Sky☆High②
お付き合い頂きありがとうございます。
よしよしって、こんなんでいいのかって? そうだね、あんまり良くないかもしれないね。でもこれって自動筆記っていうの? 思った事がすらすらと書けちゃうんだよね。それに、鼻からとんちんかんなお題なんだし、嘘か真かなんて先様は先からお見通しなんだろうね。とりあえずお題から心にうつりゆく由無し事を吐露させて、そっから人間性を判断しようってのが先様の意図なさるところだってさっきの赤いオニーさんが言ってたよね。なんだか先行き暗い感じだなあ。あーすいません、そこの青いオニーさん、お茶のお代わりをお願いできますか。それにしても此処のお茶はおいしいね、ああ甘露甘露。君も貰ったら、まるで生き返る心地だよ。えっ、また呼ばれたの? 今度は、あー、子供さんか。そうだよね、まだ十歳にもならなきゃ人生振り返るったってねえ、幸か不幸かわからないけどね。あれれ、ポチまろが帰ってきたよ、おーよしよし、で、お前どうだった? ワンじゃわかんないよワンじゃ、先様はどんな方でしたかと聞いているんだよ。ワンってしょうがないねぇまったく。そうだ、お前さん字が書けるっていうじゃないですか、ほれ、ここに書いてごらん。なになに、パパって何それ、パパってあたしの事かい? ワンったって、やっぱり犬の事だ、こっちにきたって通じるもんじゃないねぇ。どれどれ、次のお題は「おとうさん」か。おとうさんときたか。おとうさんね。
おとうさん、お元気ですか? おとうさんというと、血の繋がったおとうさんではありませんね。なんか他人行儀な感じだし、第一僕自身実の父親を「おとうさん」なんて呼んだ事は一度もないんですから、やっぱり義父って事かテレビのレポーターが漁港とかで働いている赤の他人の年輩者を捕まえて「おとうさん、ちょっとちょっと。」なんてやってるああいう感じですよね。
私にとっての最初のおとうさんは高校の時に交際していた女性のおとうさん、あなたです。
私は男女の事を初めてあなたの御息女となした訳ですが、あなたに最初にお会いしたあの時は、二人はまだ清い関係であったのです。ああ、乳くらいは揉んだかな。
幸いな事に自宅が近かったものですから私達は放課後連れ立って自転車をこいで帰り、彼女の家(即ちあなたのご自宅)の前でさよならをするというのを日課としておりましたが、ある日彼女が部屋へあがっていかないかと私を誘うのです。日の長い夏の夕方、その日は道すがら会話もはずみ、彼女としては私とこのまま別れ難いような気持ちだったのでしょう。私は彼女の言葉が嬉しくもあり、又女の子の自室というものにも興味深々なお年頃でもあったので、厚かましくもあなたの城へ上がり込んだのでした。
彼女の部屋へ通されると賺さず体格の良いおかあさんが紅茶とカステーラを持って現れ、不器用な挨拶などして一時の居心地悪さを感じた後は始終リラックスして、彼女の蔵しているロックのレコードなどを聞いて、接吻などをして、また乳など揉んだりもしながら且つ小奇麗に片付けられた中にも女の子っぽいアイテムで華やかながらもさりげなく飾られた彼女の自室というものを、まるで盗人の下見のように観察したりして、大変有意義な時間を過ごしておったのです。
そしてあなたは唐突に現れました。
ノックもせずにガラガラガラと引き戸を開け放って部屋の戸口に立ったあなたはまるで煩悩を打ち砕く不動明王の化身でした。実際に彼女の乳を揉む私の右手は得体の知れない痺れに襲われて固まってしまった程です。「美咲、ちょっと下までいらっしゃい。君も一緒においで。」
あなたは怒りを押し殺したような低い声でそれだけ言うと踵を還して階下に降りていかれました。途方に暮れた彼女が身も世もない程に取り乱して、ごめんなさいごめんなさいと大粒の涙を流して謝るのを、大丈夫さ、きっと男同士の話しがあるんだよ、と慰めると、きっと話しだけじゃ済まないから窓から逃げて、などと無茶を言うので本当に僕は怖くなってしまいました。それでも僕は逃げ出したりはしませんでしたよね。
