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第6話:神州新生、碧の絆




 ―― 帝の詔書が発せられた日、ヤマト国は騒然とした。鬼の王との争いの終結と、建国神話が"実話に基づく"と公表されたのだ。――


 保守派は『神州の誇りが世界を主導する!』と強気に唱え、革新派は『世界の中心など諸外国が認めぬ!』と反発。

 国外領の全面撤退では、その立場が逆転し、保守派が『神州たるヤマトが領土を捨てるのは屈辱だ!』と猛反発、革新派は『国外領がヤマトの身の丈に合わぬ領域と帝が認めた!』と擁護した。

 両派の論争は、ヤマトの未来を揺さぶった。


 詔書は"碧の月"を"高天原"と定め、名称を統一。

 帝、西園寺、サーナの密会で決したこの勅令は、サーナが"駐ヤマト高天原全権御使代理"としてマスコミの前に立つ準備を加速させた。

 彼女は『偉そうな肩書きは恥ずかしいのぅ〜。』と笑いつつ、少女の姿で記者会見に臨んだ。高天原の統治層から正式な御使が派遣されるまで、サーナは暫定的にヤマトを支える。

 その背後では、捕らえた前任四鬼王に正規の封を施し、力を封じた。鬼の王の力の源「鬼神玉」を没収した事実は、帝とサーナら一握りの者しか知らなかった。

 鬼神玉は、四つの属性ごとに異なる鈍く光る拳大の珠で、触れると熱を帯び、微かな振動を放つ不思議な宝玉だった。


 一方、高天原の"王選公会"が指名した新四鬼王がヤマトに来参する。約定に基づき、ヤマトの国防を担う女性達。

 鬼神玉を継承し、正式な鬼の王となった彼女らは、後年"三度に及ぶヤマトと諸外国連合の戦い"で最前線に立つ存在。

 彼女たちの姿は、十代半ばの少女そのもの。だが、その瞳には鬼の王としての"誇り"が宿っていた。






 一方、西園寺は伊藤と連携し、協力者を集めた。先代の水の鬼の王と直接接触を持った経験がある海軍の東郷平八郎を味方に引き入れ、伊藤の政敵である大隈重信、板垣退助、尾崎行雄、犬養毅、高橋是清らを巻き込んだ。だが、陸軍の協力者は少なく、後に禍根となる。


 ヤマト国内では、併合推進派や旧大韓帝国の支配層が詔書に猛反発。推進派は『内地拡張の放棄はこれまでの努力の放棄であり屈辱だ。』と憤り、旧支配層は"換骨奪胎でヤマトと自分たちの立場を密かに逆転する野望"を打ち砕かれ、帝への憎しみを募らせた。

 同時期、ヤマトの国家予算の三割が半島に流れ、東北や北海道の経済発展を阻害し圧迫していた事実も明るみに出たため、併合推進派は釈明に追われる事となる。


 諸外国の大使は詔書を嘲笑した。『ヤマトの皇帝は現実逃避に走った。』『やはり子供の国だった。』と電文を飛ばし、大英帝国は『建造を依頼されて戦艦を造り、送った。だが、こんな相手なら送るべきではなかった、間違いだった。』と嘆いた。


 だが、中華民国の総統・袁世凱は目を白黒させた。その内容である"台湾、租借地の返還。朝鮮半島の民国政府の管理下での再独立と不可侵条約"は、成立すれば和清戦争以来の屈辱を覆す外交的成果となる代物だった。袁世凱は即座に交渉を命じた。


 1915年2月、建国記念日の当日。帝の詔書によって代償の一部が明らかとなる。

 高天原の四鬼王の領地をヤマトの租借地とし、ヤマト国民なら目的によるが入場可能に。高天原の統治層や王選公会らとの交渉の末、先代四鬼王の責任として領地を貸し出し、"高天原領総督"の名の下に支配を受ける。

 また、時の王選公会メンバーは引責辞任し、後任は総督の指揮下に。租借地の広さは台湾と朝鮮を遥かに超え、文字通りの"無尽蔵の資源"が埋まる未開の地だった。それらの資源を運ぶ専用の天浮舟、そしてそれを運用する兎人族の者も貸与され、その兎人族の中にはヤマトに住み着く者も現れた。


 一方その頃、袁世凱は南京で交渉に臨んだ。ヤマト側は高天原領の広さや詳細を知り、台湾と朝鮮の返還に関して焦りがなかった。

 僅か3日で交渉は終わり、「南京和華条約」が成立。1915年末までにヤマトは撤退し、中華民国がその地の支配権限を引き継ぐ。

 だが、袁世凱は後に高天原領の規模を知り、『倭国に一杯喰わされた!』と悔しがり、その無念さは亡くなるまで続く事となった。


 台湾の返還はスムーズに進められたが、朝鮮では現地民が進駐してきた張作霖の満州軍閥に抵抗。

 伊藤と西園寺の連名による指示は"暴動鎮圧を張作霖に一任する"というモノだ。


 半島での治安維持の過程で流血沙汰が続き、旧大韓帝国支配層はヤマトに保護を求めたが、『半島で進駐軍に協力するか、ヤマトの民として穏便に暮らせ。』と突き放された。

 結果、発狂し、説得役の役人に襲いかかる者もいた。マスコミを通じてこれらの事実が明らかとなると半島離脱・再独立させるべしとの声が高まり、福沢諭吉の論文が見直された。






