4.アルダールへの道
赤の洞窟を出たアルフレッドは、強く吹き抜ける風を感じながら、遠くに広がる山々を見つめていた。その風景は、これまでに見たどんな景色よりも鮮やかで、美しかった。力を手に入れただけではない。自分の中で何かが変わった――そう感じたからだ。
「これが……俺の新しい一歩なんだな。」
胸の奥で炎が静かに揺らめいているのを感じた。それは以前のような暴れ回る力ではなく、穏やかで力強い炎だった。
アルフレッドは旅を再開するため、地図を頼りに北へと進んでいた。赤の洞窟で得た力はまだ完全には使いこなせないが、体に馴染みつつあるのが分かる。彼は歩きながら、指先に小さな炎を灯し、消す練習を繰り返していた。
そのとき――。
「おい、坊主! そこの道は通らせねえぞ!」
突然、前方から荒々しい声が響いた。道を塞ぐように現れたのは三人のならず者たちだ。体格の良い男たちはボロボロの革鎧を着ており、それぞれ剣や棍棒を手にしていた。
「旅人か? だったら通行料を払っていきな!」
リーダーらしき大柄な男がニヤリと笑い、アルフレッドを見下ろす。
アルフレッドは冷静に相手を観察した。彼らは村の近くにいる盗賊だろう。精霊から力を得た今の彼にとっては脅威ではない。だが、力を試すために戦うのは違うと感じた。
「通行料なんて払うつもりはない。俺はただ、この道を通るだけだ。」
アルフレッドはきっぱりと言い放ち、前に進もうとした。
「生意気なガキだな!」
怒声と共に、男の一人が棍棒を振りかざして襲いかかってきた。しかし、その一撃は空を切った。アルフレッドが素早く身をかわしたのだ。
「忠告したはずだぞ。」
アルフレッドは静かに言うと、手のひらに小さな炎を灯した。その青白い輝きに、男たちは一瞬ひるむ。
「おい、あいつ……魔法使いだ!」
別の男が叫ぶ。
「そうだ。俺は魔法を使う。そして、この力を無駄に振るうつもりはない。でも、俺を邪魔するなら――覚悟しろ。」
アルフレッドの声には揺るぎない自信があった。その炎が次第に大きくなると、男たちは後ずさりし始めた。
「ち、ちくしょう! やめておけ、あいつは本物だ!」
リーダーがそう叫ぶと、三人は慌てて逃げ去っていった。
アルフレッドは炎を消し、静かにため息をついた。
「力を見せつけるだけで済んだな……でも、こういう奴らばかりじゃないかもしれない。」
力を持つということ。それは常に選択と責任を伴う。それを実感した瞬間だった。
アルフレッドの旅は続いた。目指すは北方の神秘の都市アルダール。その地には、彼の力の正体を解き明かす知識と、さらなる試練が待ち受けているはずだ。
彼は振り返ることなく前を見つめる。村を離れたときにはただの少年だったが、今の彼は少しずつ変わり始めている。焔の継承者として、自分の力を認め、受け入れる覚悟を持った青年として。
「俺はまだ旅の途中だ。でも、いつか――必ず自分の力の意味を見つけてみせる。」
そう呟くアルフレッドの目に、遠くの地平線にかすかに浮かぶアルダールの影が映るのだった。