6.温もり
セリーヌが得意げに料理を作ると言い出したが、鍋の中から謎の黒い物体が生まれた。
「ええっと、これは……新しい調合魔法の試作品?」
「いや、ただの失敗作だろ!」
二日目、セリーヌがアルフレッドの魔力を分析すると言い、無理やり彼の手を握った。
「やっぱり、すごい力を感じる……こんな魔力、初めて!」
「あ、あんまりジロジロ見るなよ!」
三日目には、セリーヌがアルフレッドのために強化魔法を使おうとして魔力を暴発させ、周囲の草木を全焼させた。
「ごめん、ちょっと魔力が余っちゃった!」
「お前、ほんとに天才魔導士なのかよ……?」
旅を共にするうちに、セリーヌは次第にアルフレッドに対する見方が変わっていった。当初はただ「興味深い存在」として彼を観察していただけだったが、彼の誠実さや強さ、そして時折見せる不器用な優しさに触れるうちに、心の奥底で何かが芽生え始めていた。
ある夜、焚き火の前で二人が話していると、セリーヌはぽつりと呟いた。
「ねえ、アルフレッド。」
「なんだ?」
彼は焚き火を見つめたまま答えた。
「あなた、どうしてそんなに頑張れるの?」
アルフレッドは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに静かに答えた。
「俺には、守りたいものがあるからだ。」
「守りたいもの……?」
「村の人たち、俺を信じてくれた仲間……それに、これから出会う誰かのためにも、俺の力は必要だと思ってる。」
セリーヌはその言葉に胸を打たれ、焚き火の光で赤く染まったアルフレッドの横顔をじっと見つめた。
「……変な人ね。」
「は?」
アルフレッドは顔を向けたが、セリーヌはふわりと笑ってごまかした。
翌日、二人は補給のために小さな町に立ち寄った。セリーヌが楽しげに市場を歩き回る姿を見て、アルフレッドは小さくため息をつく。
「まったく、こんなに自由に振る舞うなんて、少しは遠慮しろよ。」
だが、セリーヌは振り返ってウィンクしながら言った。
「アルフレッド、あなたこそ、少しはもっと楽しんだらどう?」
セリーヌは少しからかうように言うと、笑顔を浮かべた。その笑顔に、アルフレッドは思わずドキッとする。しかし、すぐに顔を背けて、無理に平静を保とうとした。
「俺は別に楽しむために旅をしてるわけじゃない。」
「でも、時には楽しむことだって大事よ。」
セリーヌは続けて言うと、アルフレッドの肩をポンと叩いた。「どうせ、せっかくの旅なんだから。」
アルフレッドはため息をつきながらも、どこか心地よい気持ちを感じていた。セリーヌと過ごす時間は、どこか不安定で、でも次第に彼の中で心地よくなってきていた。
町を歩いていると、セリーヌはある小道を見つけ、嬉しそうに駆け出して行った。アルフレッドも慌ててその後を追いかける。
「待てよ、何をそんなに急いで――」
セリーヌが指さした先には、小さな屋台があり、そこにはかわいいアクセサリーやお守りが並んでいた。セリーヌは目を輝かせてその一つを手に取った。
「これ、すごく可愛い! ちょっと見てみて!」
「そんなに見てどうするんだ?」
アルフレッドが少し戸惑いながら言うと、セリーヌはにっこりと微笑んだ。
「うーん、ただなんとなく。なんか、私、こういう小物が好きなの。」
その後、セリーヌはお守りの一つを手に取ると、アルフレッドの方に向かって軽く振った。
「これ、あなたに似合いそう。どう?」
アルフレッドは目を見開いた。自分が似合うと思われるものを、何も言わずに選んでくれたことに驚き、そしてどこか嬉しくなった。
「俺に似合うって……お前、俺のことよく見てるんだな。」
セリーヌは頬を赤くして、少し照れくさそうに言った。
「うるさいわね、そんなに驚かないでよ。ただ、なんとなくね。」
アルフレッドはその言葉に少し心が温かくなった。彼の顔には、セリーヌの気持ちが少しだけ垣間見えた気がした。しかし、それを認めるのが怖くて、彼は無理に振り払うように話題を変えた。
「まあ、気が向いたら買ってみろよ。」
セリーヌは嬉しそうににっこりと笑った。
「ありがとう、アルフレッド!」
その日の夜、二人は宿屋の小さな部屋で、暖炉の火を囲んで静かな時間を過ごしていた。セリーヌはお守りを大事に手に取って見つめながら、ふとアルフレッドに言った。
「ねぇ、アルフレッド。あなたが思う『守りたいもの』って、具体的には何?」
アルフレッドは火を見つめてしばらく黙っていた。
「俺の力を、ただの破壊のために使いたくない。誰かを守るために、使いたいんだ。」
セリーヌはその言葉を静かに聞き、少しだけ笑みを浮かべた。
「それ、すごくカッコいいわね。」
「カッコいいだなんて……ただの思い込みだ。」
アルフレッドは照れ隠しに言うと、肩をすくめた。
そのとき、セリーヌは少し顔を赤らめながら、視線をそらした。
「……私も、そんな風に誰かを守れるようになりたいな。」
「お前なら、きっとできるだろ。」アルフレッドはその言葉を信じていた。セリーヌの力は確かだ。そして、彼女の内面にも強さを感じていた。
セリーヌは少し黙ってから、また顔を上げて言った。
「……ありがとう、アルフレッド。あんたがいると、なんだか安心するわ。」
その一言に、アルフレッドは胸が高鳴るのを感じた。彼は無意識のうちに目を見開き、そしてすぐに顔を背けた。
「何だよ、急に……。」
セリーヌはくすっと笑うと、少しからかうように言った。
「どうしたの? 照れてる?」
アルフレッドは言葉を詰まらせ、必死に素っ気なく返した。
「別に、照れてなんかないって。」
セリーヌはそれを見て、さらに嬉しそうに笑った。彼女のその笑顔が、アルフレッドの心に確かな温もりを与えていた。
旅は続く。二人の絆も、少しずつ強くなってきていた。アルフレッドは自分の力を使うための道を探し続け、セリーヌはアルフレッドの隣でその力を見守り、共に進む決意を新たにしていた。
そして、二人の間には、次第にかけがえのないものが育ちつつあった。それは友情なのか、それとも――。