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二重季節 -Alignment Minds  作者: 真代あと
三話目 観測者
21/274

1 1-18 サキとの話から二日後

 茶葉が欲しい。

 そんなごく自然な欲求を満たす為、私は今村よりも遠い、町の方にまで来ている。

 ツクミヨという町。西方文化が大きく入り込み、石造りの建物、妙な店、挙句車を引くが町中を走っていると。私の知るワヅチの国とは大分印象が変わっている。

 だがいずれ、この風景も当たり前に思える時が来るのだろう。この国の、古き良き文化と引き換えに。

 とまあちょっとした寂しさを感じはするものの、それでもこの町は人々が多く集まり、色々な物で溢れ返っている。この辺りで一番大きな人里だ。当然ながら茶葉だって探せばすぐに見付かる。便利さを追求していくのもそう悪い事ではないらしい。

 という訳で、私は行き付けの茶屋へと赴く。そこではちょっとした顔馴染みになっていて、私が店に入ると「あ、こんにちはー」と若い女の店員に挨拶される。普通は客に対しては「いらっしゃいませ」だろうに。

「いつもの、貰えるか」

 私もまた慣れたもので、それだけで会話が成立する。「はーい、ありがと様ねー」と店員は店の奥に引っ込んでいく。茶屋に似合う茶色の着物を着た、明るい子だった。その子は少し経って、「お待たせでーす」と茶葉のたくさん入った包みを持って来た。

「うむ、ありがとう」

 と、いつも通りの額の金を出す。

「はーい毎度ありー」

 金を渡すと引き換えに、私は茶葉を受け取った。やはり茶に関して拘りを持つのであれば、本職の者に頼むのが一番いい。因みにこの女は店主の娘さんという事。店主の方は店の奥に引っ込んでいて、客の相手もせずにずっと茶葉の世話をしている。ご苦労な事だ。因みに私自身もなんとか自分で茶葉を作れないものかと、密かに研究をしていたりする。いっそここの店主に弟子入りでもしようか、なんて考えも頭の隅に芽生えたり。

「どうだ。景気はいいものかね」

 この店員は気のいい人で、そんな世間話も普通に出来る、立派な看板娘だ。

「まーぼちぼちですねー。古い店ですから常連さんは多いですけれど」

 新しい客への受けはいまいちといったところか。悪く言えば代わり映えしないという事だろうが、いい言い方をすれば古き良きものが残っているとも言える。

「何か、変わった事とかもないか」

 サキの言っていた事を少し思い出し、ちょっとした情報収集も試みてみる。

「変わった事ですか。変わった物なら幾らもありますけれどねーこの町なら」

「それもそうだな」

 遥か西の国の文化や文明、それが常にこの町に入り込んで来ている。この辺りの最先端を行く町だ。当然、船を介していろんなものが出て行ったり、入って来たりを常に繰り返している。和洋折衷と言えば聞こえはいいが、私としては西と東がごちゃ混ぜとなっている、というのが正しい表現ではないかと。

「変わった事――をお探しという事は、何か変わった事件なんかが起こっているんでしょうかねえ、この町で」

 あ。しまった変な好奇心を刺激したっぽい。そうだこの娘、こうした噂話系が大好物だったんだ。

 ……まあ、一度言った事を誤魔化したりした方がもっと不自然になるか。

「変に首を突っ込むなよ。もう少しで収まる筈の事だ」

 釘を刺す、そのくらいで留めておく。私に出来るのは、こうした事件を被害が増える前に収める、それだけだ。

「えー、もう少し詳しい話をー」

 駄々っ子のように、すがり付かんとする勢いで迫って来る看板娘。

「事が終わったらな。では私はもう行く」

 不満そうなところ悪いが、私も詳しい話を知っている訳ではないんだ。ここはとっとと切り上げる事としよう。

「はーい。またのお越しをー」

 店員は、笑顔を崩さないまま別れの言葉を告げた。

 まあ変わった人物ではあるが、喋っていて気持ちの良い相手ではあるな。名前も知らない人ではあるが、商人向きなんだろう。


 さてさて一番の要件は済んだ訳だから、これからどうしたものかと思う訳であるが。

 別にこの町に親しい友人が居るとか、他に贔屓の店があるとか、そういった訳でもなく。

 ……散策でもするかね。

 この町は流行の最先端だ。他にやる事がないのだから、見回ってみるのも悪くはないとは思うのだが。

 ……しかしまあ。

 今更思うが、見事に西方文化に埋まっているなあ。辺りをうろつく人々の服装からして、この国と西方、二つの文化が見事に融合している。着物を着ているご婦人が複数で歩いていく一方、如何にも向こうの国の紳士です、と言いたげな黒服――スーツを着込んだ中年男性が歩いている。遠い海の向こうから来た西の物、というだけでこの国では受けが良く、誰もが憧れる流行物になっている。だがそれも、ある意味では侵食だ。いずれ、西方文化はこの町――いや、この国を覆っていって、その時にはこの国の古い文化は――。

 どん。

 と突然、歩いているところに誰かがぶつかって来た。

「おっと、ごめんよ」

 顔の殆どを布で隠していた、質素な恰好のそいつは、私に軽くぶつかったその隙に、空いている手に紙を握らせてさっさと走り去っていった。

 ……連絡役を寄越すと言ってはいたが。なんて阿呆な。古典的過ぎやしないか。まあいいが。

 連絡役を見送って、目線を手に落とす。取り敢えず、重要なのはこの手紙か。

 開いてみる。某かの指示が書いてある事と思うが……。


“はろう、エン君”

 いきなり気の抜ける内容だった。

 今すぐにもこれを破り捨てたい衝動を抑えて、続きを読む。

“今回の依頼は、君も聞き及んでいるだろう、神隠しの件についてだ。

 実は少々訳ありで、僕は今回君への支援が出来ない。実に残念だ。

 代わりと言ってはなんだが、この件における支援者をある場所に待たせてある。

 彼女と協力して異変を解決してくれ給え。場所は――”


 ……へえ。仕事第一私第二のサキにしては、他の女に私を任せる、というのも珍しい。

 とはいえ、その女とどうやって会えばいいのか。女に対する特徴やら名前やらも書いていない。先程のように、向こうから見付けてくれるのだろうか。

 ……まあ、ここで突っ立っていても詮無い事。取り敢えずは指定の場に行ってから考えようか。

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