Part12 模擬戦 ファシール vs アリシア
模擬戦が開始してから10秒ほど、ファシールとアリシアは動かない。どちらも相手の出方を伺っているようだ。
「では、いきます!」
動いたのはアリシアである。ファシールに向かって高速で移動し、短めの木剣を右から左へと振るう。
対して、ファシールは、
「ふん!」
木槍の刃の部分でアリシアの短めの木剣を下へ逸らし、そのままの勢いで石突を使いアリシアの肩へと攻撃を入れようとするが、アリシアは短めの木剣を振るった勢いのまま回転し、これを回避する。
さらに地面に手をつき、回転の勢いをそのままに足でファシールの頭に蹴りを入れようと左足で攻撃するが、ファシールは左腕で防ぐ。アリシアは左足が掴まれないように、左足に力を込めファシールを蹴り飛ばす様にファシールから距離を取る。
この間、僅か3秒間の出来事であり、戦闘をしない文官などでは解説がないと何が起こっているのかぎわからないようなレベルである。ただ、解説が間に合うような速度ではないのだが...
アリシアは、ファシールの『炎属性魔術』の扱いを見てある程度戦うことができることは予想していたようで、ファシールの防御の精度を見てもさほど驚かない。一方、ファシールはアリシアの移動速度を見て、アリシアが自身の速度を上回っていることを予感し、自分から攻撃するのではなく、カウンターに重きを置いた立ち回りを徹底しようと考えていた。
「いい反応だ。少し速度を上げるぞ?」
口調が変わり楽しそうにそう言いながら、アリシアは懐から2本目の短めの木剣を取り出し、両手に短めの木剣を持ち、双剣のように構える。
再びアリシアはファシールに向かって走り出す。ただし、先ほどと比べて1.5倍程の速度で。
アリシアはファシールの脇腹を左手の短めの木剣で突くように攻撃する。ファシールは初めと同じように槍で短めの木剣を逸らして回避しようとするが、ファシールの目の前に短めの木剣があることに気付く。
ファシールは目の前に現れた短めの木剣に気を取られ、アリシアの突きを逸らすことができずに脇腹に直撃する。ファシールから「ぐぅ」と声が漏れ、痛みによって身体が硬直する。
その隙をアリシアが見逃すはずもなく、アリシアは右手を地面につき、ファシールの足を払おうとする。
痛みによる硬直から復帰したファシールは、
「『一突』」
技能を発動し、攻撃してきているアリシアの足を狙う。
しかし、アリシアはファシールの『一突』に気付き攻撃を中断、自身が放り投げた短めの木剣を空中で拾い、ファシールから少し距離を取る。
その後、アリシアはさらに速度を上げ、ファシールに攻撃を仕掛ける。冒険者の中でも、中位冒険者以上の実力がないと、視認できないような速度であった。アリシアは左手の木剣でファシールの左肩から袈裟斬りに、右手の木剣でファシールの右の腰から逆袈裟に斬りつけるよう短めの木剣を振るう。
ファシールは半歩後ろに下がることでアリシアの攻撃を避け、肩を使ってアリシアの薄い胸に攻撃し吹き飛ばすが、ファシールはその感触に違和感を覚える。
一方、反撃されると思っていなかったアリシアは、吹き飛ばされた勢いを使い宙返りして着地する。
「いい!とてもいいぞ!ファシール!今からスキルなしの最高速で貴様に攻撃する!受けてみろ!」
そう興奮するように言いながら獰猛に笑うアリシアを見たファシールは、無言で槍を構える。
もはや、二人には周りの冒険者の歓声などは聞こえていない。
瞬間、時が止まったように動かなかった二人が動き出す。
アリシアがファシールに向かって走り出す。アリシアが狙うはファシールの鳩尾と右腹への超高速の突き。ファシールはアリシアの視線から予想した攻撃の場所を槍で守ろうとして、アリシアと同じ速度で短めの木剣がファシールの顔に向かって迫ってきていることに気付く。
そうして、先ほどファシールが感じた違和感の正体がわかる。アリシアは懐にもう一本短めの木剣を隠し持っていたのだ。
アリシアは駆け出すと同時に三本目の短めの木剣を投擲し、一本の槍だけでは防御しきれない三点同時攻撃を無理矢理実現させていたのだ。
ファシールは即座に槍による顔の防御は不可能と判断して、槍をアリシアが手に持つ短めの木剣による攻撃を防ぐことにまわす。そして、顔に迫っていた三本目の短めの木剣は、
「ガア゛ァァ──ッ!」
ファシールが声を出したかと思うと、ファシールは三本目の短めの木剣を口で受け止めて、アリシアによる最後の攻撃を見事に防ぎ切った。
「そ、そこまで!」
その光景を見ていたアメリは審判として、模擬戦の終了を宣言した。それと同時に
「「「「うぉぉぉ〜〜〜‼︎‼︎」」」」
ファシールとアリシアの模擬戦を見ていた冒険者の歓声と割れんばかりの拍手が訓練場を包み込んだ。




