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二重季節 -Alignment Minds  作者: 真代あと
二話目 直情的彼女
19/287

1 1-16 出会いの数分前

「……追い詰められたか」

 一人呟きを漏らす少女。

 彼女は一応逃げていた。自分を追って来る、三人の足音が聞こえる。

 それを確認して、彼女はその裏路地で足を止める。

 ――そう。これは誘導だ。いずれこの場を通る人間が現れる。連中と対するには、この場所まで来てくれないと困るのだ。

 やがて。この場所に三人の男達がやって来た。予め、自分を追って来るように仕向けた連中だ。

「てこずらせやがって」

「よくもやってくれたな」

 そんな言葉を男達は漏らすが、そんな事はどうでもいい。

 少女にとっては、それなりに悪漢と見える連中に、自分を襲わせる。それ以上の目的などなかったのだから。

 だから、彼女は男達の言葉に聞く耳など持たない。そこに意味などなかったのだから。

「っふふ、雑魚の見本みたいな台詞だね。自己紹介をしているようにしか聞こえないよ。僕達は小悪党ですってね」

 少女は、更に連中を煽る。そう、連中にはもっと解りやすい役割を演じて貰わないといけないのだ。

 奴らは集団で女を襲う小悪党。

 自分は、それに襲われている可哀想な女。

 ここに場は完成した。あとは時間が来るのを待つだけだが。

 ……あと少し、連中をこの場に引き付けておく必要がある。彼女はそう判断した。

「……舐めやがって」

 男の一人が、短い刃物を抜き出した。

 っふふ。

「もっとだよ。君達全員持っているんだろう? 一人だけじゃあ足りないね。とても心が燃え上がりそうにない」

 更に煽る。奴らには、もっと危ないモノという事を演じて貰わないと。

「……殺されたいらしいな。このアマ!」

 そうして、三人共が刃物を抜き持った。

「それでいい。そうでなくちゃあ、僕が相手をするのも下らなく思えるし」

「なに?」

「か弱い女の子はね、刃物を持った既知外に迫られるとどうしようもないんだよ。

 生き残る、その条件を満たすなら、こうして対している時には既に勝っていないといけない。君達のようなおつむの弱い男には難しいかな?

 ならもっと単純に言ってあげようか。君達はね、僕を追い詰めたと思っている時点で、もう終わっているんだよ」

 そう言って、彼女は右手を天に差し出すように上げて、

「十」

 言葉を発す。

「九」

 対する男達に断りも勧告もなく、只、数を言い下げていく。

「八、七」

 それは果たして意味があるものなのか。只々謎な行動だが――そこから連想されるものは幾つもある。が、この場において連想されるものは、男達にとってどれも不吉なものでしかない。

「六、五」

 企み。何かは解らない。知りようがない。そこに見えるものがない。

 だが、今この場を支配しようとしているのは彼女だ。そしてそれが滞りなく行われれば、間違いなくろくでもない目に遭うだろう。もしかしたら、何かの法術を使われるのかも。

「四」

 その思いが男達の静観を破った。何をしようとしているのか解らないが、何かをしようとしているなら止めるべきだ。そう思って駆け出して行った。

 ――何をしようとしているのかも解らないのに。

 その理解が出来なかった事が、最大のうかつ。

 男の一人が彼女に迫る。あと少し、彼女の体に手が触れようとする、瞬間、

 動く。女のもう一つの手、左手が迫る男の手を引き寄せ、

 捻り倒した。

 彼女がしたのは、いわゆる合気。それも実際は護身術程度のものだ。

 それでも、倒れた。――とはいえ、本当に相手を倒す事を目的としていた訳ではない。

「格差とは、隠すべきもの。そして感じ取るべきものなんだよ。君は僕に目を付けた時点で、格の違いを察しておくべきだったね」

 まず一つ。彼女は男の思惑を完全に支配した。場を動かすのは己のペース。彼女のカウントは、否応なしに相手の行動をある方向に制限させた。

 もう一つ。彼女は、彼の繰り出す一撃、そのタイミングをも、都合のいいようにずらしきった。カウントは相手に合わせたもの。己の行動をカウントに合わせなかったならば、行動、反応、タイミングは相手の理解外のずれを起こす。

「考え方の違いだろうね。僕は命が惜しいんだよ。臆病だから。だからね、生き残る手段が一つあったなら、それを全力で実行するんだ。そうしないと死んでしまうだろうからさ。違いはそれだけだよ。僕は只、変人で変態なだけのか弱い女の子だからね」

 前述の二つ――それを除いたなら、彼女の戦闘力は本当に護身術程度だ。数の暴力には勝ち目がない。

 だが――陥れる頭脳と思い切り、この二つがあるだけで、刃物を持った男程度なら遥かに凌駕する。

 彼女は、確かに男達より弱く。人間よりも、遥かに強い。


「さて。そろそろか、な」

 適当にこいつらは(主に精神的に)痛め付けておいたし。

 もうそろそろ、事を始める時間だ。

 僕は懐に忍ばせていた短刀を抜く。

 その様子に彼らは戦慄したようだ。それもそう。素手の僕でさえ好きに出来ず、逆に地に伏せられているというのに、そいつが刃物を持ったなら。

 どれ程の恐ろしさか、想像するまでもなかろう。

 が……期待は裏切らせて貰う。

 彼らを×すつもりだったなら、こんな回りくどい事なんてするものか。そんな事をする得もない。

 故にこの短刀に、攻撃的な意味などない。もっと違う形で役に立って貰う。

「あとの事は、頼んだよ」

 その短刀を、逆手に、腹の所――致命傷ぎりぎりに差し込んだ。

 僕の腹から、赤いものがにじみ出た。


「……穏やかではないな」

 そして、

 薄れていく意識の中で、

 僕は本当の標的の声を聞き取った。

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