一階の事務所然とした部屋であなたはソファーに背筋を伸ばして浅く腰掛け、大振りな湯飲みにいれた茶を啜りながら待ち受けていました。
「まあ、座りなさい。」
対面のソファーに座った私にお茶を勧めると、あなたは開口一番、私が生涯忘れ得ない言葉を吐かれました。
「君は職人になるつもりはないか?」
そう、あなたはペンキ屋を生業となされていましたね。そしてあなたは娘三人の父親でした。私はその事を長女である彼女から聞いて知ってはいたのです。ですがあなたの言葉は不意打ちに喰らったボディーブローのように私の呼吸を止めたのでした。
「何言ってるのお父さん、変な事言わないでよ。」
彼女はやはり泣きながらあなたに食ってかかりました。しかし、あなたの言葉は決して「変な事」などではありませんでした。高校生の娘の彼氏に初対面でこれ程の重みと覚悟をもった言葉を吐ける父親が一体どれ程いるでしょうか。
さらにおとうさん、あなたはおっしゃいました。職人になれば腕一本でこれだけの城が持てるんだと。私はその言葉にあなたの人生に対する揺るぎのない自負というものを感じました。ただ如何んせん私は世間知らずで生意気なロックスターに憧れるバカな餓鬼だったのです。
そんな人生はつまらん。城ったって只の一軒家じゃねえか。音楽の才能のある俺様はリムジンに乗って豪邸に住むのだ。
まったく救いようがありません。私は確かこうお答えしました。
「おとうさん、お気持ちは嬉しいのですが、僕はまだ若く、夢も野心もありますから、今職人になれと言われても決められるものではありません。どうかながい目で見てやってください。」
このこまっしゃくれたクソ生意気な答えにあなたは只一言、そうか、と肩をおとして言いましたね。
彼女は最後まで私に謝り、泣きながら外まで見送りについて来ました。私はそんな彼女の肩を抱きながら、良いおとうさんじゃないかと慰めてやる事しか出来なかったのです。世の娘親の気持ちなど露程も察する事のないまま。
さて、私は今や職人となっています。そこに自分の意志があったのかどうかもわからないまま、なんとなくの流れのままに生きていたら何時の間にやら人に職人と呼ばれる身分となっていました。恐らくは挫折と逃避をくり返した果ての漸くに見い出した自分の分相応な身の置き場所だったのでしょう。
我が家には子供がいませんが、仮に私に娘がいて、漸く女の端くれらしく育ってくれたなあ、などと感慨頻りのある日、何処の馬の骨とも知れぬ若造を部屋に引っ張りこんだりした時、私はとてもじゃないが職人になれなどとは言えないでしょう。
「おとうさん、僕を一人前の職人にしてください。」
いや、やめた方がいい。私もいちよう借家暮しから一軒家の城住まいにはなったが、これは看護師の妻の信用と高給で建てた妻の城、今時の銀行は自営の職人などには住宅ローンさえ組んじゃくれんのだよ。
おとうさん、わたしは若者に対して明日を託せる価値を語れんのです。あなたの時代とは随分と変わってしまいました。物価は上がるのに職人の手間賃は下がりゆくばかりで、競争と要求ばかりが厳しくなる昨今です。でもおとうさん、もう一度あの時分に帰れたとして、あなたの前に立てたとしたら、私はこう答えるかもしれません。
「はい、是非弟子にしてください。」
でもモノになるまで続けられたかはわかりません。あなたの御息女と同様に。私はいい加減な人間なのですから。
そんな私も妻を娶り、本当のお義父さんと呼べる人を得ることが出来ました。なんの因果か妻のお義父さんは職人なのです。職人同士気持ちがしっくりとして関係は良好です。結局はおさまるところへおさまったという事なのでしょうか。私の運命は飽くまでも職人の義父を持つべく定められていたのです。恐らくは前世でもそして来世でも職人の義父を得ることでしょう。
職人の生きづらくなった昨今の時勢を慮れば、来世の暮らし向きを思う時、私は憂鬱になってしまう今日この頃であります。
おとうさん、あなたは職人の息子を得る事が出来ましたか?
つづく
朧げながら設定が分かってきた貴方のために、明日のよるも続きを投稿します。どうかお付き合いください。




