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傲慢な英雄の書  作者: ヴェルク・メイカー
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part4 事情聴取

「ふう、なかなか強かったわね。」


アメリは自分の『光系統矢系魔術(ライトアロー)』がヴェルクに避けられたことを思い出しながら言う。


「そうだな。今の俺たちなら『炎系統球系魔術(ファイアーボール)』くらいの魔術一発でゴブリンを仕留められるけど、こいつはちょっと痛がるだけだったしな。」


そう会話しているとタイタ村の方からダリオンが走ってきた。


「武器を下せ!って、もう終わってたか。」


ダリオンは気絶しているヴェルクを見ながら言う。


「こいつ、なかなか強かったぜ。」


と、笑いながら言うファシールを見て、ダリオンは渋い顔をしながら、


「そうか。」


ダリオンも少し笑った。


「だが、怪しいやつを見つけたら、まずは空に魔術を打ち上げろと言っておいたはずなんだが?」


急に鬼の様な形相で詰めてくるダリオンにファシールはどう言い訳しようかと頭をフル回転させていると、


「こら!倒したんだから別にいいでしょ!」

「いてっ!ってダイナ門番は?」


ダイナの拳がダリオンに炸裂する。


「ナターシャが私の『炎系統竜巻系魔術(ファイアーハリケーン)』を見て、『こっちにヤバいのがいるんじゃないか』って心配してきてくれたのよ。」


ダイナはダリオンに説明しながら二人の方を見て、


「二人ともよくやったわね。」


と、二人を労った。


「ダリオン、あんたは今回の戦闘で仕事してないんだから、そこの男を村まで持ってきてね。」


ニヤニヤしながらダイナは言い、ダリオンは苦笑いしながら、


「し、仕方ないな〜」


とヴェルクをまるで仕留めた獲物の様に槍に乗せて運んだ。


-------------


ヴェルクは見知らぬ場所で目が覚め、自分がタイタ村の拘置所と呼ばれる場所に運ばれたと見張り番に聞かされ、戸惑っていた。


はじめに、なぜ自分を殺さないのか?という疑問が湧き出た。次に、かつて、()()がそうされていた様に、自分は拷問されるのではないか?という疑念が頭の中を塗りつぶしていった。


ガチャリ、と音が鳴りヴェルクは音の発生源を見ると、そこから見知らぬ男女の四人組と自分と相対した二人の子供が入ってきた。


「何しにきた?」


ヴェルクは自分の考えを悟られぬ様に、威厳に満ちた言葉使いをし、ファシールとアメリに向けて尋ねた。


「べっつに〜。用があるのは俺たちじゃないし。」


「そうだ。今回お前の元を訪れたのは、聞きたいことがあったからだ。」


ファシールが退屈そうに、ダリオンが威圧感を出しながら答えた。


「ふん。何が聞きたい?」


ヴェルクはダリオンに気圧されながらも、負けじと答えた。


「まず、お前たちのなんだったかな」


双頭盗賊団(そうとうとうぞくだん)


「そう、双頭盗賊団(そうとうとうぞくだん)の人数は全員で何人だ?」


ダリオンが少し詰まるが、ガリンが捕捉し尋ねた。


「…全員で11人だ。」


ヴェルクは素直にそう答えると、


「つまり、お前が最後の一人か。」


とダリオンが呟き、それを聞いたヴェルクは身震いした。こいつらは容赦がないということが、その一言でわかってしまったからだ。


「質問はそれだけか?なら、さっさと帰るんだな」


自身の恐怖を払拭するかの様に、語気を強めて言うヴェルクに対し、


「いや、まだ聞きたいことがある。」


ダリオンはそう言うと、次の質問をした。


「なぜ、この村を狙った?」


ダリオン自身は穏やかに質問していると思っているが、表情や言葉の端々から怒りが滲み出ており、後ろにいたファシールやアメリでさえ、ダリオンの圧を少し感じていた。


「っ、この村を狙ったのは、あ、ある男に言われたんだ。この村は警備に村長を使うくらい人手が少ないから、か、簡単に攻め落とせるって言われたんだ!」


ヴェルクは少しの悲鳴を上げながらも答えた。


「そいつは誰だ?」


ダリオンが詰める。


「し、知らない!本当に知らないんだ!たまたま会っただけだったし、向こうは顔も見せて来なかったんだ!」


「じゃあ、なぜその男の言うことを鵜呑みにしたんだ?」


「それは…わ、わからない。ただ、あいつの言うことは信用できると思ったんだ。」


少し落ち着き、困惑した様に答えるヴェルクに対し、ファシールが質問する。


「お前、俺と戦う前は村から離れようとしてたけど、どこに行こうとしていたんだ?」


ファシールは自身が攻撃される直前のヴェルクの行動を思い出しながら質問した。


「あの男が言うには、この村の近くの森には身を隠すのにちょうど良い洞窟があると聞いたんだ。確か、森の中心付近だと言ってたな。」


ヴェルクが素直に答えると、ファシールとアメリが少し顔を顰めた。その様子はヴェルクにしか伝わっていない。


ファシールとアメリは少し離れた場所で顔を合わせ、


「それってさ、ゴブリンの洞窟のことじゃない?」

「俺もそう思った。」


と、コソコソと会話をし始めていた。


二人の様子に気付かずダリオンは最後の質問をする。


「まあいい。じゃ、最後の質問だ。お前、あっこの二人に稽古をつける気はないか?」


「はぁ?」


最後はどんな質問をされるのかと戦々恐々としていたヴェルクは、意味のわからない質問をされて困惑していた。なぜ、侵略してきた盗賊団の首領を稽古の師範役にするのか?そんな答えが返ってこない問いが頭の中をぐるぐると回っていると、


「あの子たちはね、強いのよ。」


と、ダイナが説明し出した。


「もう普通の大人なら勝てない程度には強くなっているの。だから、そんなあの子に強いと言わしめたあなたにあの子たちの稽古をしてほしいのよ。」


そう言われてヴェルクは「あの強さのガキがゴロゴロいるわけもねえわな。」と少々腑に落ちた顔になった。


「いいぜ、その仕事請け負ってやる。」


ヴェルクは即決した。このままでは、盗賊の首領として死罪になってしまう。そこで、師範役を請け負うことで延命し、なんとかして死罪を免れようと考えていたのだ。


後に、ヴェルクはこの選択を後悔することになる。

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