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二重季節 -Alignment Minds  作者: 真代あと
マイナス一話目 季節前後 -Piece of Memory
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-1-37 どっぺる?

 表向きには公表される事はない。この寺院、唯一の魔法使い。

 魔法――それは学問たる法術では説明の付かない術法。魔でも法でもない、現すすべのないものとされる。

 学んだ故に得た法術ではない。

 生まれたその時から持つ、本物の異能。

 彼女は、その眼に異能を持つ。




 ――そういえば。

 少し前に、イスクが妙な話をしていたのを思い出した。

「――なあユエン、聞いてくれるか。俺、なんか変な夢でも見てたみたいでさ。いや今冷静に思い返しても変な夢としか思えねえ。もしかしたら変な病気にでもなったのかも知れねえし。

 いや取り敢えず今俺冷静。そのつもりで聞いてくれよ……。

 とにかく俺変な夢みたいなの見た。あいつ――いや、あいつにも悪いもんな。仮にその……そいつを女の子Aって言うけど。その女の子Aに連れられて、町まで行ったんだ。断る理由とかねえしな。いやデートとかじゃねえっすよ!? そんな雰囲気じゃあねーし、気に入られてるとかねーだろうし、しょっちゅう蹴り入れられてるしさ。

 女の子Aは人に会って欲しい――みたいな事言ってた。お見合い? ……だっけか。

 いや待て取り敢えず話を最後まで聞いてくれ! 変な事口走るかも知れねえけど、取り敢えず最後まで!

 ……んで、女の子Aに連れられて、なんか最近出来たっつー店に行ったんだ。人を待たせてるみたいでさ。けど居ないみたいで。探して来るって女の子Aが言ってさ、俺にはここで待っててって、一人でどっか行っちまった。

 女の子Aはすぐ戻って来たんだ。いやあれがほんとに女の子Aだったのか、訳解んねえけどさ、女の子Aに見えたんだ!

 ……なあユエン。ドッペルゲンガーとか、二重人格とかって知ってるか? こっちでそれに近いっつったら、狐憑きとか。狸に化かされるとか。

 俺も色々調べたんだよ……とにかく、俺が見た女の子A――いや女の子Bかも知れねえけど、そいつはそんな感じのモンとしか思えねえんだ。見た目は完璧に女の子Aだったけど、性格やら口調やら、女の子Bが入ってるとしか思えねえんだ。

 本人は、なんかAの妹、みたいな事言ってた。ああそれだけだったら俺も信じたさ。完全瓜二つとかそんなんは置いといて。そんな妹も居るかもって。

 で、Bと一緒に色々話してたんだけどさ。その間Aは帰って来なくて、でBもあんまり引き止めてちゃ悪いって、Bはそのまま帰っていってさ。姿が見えなくなって、ほんと一瞬あとに帰って来たんだ。AかBか解らんかったけど、いや、実際そいつAだったんだけどな。

 Aは“妹”を探してたけど見付からなかったって。で、また今度“妹”に会わせるからって、そこで別れたんだ。

 ……俺どうしたらいいか解んねえ。あれ、Aの心の闇的なモンだったのか。俺がなんか変な幻覚見る体質になっちまったのか――」


 ……変な話だとは思った。逆に疑いすらしなかった。また阿呆な遊び道具にされているのかこいつ、と思った。

 あのあと、イスクは物凄く思い詰めた顔をして、「もしかしたらお前も会うかも知れねえ。色々気を付けろよな」と言って、ふらふらとどこかへ行ってしまった。三日程あとには、なんか悟り開いた、とか言って気味悪く爽やかになったイスクが姿を見せたが、直後シズホに蹴りを貰って元に戻った。それ以来あの話は一切聞いていない。「やっぱお前はこんなだぜ」なんて爽やかで気持ちの悪い事をシズホに言ったくらいで。




 そして今現在。

 目の前にはとても人懐こい小動物と化したAさんが居ます。

 ひょっとしたらそれはBさんなのかも知れないけど。

「お姉ちゃん……どこに行ったんでしょうか」

 それは私の方が知りたい所だ。どこまで行ったのか、全然帰って来ないし。或いはそう、目の前に居るこの女の子こそが――。

 とにかく、何から何までそっくりだったんだ。性格だけが違っていて、それを脳内で強調する事でようやく別人であると認識出来る訳で。

 凄く困った。

 どう接すればいいのか。事前にイスクから話を聞いていなければ私も混乱していた所だ。

 だけどまあ、一つ気付いた事がある。

 このイクヤ サヤ? さん。いつも掛けている眼鏡がない。なぜだか外したままでいて、それでいて眼が青白く光っているという事もない。

 まさかと思うけど、これがシズホの魔法の秘密? 今までそれがどんな能力は解らなかったけど、これがその謎を解く示唆だとか? ここから推察をしたならば、シズホの魔法の正体に近付けるとか。

