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二重季節 -Alignment Minds  作者: 真代あと
三話目 観測者

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1 1-19 協力者

 目的の場所は、偶然にも(?)この町の近くにあった。町の端っこ、入口の付近にある、茶屋の辺りで待っているという。なんとも都合のいい話だとは思ったが……取り敢えず行ってみる。人はまばらにしか居なかったが、みんな入口の門を通り過ぎていくだけで、それらしい人は――。

「ああ、来んの早いなあ。もうちょい時間掛かると思っとったわ」

 居た。そいつは茶屋の前にある椅子に座って、足をぱたぱたと振りながら優雅に茶を飲み茶菓子など食っていた。

「ええと、貴方が今度の支援者か?」

「せや。よろしゅう頼むなエン君」

 うっすら笑みを浮かべながら、西側方言で喋るちょっと歳の色が見えていた女性は答えた。ぼさぼさ頭で、灰色の甚平みたいな着物を着ている。

「私を知っているのか」

 一見して初対面だと思ったが。まあ勿論、サキの関係者ならば私の情報など筒抜けと言ってもおかしくないのだろう。

「まあな。名前以外の事ならツヅカ サキから大体は聞いとるけどな」

「名前以外は?」

 なんだ。ではなぜ私の名前を言えたんだ。

「せや。うちの秘密技や。なんとなぁくで解んねん、そいつの名前はな。っははは」

 それはまあ、笑い事としても凄い事だぞ。会っただけで名前が解るとなったら、色々とあくどい使い方が思い浮かぶんだが。

「まあ一日一回しか使えへんけどな」

「なんだその妙な制限は」

「興味持つやろ? うちは出来損ないやさかい、こんなおかしな術しか使えへん。教えた奴がけったいなんや」

「教えた奴?」

 こんな妙な術、嬉々として教えそうなのは、私の知っている限り、一人しか思い浮かばない。

「まさかその。教えた奴というのはもしかして――」

「先生」

 ――ってまさか。そんな馬鹿な。

「ってそれって、本当先生の事か!?」

「さあて、あんたの言う先生がうちの先生と同じかどうかは解らんけどな」

 だって、こんなつまらない法術を面白そうに教えそうな人なんて――。

「ま、ええやろ。今はお仕事優先や。込み入った話はあと回しでええ」

 その人は茶菓子を食いきって茶をすする。はあ……と吐息をして、空になった湯呑を座る椅子の傍に置いた。

「うちはレイハや。つってもなんでも好きに呼んでくれたらええ。お姉でも構わんで? って姉ちゃんっちゅう歳でもあらへんなあ。姉御、とかの方がしっくり来るんかいな」

 と言われても。会ったばかりの人を姉呼ばわりとはどんなだ。

「レイハさんで」

「阿呆。空気読みいや。こういう時は相手の言い分に合わせーや」

 自分で好きに呼べばいいと言っていたのに。変なところで機嫌が悪くなった感じが。

「解った。解ったお姉」

「あっははは。せや、そう言われた方が嬉しいって事もあるってな」

 そう言って、お姉(仮)は笑う。だが何やら、その笑い方が空虚なものに思えて。なんとなく。

「まあ、動く前にちょっと厠寄ってくわ。顔洗うて来るさかいにな」

 立ち上がって、どこかへと歩いていく。その背中が、やけに寂しそうに思えたのは、気のせいだったろうか。

 ……だがまあ、指定の人物に会えたのはそうだ。厠に行くと言っていたし、話を聞く時間もある。ならば少し、ゆっくりとさせて貰おう。

「もし、誰か?」

 幸いにも、ここは茶屋だ。ならばやるべき事は一つ。

「はーい、なんでしょう?」

 茶屋の中から女の店員が現れた。

「茶と饅頭を頼む。茶は渋めで」

「はーい。少々お待ち下さいねー」

 うむ気持ちのいい返事だ。やはり客商売とはこうあるべきなんだろうなあ。


「お待たせやでえー」

 本当待った。茶の二杯目を飲み干そうとした時に、お姉は現れた。

 ……手に一升瓶なんて持って。

 遅かった理由はそれかあ……じゃなくて!

