1.焔の継承者アルフレッド
その村では、時折、雷鳴のような音が響き渡ることがあった。アルフレッドが森で魔法の訓練を始めるときだ。
アルフレッドは16歳の少年だ。黒髪と褐色の肌に筋肉質な身体を持ち、村の誰もがその力強い姿を頼もしく思っていた。しかし、それ以上に彼を特別たらしめているのは、計り知れない魔力だった。
ある日、アルフレッドはいつものように森の奥で魔法の訓練をしていた。彼の前には巨大な岩があり、その表面には焦げ跡が散らばっている。
「くそっ、まだこんなものか……」
額に汗をにじませながら、アルフレッドは自分の手を見つめた。その手から放たれる魔力の炎は、確かに強力だったが、彼の内に眠る力はそれ以上のはずだと感じていた。
「アルフレッド、少し休んだらどうだ?」
突然、木々の間から低く温かい声が響いた。現れたのは村の長老、リカルドだった。白髪の長髪を持つ老紳士で、アルフレッドの才能を最初に見抜いた人物でもある。
「リカルドじいさん、僕には時間がないんだ。もっと強くならないと……」
アルフレッドの声には焦燥が滲んでいた。
「焦るな、少年。お前が持つ魔力は、簡単に扱えるものではない。お前の魔力は“焔の継承者”と呼ばれる力だ。その力が完全に目覚めるとき、お前の命運もまた大きく揺らぐことになるだろう。」
リカルドの言葉に、アルフレッドは息を呑んだ。“焔の継承者”――それは、この世界にごく稀に生まれる存在で、破壊と再生の象徴とされている。伝説では、その力を持つ者が世界を救うとも、滅ぼすとも言われていた。
「僕は、この力をどう使えばいい?どうすれば……」
アルフレッドの声が震える。彼はこれまで、この力に振り回されるような人生を送ってきた。子どものころから、彼が感情を激しく揺らすたびに火が燃え上がり、周囲に被害を与えることもあった。それを恐れて村を出ていった家族もいた。
リカルドはしばらくアルフレッドを見つめ、深く頷くと、杖を地面に突き立てた。すると、周囲の空気がピンと張り詰めたように感じた。
「ならば、答えを探す旅に出ろ。お前の力は、この小さな村では測り切れない。世界を知り、自分自身と向き合うのだ。」
「旅に……?」
アルフレッドは戸惑いながらも、次第にその言葉が胸に響くのを感じた。
「北に広がる大陸の中心には、神秘の都市アルダールがある。その都市には、世界のあらゆる知識が集まる図書館があると聞く。そこでなら、お前の力の正体を掴めるだろう。」
アルフレッドは拳を握りしめた。心の中に決意の灯がともる。
「分かった。僕は行くよ、アルダールへ。」
リカルドは穏やかに微笑みながら、ポケットから古びた地図を取り出した。それは、彼が若い頃に旅をしたときのものだという。
「これを持っていけ。お前にはまだ旅の経験がないだろう。この地図がきっと助けになる。」
アルフレッドは地図を受け取り、頭を下げた。そしてその夜、彼は旅立つ準備を整えた。
—翌朝、村の入り口
アルフレッドはリュックを背負い、村の入り口に立っていた。村の人々が見送りに集まっている。その中には、彼を恐れて避けていた人々の姿もあった。
「アルフレッド、気をつけてね!」
幼い頃からの友人であるエミリアが声をかける。
「ありがとう、エミリア。僕は必ず帰ってくる。そして、その時には……僕がこの力を制御できるようになったって証明してみせるよ。」
彼はエミリアに笑顔を見せると、振り返らずに歩き始めた。
アルフレッドの旅は、まだ始まったばかりだった。その先には、彼の力を狙う敵や、彼自身が知らない真実が待ち受けている。しかし、アルフレッドは確信していた。この旅を通じて、彼は自分自身と向き合い、世界の運命をも変える力を手に入れるのだと。