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二重季節 -Alignment Minds  作者: 真代あと
マイナス一話目 季節前後 -Piece of Memory
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-1-49 とある儀式

 町を西に出て、少しした所には川が流れている。

 私達四人、その先頭を歩くイスクによると、目指す場所はその川の少し上流なんだとか。

「何をする気なんだ?」

 そう訊いた私に、

「まあまあ、着けば解るって」

 イスクはそう言葉を返すだけで。だけどちょっと様子が違う。背中には三本の細長い棒を背負っていた。実験とやらに関係があるんだろうか。

 まあ勉強漬けなのも疲れるし、気分転換に歩くのもたまにはいいだろう。とは思うけど――。

「……」

「……」

 後ろを歩く女子二人。無口っ子と人見知りっ子。全く会話というものが発生する気配がない。

「あー、トオナ? 暑い中歩いているけど大丈夫か?」

「へ? あ、うむ、大事はないぞ」

 緊張しているなあ。大事ありありだ。

「シズホはどうだ? 暑いけど」

「夏に暑いのは当たり前。なんで訊くの?」

 いつも通りの愛想のなさで、短と言葉が返って来る。

 そうしてそれきり。後ろ二人はまた黙り込んだまま。

(なあイスク、こんな事になるって、解っていたんじゃないのか)

 小声で、隣を歩くイスクに耳打ちをする。

(ああ。流石に俺もびっくりだ。女三人寄ればって聞いた事あるんだけどなあ)

(残念ながら女は二人だ。姦しくなるには足りないな)

(それか!)

(そうだ)

「何をこそこそと喋っておるのだ二人して」

「「うおっ!」」

 気付けばトオナが、私の真後ろに居てじっとりとした眼を私達に向けていた。

「ああ、いや特に深い意味は、なあ」

「そうそう。今日もいい天気だなー、的な?」

 適当に誤魔化そうと言い訳をするけど、

「……怪しい、怪しい、怪しい」

 トオナの少し後ろに居たシズホも、じっとりとした眼をして私達を見ていた。眼鏡の向こうの威圧感が、なんだか凄い。

 これはまずい。男組の圧倒的不利だ。

「あーまあここいらでいいだろ。俺準備するな!」

 そう言ってイスクが川の方に逃げた。全部私に押し付けるつもりだ!

「のう、何を喋っておったのだ。事によっては折檻をせねばならぬがの」

 ……恨むぞイスク。あとで絶対仕返しするからな。


 二人の追及を、なんとか誤魔化し続けていたんだけど。

 ……もう喋ってしまってもいいんじゃないかな。よくよく考えると別にそれ程やましい事を話していた訳でもないし。そもそも私も巻き込まれたような形だしな、責任は全部イスクに押し付けてしまおう。と思い始めた頃になって、

「準備完了だぜ。みんな」

 足元を濡らし、川に入っていったイスクがこちらに向いて呼んだ。はてさて一体何をしていたのかと思って見ると。

 川に少し入った所に、小さく三つの槍が突き立てられていた。丁度三角の形に。そしてその真ん中にイスクは立っていた、

 これで一体何を始めると言うのか。

「なあそろそろ教えてくれないか。何をする気なんだ」

 今まで何も教えてくれなかった。それを問う私に、

「実験を兼ねて、納涼だ」

 そうイスクは言った。

 そうしてイスクは何やらその場で呟き始める。

 実験と言った。ならこれは術式の詠唱だ。何を現す術式か、ここからだと殆ど聞こえないから解らないんだけど。

 まあそれはいい。どうせすぐに解る事だし。

 ……ところが、その詠唱が少し長く思える。川には三つの槍。三角――。

 これはもしや、詠唱以上の事、“儀式”をやろうとしているのでは。そう思っていると、三つの槍先にうっすらと光が。

 そして、 

「現せ――冷氷!」

 そのイスクの言葉と共に、槍の内側の水が凍り始めた。

「おお、これが……」

 トオナが儀式による法術を目にして感嘆の声を上げる。確かにこの暑さで、目の前で氷が出来るとはな。

 成程、だから実験か。

 イスクには冷の源素は扱えない。やろうと思えば、今のような儀式が必要になる。

 詠唱では足りない分を、更なる意味付け、儀式に昇華する事で可能にすると。

 で、結果出来たのがこの三角形の氷。立てられた三つの槍の内側だけ、川の水が凍っていた。

「が、ががが――」

 突然、イスクが奇怪な声を上げる。

 ……いやそれもそうか。イスクは三角の形に立てられた槍の中心に居たんだ。その形に水が凍っている訳だから、当然その中心に居るイスクも術に巻き込まれていた訳で。

「た、助けてくれえ――」

 今の季節は夏。勿論普通に外は暑い。だからといって、術式の中心――凍った川のど真ん中に居るイスクが寒くはないという事でもないらしく。

 ……どうしてやる前に気付かなかったんだろうな。馬鹿かと。

「存分に納涼しているようだけど、何か?」

 見たまんま、暑そうにしている様子のないイスクに、突き放すように言ってみる。

「納涼、じゃねえ、凍えてるんだよお――」

 氷に閉じ込められ、体中をがたがたと震わせ、序でに震えた声で答えた。

「まったく、世話の焼ける……」

 取り敢えず川に入って、凍った所の一部を叩き割って、イスクを引きずり出した。手を掴んだ瞬間に、

「冷たっ!」

 と声が漏れる程の体温だったので、放っておいたら本当凍え死んでしまっていたかも知れないな。まあ、命の恩人という事で、私達に貸しが一つ出来たな。


 ――で。

 冷やした氷は、寒さで震えていたイスクの横で、しっかりと私達で美味しく頂きました。

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