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二重季節 -Alignment Minds  作者: 真代あと
マイナス二話目 季節周期 -Dark of Memory
185/287

-2-40 人でなし達

 ――これが、大まかな結果だ。

 私の知る、それぞれが傷付き、心をなくし、そして消えようとしている。

 誰も彼も、狂気病によって未来を潰された。それを、私達は止める事が出来なかった。

 ……流石にこの結果は、傷付く。リイ・ラハイムとしてでなくとも、これは明確な失敗だ。

「……あっしは」

 最悪だ。上手く立ち回る事が出来なかった。只の――。

「今更だな。そんな事を、人の工房でうじうじとされても迷惑なだけだ」

 今ある全ての関係者を見回って、最後に来た所がリーレイア・クアウルの工房だ。

 最初、リーレイアは私を見るなり、黙って招き入れ、茶を淹れてはくれた。だけどそれは、多分優しさじゃない。最低限の礼儀を果たした、そんな程度の事なんだろう。

「あっし……酷いよお。こんなの、ユエン君に会わせる顔がないよお……」

 声が、震える。気を緩めれば、今にも涙が零れてしまいそうな。

「だったら、会わせなければいい」

 リーレイアは吐き捨てるように言った。不味そうに煙草を吸って、部屋に煙を撒き散らす。その顔は険しいものだった。その眼が、気に入らない物でも見るようにしてこちらを向いていた。

「単純で簡単な答えだろう? なにせ、あいつはもう“死んだ”んだからな」

 リーレイアの言い回しには、おおよそ誤りはない。只定義が違うだけ。彼は、ある意味では生きていて、だがある意味では死んでいる。知らない者が見てどちらに取るかは解らないが――私の定義にするなら、あとの意味が当て嵌まる。

 だけど、

「そういう……問題じゃないですよお」

 客観的にそう見えても――友人として、人として、リイ・ラハイムは対したかった。

 この現実に。

 これ以上ないだろう、最悪的な現実に。

 それと、この、ろくでもない人でなしに。

 最低だと、言ってやりたい。

「なぜ、そう言える?」

「……先生みたいに、捻くれてないですから。人は罪の意識が溜まっていくんです」

 私の言葉を――リーレイアは一瞬で咀嚼し、肩を震わせてくつくつ笑いやがった。

「あっしは、そんな先生みたいに割り切れませんから。……どうしていいか解らないです」

 あっははは――。

 リーレイアが、今度は声を出して、笑った。

 そいつが羨ましい。さっさと人間の思考を切り離してしまえば、こんなつまらない皮肉でもああやって笑える神経を持てるのだろうか。人をやめれば人でなしになれるのか。

「いや、お前もなかなか穿った考えをするね――」

 その言葉は、私の皮肉に対してのものだろうか。リーレイアは笑いを徐々に静めて、いつもの考える指向に切り替えていった。

「私は、そうだな。そこらの連中よりは達観した位置に居る。殺し殺され死に死なれ、見て来た分だけ心構えもあるつもりだ。だが、お前はどうだ?」

 間が――空く。リーレイアが煙草を吸い、吹く音まで、しっかり聞こえる程静かな間だった。

 伏せた私の顔の向こうで、リーレイアが、言葉を待っていた。……という感じではない。あれは只、煙草を吸って味わっているだけの間だ。解る。だって、

「今更だなあ。仕事はやり難くなるだろうがな。どうせ君には使い捨てだ」

 次の言葉は、優しくも何ともない、私に傷を付けるだけの物言いだったから。

「仕事だけじゃあなかった!」

 怒鳴る。間違ってなどいない。リイ・ラハイムはこんな事まで言われて黙っていられる奴ではない。

「それだけじゃあないよ。エン……エンちゃんだけは、ほんとに友達だったよ。ユエン君だって」

「笑わせる。それさえ作り物だろうに」

 ――止まった。

「否定出来まい。リイ・ラハイム。今までそう教え込まれて来たんだろう?」

 ――。

「いや、違うか。そう生かされたんだ。今のお前は何人目だ?」

「……それ以上喋るな」

 許せなかった。

 そこは、踏み込んでいい領域ではない。

 表向きしか知らないくせに、軽々しく口を利くなリーレイア。お前のその声は、本気で殺意を抱かせる。

「ふ、保てていないぞ。いや、それがお前の地だったかな。くっくっく……」

 乱される。こいつを前にして、私は己を保てない。

 なんて、嫌な奴。

 こいつは、死人さえ引きずり出して来る。これ以上ない最低だ。

「いやはや、お前にもまだ、友を思いやれるまともな精神が残っていたとはな。誇るべき事かは知らないが、うん、それなりに微笑ましいぞ」

「悪戯が過ぎますねえ先生。だから問題ありなんですよお?」

「構わんだろう、好きでやってる事だ」

 このろくでなしめ。

「それ、人はろくでなしって言うんですよお」

 思うだけなのもなんなので、“あっし”の言葉に変換して言った。

「他人の意思など飾りだよ。私の楽しみが絶対だ」

「それ、あっしがそのまま返しますよお」

「それはお前が勝手にやればいい事だよ。私の生に関わりはない」

 とことん最低な奴。

 拒絶はするのに、介入はしまくる。誰よりも人間らしいのに、結局誰よりもずっと遠い。

 ――まるで、よく知る誰かみたい。

 死ねばいいのに。人でなしめ。


“人は罪の意識が溜まっていくんです”。

 なんて知った口を利くか。自分の事を言っているとすれば、皮肉にも程がある。

 笑わせて貰った。人でなしはどちらが上だ。

 あの時泣いたふりをしておきながら、涙の一滴も流さなかったくせに。

 そう。

 最初から騙すつもりもないリーレイア以上に、

“彼女”は、私が知っている限りで最高の人でなしだ。

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