Part39 依頼内容
アリシアによって案内された先は談話室ではなくギルド長室だった。
「よく来たな。ふむ、お前達は確かゴブリン大討伐に参加していたな?」
「「は、はい!」」
ギルド長室にいるのは無論冒険者ギルドのギルド長であるテッドである。
「昨日の今日ですまないが、公爵からの指名依頼を断るとはできんからな。それに、依頼期間の開始までまだ7日ほど残っている。依頼の開始までしっかりと体を休めておくように」
「ギルド長」
テッドが本題と逸れていることを察したアリシアがテッドに本題を話すように促す。
「あぁ、すまん。今回お前達を呼んだのは先ほど言った指名依頼が関係しているのだ。お前たちは指名依頼についてどのくらい知っている?
「はい。確か貴族からの依頼で基本断れないことと、困難な依頼の代わりに報酬が他の依頼と比べて良いってことは知っています」
テッドの質問にファシールがヴェルクに教えてもらったことを要約して答える。
「ほう、このギルドでは指名依頼は3年前を区切りに一度も依頼されたことはないのだが...よく知っているではないか」
「あなた達が指名依頼を知っているっていうことはヴェルミリアさんあたりから聞いたのかしら?」
うんうんと感心しているテッドとアリシアは早速といった様子で依頼の説明を開始する。
「知っているのなら話は早い。これから指名依頼の説明を始める。最初に断っておくが、この話は他の誰かに吹聴したりしないように十分に注意しろ」
「「はい!」」
ファシールとアメリの反応に満足したように説明を始める。
「まず、依頼内容だが──ダンジョンの攻略・・・いや、安全確認だ」
「「ダンジョン?」」
ファシールとアメリが疑問に思うのも当然である。
何故なら、
「あぁ、領都サリオンは安全を確保するために周辺にはダンジョンは存在しない場所を選んで造られており、本来はダンジョンが見つかることはないはずだ。だが、『紅色』と『剣聖』セドリック様がゴブリン大討伐の時にプレフォロン大森林で発見したらしくてな」
テッドは頭をポリポリと掻きながら説明を続ける。
「そこで、まずは2人にダンジョンの入り口付近の安全性を確認したいという依頼だ。ただ、安全性の確認をする範囲がこれまた厄介でな。おそらく、地下に続いてゆくダンジョンということで最低でも上から5階層分を確認──もとい、攻略してほしいということだ」
攻略を安全確認と濁していたテッドだが、最終的には攻略と言ってしまっている。
その事に気付いているのかいないのか、テッドはさらに話を進める。
「正直、俺は気が進まん。ロード級のゴブリンを倒したとしても俺からしたら2人ともまだ子供だ。だから、指名依頼に向けて2人には修行をしてもらう」
「「修行?」」
ファシールとアメリの返事にテッドはニヤリとした顔で口を開く。
「そうだ。2人には格上との戦闘を経験してもらう。まぁ、安心しろ。死なないようにする訓練で死ぬことはないからな」
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ギルド長の権力を振り翳したのか、訓練場にはテッドとアリシア、ファシールとアメリだけしかおらず、貸切状態となっていた。
「アリシアの話ではスキルなしでのアリシアの全速力の攻撃を受け切ったようだな。ただ、スキルを使用したアリシアは"速い"という次元じゃない。アリシアと同じことができるモンスターはそうそういない。が、ゼロという訳ではないからな。知らなければ瞬殺されてしまうだろう。ここで経験を積み、対策を講じるのだ。アリシア」
「はい。それではまずファシールさんに体験してもらいます」
「おう!」
ファシールはアリシアの正真正銘の全速力を受けるために槍を構える。
「では、行きます!『天駆』」
瞬間、背後に現れたアリシアがファシールに攻撃を仕掛ける。
「あでっ」
ファシールはアリシアの動向を注視していたのに──いや、注視していたからこそアリシアの姿が掻き消えたことに思考が停止してしまったのだろう。
「『天駆』」
そう呟いたアリシアの姿は再び消え、ファシールが振り向いた先には誰もいない。
「み、見えねぇ」
「うそ、まるで瞬間移動じゃない」
実際に相対しているファシールだけでなく、観戦しているアメリもアリシアの移動法を理解できずに戦慄する。
「ファシール!それにアメリ!さっき言ったように、これから一週間の間は俺とアリシアで死なないための訓練をつける!覚悟を決めろよ!」
こうして、テッドとアリシアによる地獄のような訓練が開始したのだった。




