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Sky☆High  作者: クリステル


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6/6

Sky☆High ⑥

完結です。

 拝啓、お頭。僕は今少し混乱しています。この事を一体どう捉えればいいのでしょうか? だってお頭、僕が目を醒ましたのは病院のベッドの上なんですから。そして、ベッドの上で目を醒ました僕の瞳にまず飛び込んで来たのは、妻の泣き笑いのクシャクシャ顔なんですから。

 それでは大興奮で思考回路が弾け飛んだ妻からやっとの思いで聞き出した事の顛末を御紹介しましょう。



 事の起こりはなんと初フライト、羽田発札幌千歳空港行JAL108便のエコノミークラスA18、窓際のシートの上でした。シートに着くなり僕は独り言をぶつぶつと言い出して、いくら妻が話しかけてもまるで応答しなくなってしまったそうです。

 妻曰く「おずぼん履いたらぺギースーノーマクサンマンダラ。」「ファファファラバンバ茶色い小瓶アビラウンケンソワカ。」だとか言いながらガタガタと震え出して、飛行機が飛び立った時には精神喪失状態で応答なし、慌てた妻はスッチーに、スッチーは映画でお馴染みのあのアナウンス。「お客さまの中にお医者様はいらっしゃいますか?」にお医者様はいなかったけれど、名乗り出たのは脳外病棟勤務の看護士の妻。「これは危険な状態です。飛行機を今すぐ空港へ。」この出来過ぎ夫婦の話しに眉をひそめながら機長は羽田へUターン。ジェットに横付けされた救急車で最寄りの東京労災病院へ。レントゲン、CT、MRIの結果、下された診断がくも膜下出血ですよ。緊急手術で頭蓋骨を急須の蓋みたいにパカリと開けて、血抜いて脳圧下げても意識レベルは依然としてゼロ。魂だけは外出中で帰って来るやら来ないやらの二週間。

 さて、僕は一体何処へ行っていたのでしょう? 三泊四日の北海道旅行が、鬼平と行く十三泊十四日のあの世めぐり、差額ベッド代こみの48万8千350円ですよ。

 飛行機は落ちんかったし、僕は『Cの話しをするチワワ』にもなってないじゃありませんか。


 犬と言えば僕より悲惨な体験をしたポチまろの話し。ポチまろの事があったからこそ、僕は今こうしてお頭に手紙など書いたりしているのです。それがなければ、なあんだ、全部夢だったのか、って事に出来たのですから。

 今回の旅行はポチまろ同伴の犬旅行計画だったのですが、勿論犬は飛行機のエコノミーシートには座れません。否、多分ファーストクラスもダメだと思いますけど、盲導犬とかはどうするか知りませんが、一般の犬は、なんと荷物扱い。ゲージに入れられて荷物室に押し込められるのです。僕の発病のドタバタで妻はまるっきりポチまろの事を失念してしまったらしいのです。無理もありません、緊急事態ですから。

 ああ、それにしてもゲージに押し込められたポチまろ。そして、僕に『だいすきありがとう』と書いてくれたポチまろ・・・。

 空港貸し出しの一番大きな大型犬用のゲージでもまだ小さくて、無理矢理丸めて押し込んだ時のポチまろの不安一杯な顔が今でも思い出されます。ああ、ポチまろの運命や如何に。

 羽田へUターンして主人夫婦を降ろしたジェットは、1時間40分遅れでポチまろを真っ暗な荷物室に積んだまま札幌へと再度飛び立ったのであります。千歳空港で一旦降ろされたこの荷物は、ゲロまみれおしっこまみれでキュンキュンクンクンと悪臭騒音を放てども持ち主は現れず。これは新手のテロかと呆れながら空港係官が苦労して調べた結果、荷主は羽田でUターン事件を起こしたお騒がせ夫婦の物と判明。まったく迷惑な奴らだと、荷物は悪臭騒音を放ったままなんと四日も放置され、やっと羽田へ帰るジェットへ積み込まれたのであります。

 しかし、ポチまろは帰って来ませんでした。さすがに妻も次の日にはポチまろの不在に気がついてJTBに問い合わせましたが、「お調べします。」の梨の礫。その間にも僕は生きるか死ぬかの緊急手術。またまた妻は失念。しかし、誰が妻を責める事が出来ましょう。

 二週間の間、ポチまろに関する確かな情報は何処からも入ってきませんでした。あのテレビ人間の妻が、僕の病室に付きっきりの二週間、たまに自宅に戻ってもテレビの電源を一度も入れなかったのです。妻は僕とポチまろの心配で、文字どおりおかしくなる寸前だったのです。僕の意識が戻った後も、妻は僕に心配をかけまいと、ポチまろの事は黙っていました。僕はまだ全身のほとんどが麻痺状態で再手術が必要との事で、病室で優雅にテレビを観るなんていう状態からは程遠い場所にいました。

