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二重季節 -Alignment Minds  作者: 真代あと
EX 彼ら彼女らが在った日
196/277

1 E3-3 アサカエさん家の 弐

 ――アサカエ シエンの夜は遅い。

 ……。

 ……。

 ……む。

「う……ああもうこんな時間か」

 簡単な夕餉を終え、溜めていた書物を遅くまで掛けて読み耽る。大体日の替わる辺りに、シエンは時計を見て、もうこんな時間なのかと自覚する。


 弟、アサカエ ユエンは眠りに弱い。その血を分けた姉であるシエンが、そうではない――という事でもなく、シエンもまた眠気には非常に弱い性質である。

 しかしシエンは、夜は遅く、朝は早い。

 眠りの弱さを克服した、という事ではない。シエンはシエンなりの、眠りに対する処法を編み出したという事にある。

 シエンの対処法は、深い眠りをすれば、眠りは短くとも眠気は取れるという事。

 眠っているのならば、眠りにだけ集中していればいい。そうすれば短い時間であっても、眠気を取る効率としては良い筈である。

 そうして、シエンは眠りに入ると、殆どなんの反応もしない。

 息をする、それ以外にはいびきもないし、寝返りなどもしない。本人は勿論覚えはないが、以前シエンと共に居たとある友人は、眠るシエンのさまを見て、「人形か死体みたいだったよ」と後に洩らした。無理もない。何しろ息をする以外、殆どの無駄な動作をしていないのだから。

 ――しかし、それを聞いたシエンは、ふと思う。

 生き物とは、もしかして――いや多分、無駄な動作の多い方が、より生き物らしいのではないかと。

 例えとして。人形は普通動かない。死体は勿論死んでいる。

 自然の岩や石に生命があるのかも解らないし、草木だって風に揺られなければ動けない。

 動かないものは、生き物らしくはない。

 動かないもの程、死や無に近いとも言える。

 そう思えば、成程。今の私より、ずっと生き物らしい、そんなものを多く見て来ただろうか。

 人間以外に。

 それは身近に。

 長い間見て来た彼らに比べれば、今の私よりは余程生き物らしい――。

 ふ――と、自嘲に走り掛けた頭を諌める。

 それは間違いだ。これは望んでしている事だ。それを忘れるな、と。そうして自分で選んでいるならば、それは動いていると同義なんだ、と。

 シエンは眠りの準備をする。深い眠りを行うという事は、その際に繊細なまでの集中力が、意外にも必要になるのだ。

 安心出来なければならない。それは眠る際の集中力という事でもそうだが、

 眠りが深過ぎる故に、その間は何が起こっても反応はしない。

 ――これも友人と共に居た頃。みんなが眠っている最中に、揺れが解る程の地震が来て、友人はびっくりして跳び起きた、らしいのだが、隣のシエンは何事もないままの如く無反応だった――という事もあったらしい。

 眠っている者が気付く程の異常があっても気付けない。それ程の無防備を晒しているという事だ。

 以来、眠ろうとする度に、神経質に思える程、シエンは周囲に気を使う。……今は一人で居る事も多くなった。自分の身を守る努力を、自分一人でしなければいけない。

 ……それを滑稽にも思う。

 一人で居なければいいのに。

 或いは、普通に眠ればいいものを。

 ……けれども理念がある。私は、今望んでこうしているのだと。これも私に必要な、一事なのだと。

 今は、必要な事を必要なだけするべき時だ。それを振り返って笑える時が、あとで来ればいい。

 眠れシエン。今するべきは、それだけだ。

 戒めながら、シエンは部屋の戸に鍵を掛ける。これでここに普通に入れる者は居ない。あとは明かりを消して布団に潜るだけだ。

 布団も質素なものだ。寝床というよりは、床の上に布切れを被るだけ。それでもシエンにとっては、部屋の中で、布団があるだけでも贅沢な事としている。より質素な所でも、いつもと同じように眠れるように。

 部屋を照らす蝋燭を吹き消す。本が読める程度に明るかった部屋が、真っ暗になって、

 布団に身を包んで、

 おやすみなさい。

 呟き終えた瞬間。ここでは殆どが動かなくなった。……そういえば、最近、夢を見た憶えもないなあ、などと思いながら――。


 ――ちゅんちゅん。

 ……。

 ……。

 ……むくり。

 ……。

「……、ふあ?」

 ……こう見ると、やはり二人は姉弟なのである。

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