 ……いやまさかそんな単純な筈が。それよりも、私をたぶらかしているんだとか、そういう理由の方が遥かに単純だし納得出来る。

「アサカエさん。寺院でのお姉ちゃんの様子ってどうなんでしょう。みんなと仲良く出来てるんでしょうか」

「……ああ、まあそこそこじゃないかな」

 仲の悪い相手が居ない、という意味だけどな。それもそう。シズホの素性を知ったならば、敵にするという事が如何に危ない事か、寺院の中で知らない者は居まい。

「はー、良かった。お姉ちゃん危なっかしい所があるから、変に理不尽な事されると相手の方が可哀想な事になったりするんですよね」

 胸元に手をやり、安堵するその子。本当、“見ていたように”よく解っているなあ。私もそう、敵扱いされんで本当良かったと思うよ。


「それにしても、お姉ちゃん遅いですね……」

 まさかとは思うけど、この子が居る限り帰って来ないとか……。

 そうだとするなら、本当疑う。イスクの言っていた事の信憑性が増してしまう。

「あーでもそろそろ帰らないと。これからご飯作らないといけないんです」

「ああそう。そうなの……」

 これは、その、そうなのかなあ。心の闇? それともこの明るさは心の光? とでもいうか。

 そんなものなのかなあやはり。

「それじゃあ、アサカエさん。今日はどうもありがとうございました。おねーちゃんが戻って来たら、早く帰って来てねって言っていたと伝えて下さい」

「あ、ああうん……」

 伝える必要、あるのかなあ。と思ったけど。

 手を振り、去ろうとしていく彼女を見て、……それもそれでありなのかなあ、なんて思って。狐憑きのようなものでも、たまにはああやって明るく振舞えていられたのなら――。

「ごめんユエン。妹見付からない」

「って戻って来たのかよ!!」

 あっさりと、サヤちゃんの居る前で。

「あっ、おねーちゃん」

「あ……サヤ」

 お互いを認識している!

 ……まじもの? ねたばらし早過ぎ。あっさりし過ぎだ! そして本当つまらない真実。普通に姉妹だったなんて。でもそうだよなあ。当たり前だよな。イスクの言っていた、狸に化かされたよりはまともな真実だ。深読みするだけ損した。よしイスクには黙っておこう。面白そうだから。

「おねーちゃん、どこ行ってたの? もうすぐご飯だけど」

「少し、遅くなる。ユエンを送っていかないと」

「はあ。仕方ないけど。たまには早く帰って来て一緒にご飯しようね」

「頑張る」

「じゃあ、アサカエさん、今日はありがとうございました。これからもおねーちゃんを宜しくお願いしますね」

 イクヤ サヤちゃんはぺこっとお辞儀をして、そしててこてこ歩いて帰っていった。

 あとに残るは、呆然と突っ立っているままの私と、いつもの通りにぼけっと突っ立っているままのシズホ。

「……あの妹さん。お前に完璧似ていたな」

「……どこが」

 首が二十度くらい右に。

「主に外見とかな」

 正確に言えば性格を除く全てが。二重人格? とか信じるだろうそりゃあ。二人隣り合って話している姿とか見なければ。

 ――まあそう思えば、イスクは可哀想な体験をしたんだなあとは思うんだけど。

「じゃあ。行こう」

「はい? 行くとは?」

「送るって言った」

「いや道なら解るから。シズホは早く帰らないと、妹さんとの夕餉があるんだろう?」

「……」

 沈黙。からの、

「いいの?」

 再確認の言葉が。

「いいよ。ちゃんと妹さんとも話が出来たしな」

 ……疑っていた事については黙っておこう。シズホには本当に妹が居たんだと。

 序でにイスクにも黙っていようか。面白いからな。

 シズホは少し考える仕草をして、

「じゃあ、帰る」

 そう言って、背を向けた。

「気を付けろよ、妹さんに宜しくな」

 シズホは、胸元くらいまで手を上げて、振るような動きをして、たったと走っていった。

 ――さて、じゃあ私も。

「帰ろうかね」

 家は遠い。だけど考える時間はたっぷりとあった。

 イスクにからかいの材料も出来たし。だけどシズホはどうして私に妹さんを紹介したのか。まあ、訊いてみない事には答えなんて解りはしない事だけど。

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