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二重季節 -Alignment Minds  作者: 真代あと
マイナス一話目 季節前後 -Piece of Memory
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-1-19 第一回、山でお泊り大作戦

 ――なぜ、アサカエ神社がこの曰くありげな山の麓にあるか。

 この辺りの土地は大きく三つに分けられる。主に妖怪達の住まう場所である“妖怪山”。主に精霊や妖精などの不可思議なものが住まうという“糸海の樹海”。そして人々の住まう領域。神社や村。そのそれぞれに一柱ずつ神様がおり、アサカエ神社は人間の領域を守る神様を祀っているという。

 それぞれの神様について、私はまだ詳しい事は知っていない。だけどその三柱の存在によって、この辺りの平穏は守られているという事は解っている。それぞれの種族を守る厳重な妖怪隠しの結界が、三つの柱が居る事によって維持されていた。故に、例えばどこかから妖怪山の中に入り込もうとしても、結界の効力により、必ず一つの入口――あのハサセナ ツウカさんの居る所に出て来てしまうという、不可思議な空間になっている。

 アサカエ神社は、その三つの土地が丁度交わる辺りにある。人間という種族の代表として、この土地を守る一角を担っている。その為に、三つの柱に一番近い所にあるという事。

 そう、人間でなければいけない。神と、妖怪と、人間と。その異なる三種の力によって、この場にある妖怪隠しの結界を維持する意味付けとなる、らしい。

 そんな事くらいしか、私はまだ知らない。それは神社の息子でありながら、まだ本格的に山の神様に認めて貰ってはいないからだ。まだ、この地を継ぐには力不足だと。

 今の私は、神社とは直接関係のない、法術を学ぶ事を今は重点に置いている。いずれは神社を引き継ぐ気持ちはあるけど、今この時点での目標はそうでなく――。




 山に入って。特に大きな障害などもなく、辺りがかなり暗くなって来た頃に私達は山の中腹辺りにある目的の秘密基地にまで来る事が出来た。

 途中、何度か妖怪らしい怪しげな気配を感じたんだけど、エンがそちらをきっと一睨みすると、みんなどこかへと引っ込んでしまった。

 頼もしいなあエンが居ると。それに事前に露払いをしてくれた父さんにも感謝だ。お陰で私達二人が気を張る必要が殆どなかったし、秘密基地に着くまでに危険な事態に陥る事もなかった。

 ここまで来れば大分安全。ここはちょいとした霊脈のようになっていて、源素が濃くあり、妖怪達から人間の気配を隠してくれている、という特別な場所。小さな小さな私達の陣地。

 秘密基地にて。完全に日が沈んでしまう前に、人が三人、しっかりと入れる大きさの天幕を張って、中で明かりを灯す。暗い中に、小さな明るさが現れた。

「よし、準備は完了っ」

 エンが嬉しそうに声を上げる。確かにこれはわくわくするな。普段とは違う、自然の中の寝床。そんな所で集まって話が出来るのも面白そうだ。

「という訳で。第一回、山でお泊り大作戦を始めようか」

 ……何がという訳で大作戦?

「……何故に大作戦などと大層な?」

 私が思った疑問を、トオナが口に出して問うた。

「ふっふっふ……」

 対するエンは、小さく含み笑いをする。一体そこにどんな意味が?

「別に深い理由はない!」

 単なるノリだったか。

「まあ、面白ければそれでいいって訳よ。それで第二、第三と続けていければいいんだけどね」

 そんな大層な計画が、エンの中にはあったのか。

 まあいいさ。エンが面白くすると言うのなら、私達はそれに付いていくだけだ。

「さあ、じゃあ陣地も出来た訳だし――取り敢えずご飯食べよう」

 そう、その為の荷物もエンはしっかりと持って来ていた。日持ちするように包んでいた、三人分の夕餉。味付け握り飯いっぱいと、それに合うあったかい汁物。おいしゅうございました。




