Part38 指名依頼
サリオン領主邸から歩いて冒険者ギルドに向かっていたファシールとアメリは冒険者ギルドに行く途中でヴェルクと3人で宿泊している宿に訪れることにした。
「ヴェルクの野郎、まだこの宿に泊まってると思うか?」
「そうねぇ〜。流石にまだ宿は引き払ってないんじゃない?まだ先払いした分の日にちは経ってないしね」
ファシールとアメリはヴェルクがまだ同じ宿に宿泊しているかを考えながら歩いていると、
「おぅ!2人とも無事だったか!」
なんとも清々しい笑顔をしたヴェルクが2人の無事を祝いながらファシールとアメリに声をかけた。
「くたばりやがれ!この臆病者がぁ!」
「あっぶねぇ‼︎」
ファシールの全力パンチをヴェルクは紙一重で回避した。
「あんた、今まで何処で何をしていたわけ?私達、結構頑張ってたんだけど?」
ファシールの次にアメリがヴェルクに問う。
「いや、特に何もしてな──ぐほぁ」
アメリの問いに答えかけたヴェルクの鳩尾にアメリの拳がめり込む。
「あんた・・・元盗賊とはいえ仮にも冒険者なんだから緊急依頼を受けるべきなんじゃないの?」
「お、落ち着けアメリ。取り敢えず深呼吸しろ。このままヴェルクをボコボコにしてもいいことないぞ」
血管がはち切れそうなほどに激怒したアメリをファシールが宥める。
その後、数発の拳がヴェルクの急所を襲ったが、激痛に悶えながらも一命は取り留めた。
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「いつつ...なるほどな指名依頼を受けに行くのか。」
お腹をさすりながらヴェルクが呟く。
「あぁ、それでなんかアドバイスはないか?」
冒険者ギルドに向けて移動しながらファシールはヴェルクに尋ねる。
「そうだな、まず指名依頼ってのはほとんどの場合、拒否することができない。それこそ、国を揺るがすような事態にでもならない限りはな。それと、指名依頼は誰でも依頼できるわけじゃない。最低でも伯爵以上の権限がないと依頼することができない。あと、大概の場合は困難な依頼に比例して報酬が通常の依頼よりも良い。まぁ、これは貴族の面子を保つためだな。たまにバカな奴が安くこき使おうとすることがあるが、そいつは鼻つまみ者として他の貴族から忌避されるらしい」
「お、おう」
思っていたよりも多くを語るヴェルグに面食らった顔でファシールは返事をする。
「にしてもなんでお前ら自分が指名依頼をされるってわかってるんだ?」
「それは昨日、指名依頼をして良いか直接確認されたからよ」
もっともな疑問を呈するヴェルクに対して答えたのはアメリだった。
まだ、言葉の端々に怒りがこもっているようだが、先ほどよりは落ち着いた様子だ。
「やっぱりか・・・依頼主はここサリオン領の領主からだろう?」
「そうだぜ。でも、なんでわかったんだ?別に他の貴族かもしれないだろ?」
「そりゃあ、指名依頼をして良いかなんて尋ねるお人よしな貴族はサリオン家くらいだからな。他の貴族なら問答無用で依頼してくる。それと、俺から聞いといてなんだが依頼人の情報を簡単に明かしたらダメだろ、ファシール」
「なにおう!ヴェルクだって昨日、一昨日はうだうだ宿で過ごしてただけだろ!」
「あぁん!俺だって散歩ぐらいはしてたわ」
やいのやいのと言い合っている2人を見ているたアメリはため息を吐いた後に2人の軽く口喧嘩を止めながら、冒険者ギルドへと向かうのだった。
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ガヤガヤと今日も冒険者ギルドは活気に満ちている。
ファシール達はアリシアのいる受付に向かった。
少しの間並んでいるとファシール達の順番が回ってきた。
「あ!ファシールさん、アメリさん!お二人に内密な話がありますので少し談話室までご同行お願いします。すみません、あとはお願いします」
アリシアはファシールとアメリを談話室まで連れて行くために他のギルド員に受付の交代をお願いした。
「じゃ!あとは頑張れよ。お二人さん」
その言葉を聞いてファシールは背後に振り向いたがそこにはすでにヴェルクの姿は無かった。
何処に行ったのかと少し思案していると、
「それでは案内しますね」
アリシアの言葉で思考から戻ったファシールとアメリは黙ってアリシアに後を追って冒険者ギルドの内部へと赴くのであった。