 僕らがそうやって深い竪穴の坑道のような場所で、社会との関わりが断絶している間、世の中は、ある不幸な事故に騒然としていたのです。それはJAL103便の墜落事故でした。僕がその事故の事を知ったのは随分後になってからでした。


再手術が無事に終わり、漸くにほっとした妻が自宅に戻って、何気なくつけたテレビの報道番組で、JAL103便墜落事故の謎の墜落原因の特番が流れていたそうです。キャンセルになった北海道旅行の事もあり、千歳空港発のJAL103便の墜落に興味を引かれた妻が、事故の事を僕に話してくれたのは、再手術後のリハビリをしている頃、事故からは一ヶ月程が経っていました。

 その話しを聞いた時、僕は得体の知れない不吉な胸騒ぎに襲われ、リハビリ用の歩行補助バーを力一杯握りしめなければ倒れこんでしまいそうな立ち眩みで、頭の電気が消えて真っ暗になる程でした。そして、僕は妻に事故当時の新聞を集めて貰い、犠牲者名簿の筆頭に記された名前を見て愕然としました。

 機長、肝月飛男。四十四才。

 この名前から、突然何の脈絡も無くポチまろの事が心配になって仕方がなくなり、僕は妻に問いました。

「ポチまろは?」

 妻の瞳から突然滝のように零れ出した大粒の涙を見て、僕には大凡の事が判ったのです。

 その次の日、妻の携帯にJTBから事の顛末を知らせるTELがありました。ポチまろを荷物室に積んだ便が、墜落したJAL103便だったのです。


 お頭、僕にはお上のやり方がどうしても理解できません。僕の頭の血管を破裂させて旅行をキャンセルさせたのは、僕ら夫婦を済う為だったんですよね? じゃあポチまろは僕らの身代わりという事なんですか? 僕達二人の命を済う為に生贄の小羊ならぬ生贄の小犬(ちょっと無理がありますが)がどうしても必要だった、という事なんですか?

 世間では見当違いな墜落原因を、ああだこうだと憶測していますが、僕は知ってますよ。あの大馬鹿やろうな機長とスッチーペアーの所為でポチまろは死んだんです。


 現金なものですね、そちらにいた時には鳥取砂丘で作る砂の塔みたいに(度々すいません、行ったことはありません。)サラサラと流れ去ってしまったこの「憤り」という感情が、まるで氷の柱の様に僕の背骨を貫いて自然と身体を震わせるのです。これって現世に生きているからこそ持ち得る煩悩なんでしょうね。


 お頭、お頭には今すぐお会いして伺いたい事が沢山あります。でもせっかくこうして拾っていただいた命ですから、もう少しこちらで先の事など考えてみたいと思います。今僕は歩くのも覚束ない状態(病院の先生方に言わせれば奇跡的回復との事ですが)ですが、退院したらちゃんと補習をしようと思っています。これはお頭に言われたからでも自分の来世の為でもありません。僕らの身代わりになって死んだポチまろの為にする事ですので、念の為。

敬具




 JAL103便墜落事故発生から2時間後、青森県津軽半島龍飛崎の海岸。


「ねえ、健ちゃん。」

「なあに、姉ちゃん」

「私達なんでこんな所でホームレスしてるんだろうね。」

「さあ・・・、随分と北まで流れて来ちゃったよね。」

「だいたいホームレスなんて都会でするもんじゃないの?」

「そうだね、俺たちホームレス前線の最北端かもよ。」

「だったらテレビ取材とか来てメシ喰えるんだけどね。もう東京に帰ろうよ。」

「何言ってるんだよ、姉ちゃん。都会じゃこんな立派な段ボールハウス作れないんだぜ。縄張りだってうるさいし、材料だって・・・。」

「わかったわかった、あんたは昔からこういうの上手だったもんね。」

「違うよ、上手だったのは五郎ちゃんで、俺はみんなあいつから教わったんだよ。」

「五郎ちゃんかあ、懐っつかしいねえー。」

 遠く目を細めて海を眺める姉。

「あれ、ケン。何か流れて来たよ。ほら、あれ。」

「何処何処? あ、本当だ。久し振りに何か食い物かもしれないよ。」

「なあに、あれ? 何か立ち上がってプルプルしてるよ。きゃー、こっちに歩いて来たー。怖いよー、健ちゃーん。」

「なんだよ、姉ちゃん。犬だよあれ。チワワだよあれ。驚かしやがって。」

「えー、でも真直ぐこっちに歩いてくるよー。やっぱり怖いよー。」

 二人の前で立ち止まり見上げるチワワ。

「あー、すいませーん。東京行きたいんすけど、どっち行けばいいんすかね。」

 海岸に響く二人の絶叫。

「あれ? 以前何処かで牛乳くれたお二人ですよね? また牛乳貰えんすかね。あー、逃げないで、ちょっとー。」

                  完


最後までお付き合いいただきありがとうございます。

クリステルの他の作品もよろしくお願いします。

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