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二重季節 -Alignment Minds  作者: 真代あと
マイナス一話目 季節前後 -Piece of Memory
53/275

-1-15 行き過ぎた懸念

「メイスケが目を覚ましましたよ」

 ややあって、母さんが道場に顔を覗かせに来た。父さんの姿はまだ見えない。

「父さん、大丈夫?」

 エンが母さんに訊く。一撃を喰らわせてしまった責任を感じているからか。

「まだ少し痛むらしいので、少しお休みです」

「あやー……悪い事しちゃったな」

 まあ隙だらけの不可抗力とはいえ、父さんをぶっ倒した訳だからな。

「真剣試合には悪い事も何もありませんよ。あれはメイスケの油断が原因です」

 夫の失態をばっさり切り捨てる母さん。

「という訳で、少しの間私がここを見ています」

「……はい?」

 緊急事態だ。母さんが道場で指導をするなんて、殆どなかった事なのに。

「弛んでいると見えた人には、罰を与えます」

 更に恐ろし気な一言が加えられた。一体罰ってなんなんだ。

「では稽古を始めて下さい。真剣にしない人には――」

 短い木刀を持ち、いつも通りの無表情で。

「罰を与えますので、どうぞ」

 表情には変化がない。それが余計に怖さを演出している。

「あー、じゃあ私まだ仕事があるからこれで……」

 エンが逃げようとしている! そそくさと道場の端っこ、出口の方へ――。

「逃げようとするのも駄目ですよシエン」

 一瞬。エンの首元に、母さんの木刀が突き付けられていた。

 ……全然見えなかったんですけど。

「い!?」

「お仕置きですね。シエン」

 その瞬間に、エンが身を離してまた虚御の型を現す。だけど、

 ばしん!

 と、その瞬間に大きな音が。そしてエンの手から、木刀が落ちてからんからんと音がする。

「歯を食いしばりなさい」

 そうしてまた、ばしん! と、エンの尻に木刀の一撃が。

「ぎゃぶっ!」

 変な悲鳴と共に、エンはへなへなと崩れ落ち、尻を押さえて悶えている。

 ……誰も破れなかった虚御の型を一瞬で破るなんて。

「さて、次に怠けようとするのは誰ですか?」

 無理。

 エンを一撃で倒せる相手を前に、私達が抵抗出来る筈もない。

 それこそ、死に物狂いで修練に挑むしかあるまい。



「う……おお……」

 目が覚めると、眼前にハトリの顔がある。

「……気付きましたか」

 その形は、膝枕。倒れてそのまま介抱されていたらしい。

 痛い目には遭ったが……これはこれで僥倖か。

「メイスケ、我を忘れ掛けてましたから……手元が本気でした」

「ああ、俺様とした事が……」

「まだまだ未熟、です」

「……面目ねえ」

 叱られた。じんじんと残る痛み、だが気にする程じゃあない。

「でも止まったから、良かったです。……どちらも、怪我はありませんでしたし」

 止められた事は良しだ。自制はしていたつもりだが、あのままやり合っていたらどうなっていたか解らない。つくづく、ハトリには頭が上がらねえな。

「ついうっかりだ。やるようになったぜ、あいつ」

「ええ……見ていました。危ないです、少し」

「危ねえ、か」

 確かに、下手に強い力を持つと、それに過信をするようになる。

 自分が、強い者だと思い込む。それは即ち、油断に繋がる事でもある。そして油断がそのまま自分に返って来るのが剣の道ってやつだ。

 まあ、その事はあとで考えりゃあいい事だ。出来るならあいつが自分で気付く事が一番望ましい事だがな。

 名残惜しいが、起き上がる。

「俺直撃喰らったんだけどな。そっちのが普通に危ねえぜ」

「鍛えてますから、いいでしょう?」

「いや痛えモンは痛えし、危ねえモンは危ねえって。昔のお前みたいだったぜ」

 あの頃のハトリを知っている身としては、今のシエンには近しいものを感じる訳だが。……まあ実の娘だからな。近いものを受け継いだんだろうかもな。

「若き日の過ち……」

「そんな言い方をすると勘違いされるからな」

「……お茶目なひと時です」

 お茶目で済ませるのもどうかと思うがな。まあ実力は隠しようがないからな。

「……ん」

 そうやって見ていると、照れて顔を赤くした。恥ずかしいなら黙っていればいいのにな。

「ま、俺様は大丈夫だ。つってもまだ痛むからよ、少しあいつらを見ててやってくんねえか?」

「はい」

 一言だけ言って、ハトリは俺から身を離す。

 母親として一線を退いたとは言え、ハトリはこの神社最強の刀士だ。任せときゃあ安心だろうが。

「ああ、ちくしょう痛ってえ……」

 シエンの奴、なんちゅう危ねえ技を覚えやがったんだ。強過ぎる技は、いつか慢心を生んで、自分の中に跳ね返って来るってのによ――。

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