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二重季節 -Alignment Minds  作者: 真代あと
マイナス二話目 季節周期 -Dark of Memory
188/287

-2-43 一、一六識

 ―――

 誰かが、話し掛けて来る。

 それが解ったから、私はゆっくりと目を開けた。


 目覚めは、明るい。

 その部屋は、明るかった。

 中に居るのに、空が見えるよう。

 ここは、天国かも知れない。

 そんな馬鹿な事を、思った時。

「起きたか」

 そう、私に語り掛けて来るものがあった。

 その方を向く。すらりと背の高い、女の人が私を見下ろしていた。

「貴方は……誰?」

 難しい表情。その中に浮かぶ、少しの戸惑い。

 やがてそれは、無理をするような――そう、不器用な笑顔を見せ――、

「先生」

 それだけを、答えた。

 センセイ――うん、先生。それは似合っていると思う。

 眼鏡を掛けているし、大人っぽい。難しい表情も、

 んあ……?

 先生というものは、そういうものなのだろうか。

 ……解らない。

 でもセンセイは、先生が合っている。……気がする。

 その人は、多分そういうものなんだろう。

「……私は一体」

 誰だろう。ここも、どこなのだろう。

 綺麗な部屋には見えた。だけど考えても、どう考えても私がここに居る理由が解らない。

 ずっと考えていると、不意に、小さな声が聞こえた気がした。誰かの、笑うような泣くような、それも解らない小さな声だった。

「誰か……居るんですか?」

「んあ……? なぜ、そう思う?」

「何か、声が聞こえたんです。泣き声みたいな」

 先生は、少し言葉に詰まったようだった。私の問いに、すぐには答えが出ない様子で。

「お前には関係ない。あれの事は、別だからな」

「そうですか……」

 でも、すすり泣くような声は、ずっと聞こえて来る。それを聞いている事が、妙にもどかしい。

「でも、出来るなら、慰めてやって下さい」

 女の人が泣くのは、多分、つらい事があったからだ。……と思う。解らないけど、そんな気がする。

「ふう……酷な事を言うな。お前は」

「んあ?」

 酷……? どうしてそうなるのだろうか。

 私は只、気掛かりで言っただけなのに。

「いや、そう思う事は優しい事だ。だがな……」

 一つ息を置く。そして、

「憶えていろ。優しいだけでは、人は容易く傷付く」

 言って、先生は部屋を出て行った。

 ……どういう事だろう。先生の言う事は、難しい。

 でもそれは、到底間違っているとは思えなくて、なんとはなしに、納得していた。

 優しくしているだけでは、多分駄目なのだ、と。

 うん。一つ賢くなった。気がする。


 先生は、十分程度経って戻って来た。

「さて、気分はどうだ。違和感などがあるならば言っておけ」

 親切……というには淡々とした物言いだったけれど。

 だけど、違和感か。それならば、目が覚めた時からずっとある。

「……私は、ここに居ていいんでしょうか」

「何?」

 私には、今しかない。私には何もない。

 私が私であって、他の誰の顔も、私の中にはない。なのに私はここに居る。先生が、見てくれている。

「目覚めて後悔するなら、そのまま眠っていれば良かったんだ」

 目が覚めた。

 それはつまり、それ以前があるという事だ。

 ……ないのに。

 何をどうしても、以前が浮かび上がって来ない。

 私は――まあ姿見を見た限りでは、十四、五、六辺りだろうか。つまり今以前に、それと同じ程の何かがないといけない訳で――まさかいきなりこんな姿で生まれて来た訳でもないだろうし。

「……私は、誰なんですか? 名前は?」

 だが今の私には、歳がなかった。名前も、何者なのかも、この頭には入っていなかった。

「……お前の名は――」

 ……告げられた名は、やはり覚えのないものだった。

 だが先生が言うのだから、それが正しい名前なのだろう。

 エン。

 アサカエ エン、と先生は言った。

 ……だから、それが私の名前と信じた。

 私の形であり、私の意思であり、私が生きるべき命の証明だと。

 過去編第二章、終了です。

 過去編一章にて嵌まらなかったピースが、ここで大分埋まった事になります。

 あとは生きている人達が、どのような先を紡げるのか。その鍵となるお話を現在構想中です。

 どうぞ宜しく、お付き合い頂ければ幸いです。

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