-1-45 化龍娘
「行っくよー」
ツウカさんの攻撃宣言。
すう――と大きく息を吸う。肺いっぱいになっているように。それで一体、何をするか――。
「ごがごごごー!!」
なんと! 吐いた息がそのまま炎になって、私達に迫った!
「うおあっ!」「っ――!」
慌てて後ろへ下がる私達。そりゃあそう、こんな攻撃予想外――。
いや、そういえば忘れていたな。ツウカさんは化龍の血を引いているという事を。
仮にもそれは龍、伝説種の類のものだ。とある所では神と同列とも言われ、とある所では非常に強い魔の者としても語られている。という事は、これが妖怪としての力という事か。明らかに人とは違う異能を持つ、それがこの妖怪の力だと。人と殆ど同じ姿をしていても――。
「ふっふっふ、どうですかどうします? 近寄れなければ、攻撃をする手段も限られるでしょう?」
確かに、近寄れなければ武器を持っていても意味がない。ならば遠くから、法術による攻撃しか、仕掛けるすべがないか。
「イスク、集中砲火で」
同じ答えに、シズホも至ったのか。イスクに指示を出す。
「おっけい!」
西の国での、“了解”という意味。そうしてイスクは、術力の塊――術塊をツウカさんに向けてばら撒いていく。
「っと、これは――」
反撃を受けて、ツウカさんの攻撃の手と口が止まる。
「容赦ないですねー」
だけどツウカさんは、余裕にも見えるように術塊をかわしていく。それもそう、中心地がイスクという、言わば点であるのだから、そこから直線の攻撃が放たれた場合、遠くへ行く程間が開いて避けやすくなるのは道理。
そんな攻撃法術を連発する。これはどういう事か。只意味もなく攻撃をしているとは思えないけど。
「ぎゃんっ!」
その時、突然に悲鳴が。ツウカさんの声。そうして、前のめりにばたんと倒れ伏した。
これは……成程解った。前のめり――という事は、後ろから何かを喰らったんだ。
その正体はイスクの放った術塊、それを伝ってシズホの魔法が動いていた訳だ。
即ち、ツウカさんが避けた術塊の中にシズホの魔法による術塊を潜ませて、避けたと思った背後から術塊を発現させてぶち当てたんだと。
奇襲であり一撃必殺か。それを受けて、ツウカさんは見た通りにぶっ倒れている。
「う、うーん」
だけどそれも少しの間。化龍としての頑丈さか、それとも妖怪としての強さなのか、術塊を喰らってもツウカさんすぐに身を起こし、立ち上がった。
「いやいや、ちょいと甘く見ていましたね。法術師相手に遠距離戦を挑んだのが間違いでしたか」
あっはっは、と笑いながらツウカさんが語る。いや遠距離がどうよりも、シズホの能力が強過ぎるとでも言うか。奇襲や不意打ちに使えばまあこの通り、強めの妖怪だろうとお構いなしとはな。
「まあそろそろ暗い時間になるでしょうし、私もちょっかいを掛けるのを抑えておきましょうか」
それくらいの分別は出来るんだ。まあそう、ツウカさんは半分は化龍で、あと半分は人間の血を引いている訳だから。
つまりは半人間、そして半妖怪。だからこそ、人の気持ちもある程度は解るし、妖怪の方の気持ちもある程度解る。
「法術師が居るという事で、ある程度面白い展開になるとは思っていましたが」
笑いながら、ツウカさんは言う。もしかして、久々に暴れたかっただけか?
……いや待て、どうして法術師が居るという事を知っているのか。私の事はいつか言ったかも知れないけど、イスクとシズホの事はこの人は知らない筈なのに。
「おや、どこか不可解な顔。どうやら何やら疑問が出て来たみたいですかね」
気付いたのか? という事は、やっぱりこの件裏があったりするか。
「お察しの通り、これは抜き打ち試験のようなものです。シエンさんに聞かされましてね。“私がやるより、ツウカさんのような人の方が相手として面白いと思って”って」
……やっぱり差し金はエンだったか。
「予感も的中ですね。魔法なんて面白いものも見られましたし」
妖怪の特性。面白い物事には積極的に、か。その気持ちはよく解るけどな。人間だってそう、退屈に殺される――なんて言葉もあったりするし。
「では、折角ですから外までお送りしましょうか。もうそろそろ私達の時間ですし、皆さんお疲れでしょうからね」
「それは助かるな」
ツウカさんもそれなりに強いし。一応は妖怪、私も神社への帰り道に気を張る事もなくなるだろうし。だってツウカさんの守る場所、それと私の神社は、帰り道が重なっているんだから。
「って大丈夫なのかよ。俺ら襲われたんだけどこの人に」
イスクの言い分はもっとも。だけどこの人、半分は人間なんだから――。
「大丈夫ですよ。先程は妖怪成分が勝って襲った訳ですけど、今はまあ、人間成分を強めにしてますんで」
「言ってる事訳解んねえんだけど」
ツウカさんの言い分に、理解が追い付いていないイスク。
「半妖って事だよ。この人半分人間なんだよ。お前みたいなものだ」
「ハーフって事か? ああなんか納得した」
単純……でも解ってくれて良かったか。シズホの方も黙ってるけど、イスクが解ったなら多分問題あるまい。
「……うん。大丈夫」
シズホを見やると、頷いて肯定してくれる。察するに納得したみたいだ。
「決まりですね。では早速行きましょう。完全に暗くなる前にですよ」
流石に、私でも日の暮れた森の中を一人で帰るのは危なっかしい。ツウカさんのような妖怪が付いていてくれるのなら、その危険も大分弱くなるというものだ。
ツウカさんを導にするように、私達はその後ろを付いていく。程なく、暗い木々に覆われた森は消え、夕焼けと、月と星に照らされた薄明るい外の世界へと――。