「さて。お腹も落ち着いたところで、みんなの近況報告でもしてみようか」

 天幕を張ったその中で、私達はそれぞれ灯りを中心に向かい合う。

「それってここでしか出来ないって事でもないような……」

「いいじゃない。雰囲気よ雰囲気」

 ここでもそれを大事にするか……まあエンの言っていた通りの、子供三人だけの集まりというのは実現しているけども。

「トオナはどう? 巫女見習いからは卒業出来そう?」

 ――その辺りは、私も気になるところだ。果たしていつ、巫女になる目途が立つのか。私は髪留めの紐をくるくるとしながら、次の言葉を待つ。

「……まあの。ハトリが認めてくれたならば、その時からは一緒に神事を行おうとしておる所だ」

「ほほう。善きかな善きかな。トオナが来てくれたらしばらくは我が神社も安泰だねえ」

「……本当にそう思うておるのかの」

「そりゃあそうよ。神社ってのは可愛い巫女さんがあってこそなんだからさ。花がないとお金を落とす虫も寄って来ないってね」

 参拝客は虫かい。まあ、例えとするならばあながち間違っていないものだとは思うけど。

「で? エンの方はどうするつもりなのかね?」

 いつも通りのエンのにやけ顔がこちらに向けられる。そのエンに合わせて、トオナも私を見やっていた。

「私?」

「そ。人生計画は大事だよ? 一生一度っきり、未来が見えないってんなら、それはすっごく大問題だからさ」

「計画も何も……まあ首尾良く法術師になれたなら、神社に戻るつもりでいるけどな」

「へえ? じゃあなんで法術師になろうって?」

「……それは」

 言えない。エンに追い付く為、その為だけに神社から離れて、張り合う為に力を学ぼうとしていたなんて。

「それは?」

 エンが促す。にやにやとした顔を向けて。

 ……これは多分、大体は解っていて言っているな。

 だから、もっともらしい、限りなく本当に近い嘘を。

「ほらここだよ。山の妖怪に対抗するには、神社にある力だけじゃ足りないと思ってさ」

「ほほう?」

「……本当だぞ」

 嘘は言っていない。いろんな力を知る事はとても重要な事だと、エンが身を以て教えてくれたんだし。

「大体、エンの方こそどうなんだよ。寺院からいきなり居なくなったと思ったら、風の便りに西の国で作業傭兵なんてしてたなんてさ」

「あー……それね」

「先生も怒っていたぞ。アサカエ シエンと絡むのはもううんざりだとな」

「あっははは――!」

 聞いた途端、エンが大笑いし始めた。笑えないぞ先生の傍に居る身としては。

「いやまあ、理由としてはエンに近いんだよ」

「私に近い?」

「そ。本当にいろんな事に対応するなら、神社や法術師の力だけじゃ足りないってね」

 だから家を飛び出したと。二年の間、世界を廻って色々な力を学ぶ為に。

「まあ他にも理由はあるけど……然るべき時に教えてあげるわ」

「なんだいそりゃあ」

 力を学ぶ以外の理由。金儲け……なんて俗な理由は考えにくいけど。いやまあ神社が神社なだけに、別な稼ぎ口を探してくれている……という可能性もなきにしも非ず。

「で? エンは法術師になれそう? 見込みはあるのかな?」

「それならエンの方がよく解っている事だと思うんだけどな」

 私の言葉に、エンはちょいとびっくりしたような顔を見せた。

「へえ? それって一体どういう事かな?」

 だけどその顔も、すぐにいつも通りのにやけた顔に戻る。そうしてすっとぼけたような言葉を。

「近くに居るからって意味なんだけどな」

 本当は、知っている。実の所、この姉は私が今度行う法術師となる資格を得る為の試験官の一人だと。

 エンの方も、今のやり取りで察した事だろう。誰が試験官という事は極秘扱いな筈なんだから。じゃあ何故に知っているか。それは人の口に戸は立てられない、という事かね。ちょっとした伝手からのお話、それだけの事だ。

「へえ、まあ確かに実力はありそうだけどねえ」

 お互い嘘は言っていない。だけど本当の事も言っていない。当たり障りのない言葉で、お互いの本音を探り合っていた。

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