気になる顔
年上の女性に惹かれた。サブローは簡単な男だ。マスクをしているので顔はよく分からない。でも分かるこの人は凄く綺麗だと。目は二重でキリっとている。サブローは好きな人を上手く説明することができない。
清掃会社で働くサブローは作業着で出社してモップをお客様に届けに行ったり、深夜のコンビニや飲食店の清掃をすることがある。サブローは会社から貸してもらっている車で通っている。二階建てのプレハブの事務所に出勤して一日の業務内容確認して、部長から指示を頂いて、訪問先に車を走らせるのが日課だ。サブローは事務所にいる年上の紗子に恋をしている。サブローが入社した時にはもう紗子は事務所で経理をしていた。落ち着いた雰囲気であまり笑う人ではない。それでもサブローは惚れている。サブローは紗子に挨拶をする事を絶対に忘れない。挨拶にさらに一言付け加える日もある。とにかく好きという気持ちが伝わればいいと思っている。訪問先に渡す領収書を貰いに行く時はしっかりと紗子の目を見て受け取る。紗子はずっとマスクしているがそんなことは気にならない。少人数の職場でさらに一人で行動する事も多いのであまりお互いの事を知らない人が多い。サブローは明るさと人懐こっさがあるらしいので男の先輩に可愛がられるときがある。就職先を迷っている時、母にはカフェの店員でもなればと強く勧められていた。だが一人で黙々と作業がするのが好きなサブローはサイトで仕事内容を確認して清掃会社に応募した。とにかくサブローは焦らず紗子に思いを伝えるタイミングと場所を探している。会社から支給されているガラケーには紗子の連絡先が入っている。そこに電話してご飯に誘おうとしてみるが躊躇う。ある日の午後、サブローは珍しく事務所で、電話販売をしている。全て断られる。それでも気にせず次の相手に電話をかける。その左前には紗子がいるからだ。
退勤する時間になった。外は激しい雨が降っていた。自販機の缶コーヒーを飲んでいると、紗子が降りてきた。サブローは動いた。「雨強いので駅まで送り届けます。この雨は傘でも防ぎきれませんので」
「大丈夫です。弱まるまで待ちます」
「そんな事言わずに送らせてください、風邪引いてしまいます」
「分かりました。では、お言葉に甘えて駅までお願いします」
サブローは車を回す。助手席を開けて、紗子を座わってもらう。駅までは車で五分ぐらいで着く。短い時間の中でサブローは何を話すか考える。仕事の話にするかプライベートの話にするかなど迷った果てに出た言葉は「お腹すいませんか?ラーメン食べたい気分なんです。」誘ってしまった。
サブローと紗子はラーメン屋のカウンターにいた。ラーメンの味より紗子の横顔を目に焼き付ける事ができた。紗子のマスクをしていない顔を見たのはサブローだけだった。




