Part40 ヴェルミリアの報告
それはまさに屍のようだった。
連日の訓練により精神的に消耗したファシールとアメリは生気を失ったかのように夕食を貪っていた。
「お、おい。お前ら本当に大丈夫なのか?凄いやつれているように見えるんだが・・・一体、冒険者ギルドでどんな訓練をしてるんだ?」
ヴェルクが気を使うほどに疲弊した様子を見せるファシールとアメリはヴェルクの顔を見て正気を取り戻したようだ。
「訓練?あれは訓練なんかじゃねぇ」
「そうね。あれはもはや拷問と言っても過言ではないわ」
そう言って2人は訓練の内容を語り出した。
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初日は良かったんだよ。
ただただアリシアさんの動きについていこうと頑張るだけだったからな。
えぇ、アリシアさんは攻撃する直前に声をかけて知らせてくれて、ちゃんと手加減の仕方を分かっているからまだやる気が起きたわ。
だけど、翌日のテッドさんとの”力の差が大きい相手との戦い方”の訓練がキツかった。
アリシアさんとは違い、ギルド長は攻撃力が高いのか手加減をした攻撃を受け流しても身体に疲労が溜まっていくのよね。
そんでもって、受け流せたらさらに強い攻撃が来てすぐにバテちまうんだよな。一応、休憩時間をもらってはいるんだが・・・最近は頻度が少なくて時間も短くなってきていて大変なんだぜ?
そして、極め付けはアリシアさんとギルド長が同時に攻撃を仕掛けてくるようになったことよ。初めの方は攻撃のタイミングでアリシアの声かけも継続していたのだけれど、最後の方はしなくなってとても厳しい訓練になったのよね〜
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食事が終わっても愚痴に近い訓練の語りが終わる気配がなかったので、2人にヴェルクは問いかける。
「それで、今日は何をするんだ?聞いた限りじゃ、昨日で訓練は最高潮に達してそうだけど」
ヴェルクの問いにファシールとアメリはゲンナリとした顔を見合わせた後、ファシールが答える。
「それがわからないから身震いしてるんだよ!」
そう言いながらもファシールやアメリは黙々と冒険者ギルドへ赴く準備をしている。
2人にサボるという考えはないようだ。
「そうか。まぁ、大丈夫だろ。多分、死ぬことはないだろ。多分」
ヴェルクは気楽な様子で2人の不安を煽るように言う。
そんなヴェルクの発言を聞いた2人ともヴェルクを睨みこそすれ攻撃はしない。
少しでも体力を温存しておきたいようで、その様子を見たヴェルクは訓練の厳しさを肌で感じるのだった。
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ヴェルク宿で別れて冒険者ギルドに到着したファシールとアメリは、何故かアリシアに案内されて訓練場ではなくギルド長室へ案内される。
「おう。来たな」
「よう!お前ら、元気にしてたか?」
そこに居たのはギルド長のテッドと『紅色』の異名を持つ上位冒険者のヴェルミリアだった。
「「ヴェルミリアさん⁉︎」」
ヴェルミリアの姿を見たファシールとアメリは驚いた様子でヴェルミリアの名前を呼ぶ。
「おう!今日の訓練相手はこの私だ。本当は昨日と一昨日の予定だったんだが、ちょうど別の指名依頼が入っちまってな。本当は守秘義務があって他の冒険者に教えちゃまずいんだが、この依頼はお前たちにも関係あることだから、ギルド長への報告をお前たちにも聞いてもらおうと思ってこっちに連れてくるように頼んだんだ」
そう説明するヴェルミリアはすでに椅子でくつろいでおり、テッドがアリシアを含めて3人とも座るように言う。
「では、報告を聞こうか、ヴェルミリア。私はこの報告を聞いた後にまとめて依頼主に報告しに行かなくてはならないからな。出来るだけ詳細に頼むぞ」
「分かってるよ」
そう言ってヴェルミリアは報告を始める。
「今回の依頼内容はズバり、”ゴブリン・キングたちは一体どこから発生したものなのか”だ」
「普通に生息してたか、何処かから来たんじゃないか?」
疑問に思ったことをファシールはヴェルミリアにぶつける。
「ああ、私も依頼を受けた当初はそう思っていたんだが、よくよく考えたらおかしいことがあってな。通常、ゴブリン・キングが見つかることはほとんどないんだ。何故なら、ほとんどの場合はキング級に進化する前にロード級ゴブリンとして見つかるからな」
「ちょっと待って!モンスターって進化するの?」
ヴェルミリアが説明しているとアメリはが体を乗り出してヴェルミリアに問う。
「おそらくな。まぁ、実際に進化したところを見た奴はいないし進化する条件もわかってないが──上位以上の冒険者の殆どがそう考えている」
ヴェルミリアの答えにファシールとアメリは驚きの表情をする。
「話を戻すぞ。私はプレフォロン大森林周辺に存在する村や街に話を聞きに行ったんだが、誰一人としてゴブリンの集団を見かけたものはいなかった。つまり、突然発生したことになる。そこで私はこう考えた。ゴブリン・キングたちはダンジョンから出てきたのではないか、とな」




