわ」
「でもわたし見たことないよ? どこに行ったら会えるの?」
「うーん、そこら辺を歩いてればいつの間にか、かな」
「えー」
よく分かんなかった。
だからとにかく探しに行ってみることにした。
家を出て、雪の降り積もった道を歩く。止まない雪はいつでも柔らかくて、踏むときゅっきゅっと鳴るのが気持ちいい。
でも地面をふむ感覚も気になるんだー。
この雪の下には地面とか土があるって町の大人たちが言ってた。でも雪のようせいと同じでわたしは見たことがない。大人たちだって見たことないんじゃないかな? だってここには雪しかないんだもの。
どこまでいっても真っ白しか目に入らない。
「雪のようせい、どこー?」
これだけ見渡せるのにぜんっぜん見つからない。
呼んだら出てきてくれれば簡単なのに。お母さんは夜に見たって言ってたし、やっぱり昼じゃだめなのかな? でも夜に出歩くのはダメって言われてるし。
「……もうちょっと探してみよう」
今日はいつもよりちょっと暖かいしまだ大丈夫そう。
そう思ってあちこち探してみる。
家の庭とか、軒先とか、井戸の中とか。てきとうに雪を掘ったりもしてみた。だけど雪のようせいは見つからない。
「お母さん本当に見たのかなー? どこにもいないじゃん!」
町の中にいないなら町の外だっ。
そうしてちょっとめんどうだったけど町の外に出た。
あっちもこっちも雪しかない。この中から雪のようせいを見つけるなんて無理だよ。ほんとうに、お母さんはどうして会えたんだろう?
町の外を歩いて、あちこち探して回る。
それでもやっぱり見つからない。
お空はどんどん暗くなって探すのが難しくなってきた。
「そろそろお家に戻らないと――」
そこでふと気付いた。
「……あれ? 町ってどっちだっけ?」
途端に胸の奥がきゅっと、小さく縮んだ気がした。
雪が急に強くなって少し先しか見えない。ここまで来た足跡はとっくに埋まっちゃって見つからない。
「さむい……」
今日は暖かい方だったけど、やっぱり夜が近づくと寒くなる。いきおいでお家を出てきちゃったからコートを持ってくるの忘れちゃった。
それに帰り道が分からないってなったら、とたんに寒くなった気がする。
それもこれも雪のようせいがいけないんだ。雪のようせいを探しにこなかったらこんなことにならなかったのに。
どんなに探しても見つからないし。
本当は雪のようせいなんていないんだ。お母さんが言ってたのだってきっと何かの見間違いに違いない。
そう思ったときだった。
ぽわぽわっと顔の周りが明るくなった。
「っ!?」
もしかしてお母さんが探しに来てくれたのか!?と思って顔を上げる。
でもそこにお母さんはいなかった。
代わりにいたのは、宙に浮かぶ、きらきら光る玉だった。
わたしはその正体に心当たりがあった。
「もしかして……雪のようせい、さん?」
光る玉は答えなかった。
だけどわたしは絶対そうだと思った。だってお母さんが言ってた話と同じなんだもん。
すると雪のようせいさんは、わたしから離れてどこかへ飛んでいく。
「ま、まって!」
ようせいさんを追いかける。でもどれだけ追いかけてもようせいさんには追い付けない。でもどんどん離れていくから、わたしも頑張って追いかける。
どんどん走って、どんどん走って。
どれぐらいか走ったところで、急に雪のようせいはいなくなった。まるでそこに光があったのが嘘みたいに。
それにびっくりして思いっきり転んでしまう。
「いったー!……くない。けど、ようせいさんは?」
雪にもふっと埋もれたから転んでもあんまり痛くはない。
雪のようせいを探そうと顔を上げて――またびっくりした。
「うそ……」
そこはわたしの住んでる町の前だった。
ようせいさんを追って行ったらいつのまにか町に戻ってきてたんだ。
びっくりして目を擦ったり、ほっぺを抓ったりする。痛かった。
だからそれが夢じゃなくて本当だって分かる。
「お母さんの話、本当だったんだ……!」
わたしは走って家に帰る。
「ただいま! おかあさーん!!」
「あら遅かったわね。心配したわよ? そろそろ探しに行こうかと思ってたの」
「そんなことはどうでもいいの! それよりね! わたし、わたし、ようせいさん見たの! 雪のようせいさん!」
「あらっ」
その日の夜は晩ご飯を食べながらたくさんお話した。
明日、友達にも自慢してやろう。わたしは雪のようせいを見たんだぞって!