「なんでどこで酒なんて持って来てるんだ」

「えー酒屋があったら酒貰うのが当たり前やないのー」

 すっかり出来上がっている様子で……酒臭い息に赤い顔、おまけに千鳥足とまで来ているなんて。

「んぐんぐ、ぷっはー!」

「歩きながら酒を呑むな! これで本当に仕事が出来るのか?」

「大丈夫やだいじょーぶ。このお姉に全部任せときってなあっははは――」

 いや全部任せるとしたなら私の立場は要らんだろうに――。

 と、ふと気付いた。もしかして今回の私、仕事云々よりもこの酔っ払いを制御する為に割り振られたのではないかと。

 ……否定が出来ん。

 よしサキにはあとで説教だな。

「はあ……取り敢えず、今回の件の詳しい話を聞かせてくれないか」

「あ? 話? うちの馴れ初めとか聞きたいんかあっはっは――!」

 駄目だ話さえ聞いてくれない。これだから酔っ払いは。

「……了解解った。取り敢えず酒は没収だ」

 酒瓶を取り上げる。

「ああっ、うちの酒っ」

「仕事で来たんだ私は! 酒を呑むなら終わってからにしてくれ」

「つまらんやっちゃなあ。まあええわ、もう充分酔っとるからなあ」

 だから酔っ払っては駄目だと。

「取り敢えずどうすればいい。件の村まで戻ればいいのか」

「酒返してくれたら教えたるわー」

「教えてくれたら返してやる」

「村からちょいと離れた海辺に変な洞窟があるらしいんやわ。人の出入りも確認出来とるから、怪しいっちゃ怪しいわな」

 信じられん程はきはきと答えやがった。

「そんなに酒が欲しいものかね……」

「当ったり前や。ほら教えたったで約束は守りや」

「解ったよまったく……」

 渋々ながら酒瓶を渡す。

「っはは、おおきにな」

 すると途端に、お姉は酒瓶の口に口を直接付け、ぐいぐい呑み始めた。うわばみというやつなのかねこの女。

「とにかく行くぞ。これ以上無駄足をしていられん」

 店員を呼んで、二杯の茶と茶菓子の代金を払う。

「ああ、折角やうちの分も払っとってえな。あとで返すさかいにな」

「どうしてそうなる。自分の分は自分で払ってくれ」

「この酒で金使うてもうたんや。後生やで頼むわあ」

 ……何かむかつく。計画性が零なんだろうかこの女。

「金はあるが貸し借りは嫌いなんだよ。くそ……報酬上乗せでないと納得いかないぞ」

「解っとるって。一割増で返したるさかいにな」

「要らん。払った分だけ返せ」

 ちゃりん、と店員にあとの金を払う。勿論店員も今までのやり取りはしっかり見ている訳で、

「あはは……毎度ありです」と微妙に引くような返事を返した。

「じゃあ行くぞ。仕事なんだからちゃんと案内してくれよな」

「了解りょうかいー。ちゃんと付いて来いやー」

 千鳥足になり掛けで、ふらふらとお姉が歩いていく。

 どうしたものかね……場所さえ解ればいっそ一人で行った方がましなのではないのか、とも思い始めているんだが。

 ともかく、お姉を前にして私達は町を出る。地図なんて持っていないから、お姉の先導が唯一の頼りなんだが……。

 ふらふらのそのそぐびぐび。

 いやもうどこから突っ込んでいいものやら。千鳥足でゆっくり歩いていてそのまま酒をあおるなんて。

「……取り敢えず、日が暮れるまでには目的地に行きたいんだがな」

「安心しいや。そう離れとらんさかいになあ」

 とお姉は言うんだが。

「兵は神速を尊ぶ、という言葉を思い出したんだが」

「そら初耳やなあ。まあ慌てんでも獲物はすぐには逃げへんってな」

「だとしてもだ。亀のような速さで歩いても得なんてない。さっさと歩いてくれ」

「つまらんやっちゃなあ。そんなせかせか早うしてたら女にも愛想尽かされるで?」

「あいにくそんな女には無縁でな」

「……」

 ……なんだ。突然にお姉が沈黙したんだが。変な事でも言ったのか?

「どうしたお姉。急に黙り込んで。酒でも切れたか」

「……いいやちゃうちゃう、あんた聞いた通りにけったいな奴や思てな」

 意味が解らん。変な奴という自覚は自分でもあるが、明らかに変な奴に言われる筋合いもないと思うが。


 それから半刻程歩いていって。少し前から草木の茂っている道なき道を歩き続けている。

 変な洞窟か……こんな怪しげな所ならあっても不思議には思わんが……。

「もうそろそろ着くのか?」

「せや。心の準備くらいはしときいや」

「あいにく準備期間は充分にあったからな」

 そうして少し歩いていった所に、草木に隠れるようにぽっかりと黒い穴があった。

「ここか?」

「せや」

 茂みに身を隠して、洞窟の様子を覗う。見たところ見張りらしい姿は見えない。まあこの場合誰かが居る事の方が不自然さを感じさせるだろうから、居ない方がいいという考えもあるだろう。

「突っ込むか?」

「うちはあくまでお手伝いや。こっから先はお役目交代ってな」

 荒事は私の担当、と言いたいか。

「ここまで来たんだ。行くぞ」

「了解や。後ろは任せえや」

 ああ、頼もしい言葉だ。ぐい、と更に酒をあおり呑みながらでなければな。

「じゃあ、潜入するぞ」

 二人で、洞窟の方に向かい、入る。

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