 張作霖は袁世凱の許可を得て、旧支配層を傀儡に朝鮮を支配。1916年、大韓帝国は再独立したが、張作霖の「大韓帝国大総監」就任により中華民国の属領となった。

 中華民国は台湾を直轄地とし、1895年以前の支配範囲を名目上回復した。


 ヤマトの領土は本土と離島のみに縮小。陸軍は屈辱を噛みしめたが、先代鬼の王らとの戦いの結果として、戦力不足でどうにもならなかった。

 海軍は水の鬼の王との戦いで艦艇を失ったが、新水の鬼の王―― "当時の姿"は凛とした小柄な少女 ――が超常の力で艦を浮揚。東郷平八郎は『沈んだ艦が次々浮かぶとは。道具も使わず恐ろしい力だ。』と唖然とした。

 修復された艦は呉や神戸で改装され、亡魂は護国神社に祀られた。

 その際に見ていた一部の兵が少女を罵ると、東郷は叱責した。



『結果として兵らを死地に追いやったのは我ら首脳だ。彼女は前任者とは別人。非難するのは筋違いだ。』



 そんな論争をみて、少女は静かに東郷に告げた。



『我らは前任の罪も背負う身。あまり兵を叱らないで欲しい。』



 その言葉の意図を理解した東郷は苦笑し、頷いた。


 新四鬼王は畏怖の眼差しを浴びながら、ヤマト陸海軍の再建を陰で支えた。

 その姿を見て、帝は彼女らの"誇り"をこう評した。


『長年、鬼の王の候補として覚悟を重ねてきたのだろう。今の重荷も受け入れているのだ。』






 ―― ある時、東郷は前任四鬼王の行方を気にしていた。

 サーナに封じられ、帝に処遇に関する決定を委ねられたと聞くが、処断されたのか? 疑問を抱きつつ、戦艦三笠と河内の浮揚を報告すべく皇居に参内する。

 宮中で待つ間、不意に小柄な侍女に声を掛けられた。



『瀬戸内で会った気骨ある男と、こうして再会できて嬉しく思う。敗者となり力を封じられたが、汝の顔を見れた。心が喜びで満たされたぞ。』



 東郷は立ち止まり、侍女を凝視。彼女は瀬戸内海で出会った水の鬼の王だった。

 今は"水梨伊鈴"と名乗り、サーナに敗北後、御用邸に一時軟禁されるも、西園寺の斡旋で宮中で働く侍女となったと語った。

 なお「水梨」は"水の鬼の王としての資格が無くなった"水無し"の意を内包した"意味らしく、「伊鈴」は伊勢神宮・内宮を流れる五十鈴川に由来。帝の意地悪な命名に、彼女は自嘲した。

 東郷は『皇太子殿下時代を思い出す。実に陛下らしい。』と内心呆れた。


 帝は海軍の報告を受け、現状では領海防衛が限界と察した。そして、海軍首脳部に新計画を命じる。

 先代水の鬼の王(=水梨伊鈴)との戦いで「大艦巨砲主義」の限界が露呈。

 三笠や河内などが搭載している305㎜砲すら『蚊が刺す程度ですよ。』と、特に新しい水の鬼の王に笑われた。


 これらの戦訓から、海軍は巡洋艦、駆逐艦、海防艦を重視し、"機動防衛"戦略に転換。

 金剛・比叡(建造中だった榛名・霧島も含む)は維持するが、設計・建造途上、または計画中だった扶桑型や長門型は正式に建造中止。

 航空機運用試験艦(後の鳳翔)の設計も始まっていたが、サーナは航空機を『空飛ぶ棺桶ではないか?』という感想と共に吐き捨てた。

 高天原の民にとって、空は選ばれし者の領域だった。






 1918年、欧州の大戦が終結。オーストリア・ハンガリー二重帝国は分割解体され、ドイツ帝国も同様に南のバイエルンと北西部のノイエ・プロイセンに分裂し、民主制国家として再出発。

 戦争中に成立したソビエト連邦の台頭を恐れた欧米諸国はドイツ帝国北東部を併合したポーランドやバルト諸国を支援。ヤマトは一歩引いた立場を保ち、高天原との盟約を深めた。


 一方、サーナはヤマト国内の半島併合推進派の残党を論破し、彼らの中の狂気を引き出して尽く気絶させた。

 その片手間で、マスコミの前では『高天原はヤマトと共にある。』と述べて不安を払拭。だが、補償の不透明さや彼女の少女らしい容姿に、悪意ある追及もあった。

 しかし、そんな悪意をサーナは「蓋を開けるまでのお楽しみ。ヤマトの損にはならぬ」と笑い飛ばした。


 高天原の正式な御使は1920年にヤマト国に着任する事が決まる。

 ヤマトと高天原の正式な国交樹立は、西園寺の準備委員会と兎人兵の警護のもと、粛々と進んだ。


 それと同時に反動勢力による暗殺計画を何度も防ぎつつ、ヤマトは新たな時代へ踏み出していく。






 ー その7につづく ー

 



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