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二重季節 -Alignment Minds  作者: 真代あと
二話目 直情的彼女
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1 1-15 変態的彼女

 病室にて。人の手で出来る事はもうないという事で、癒しの法術の使い手が呼ばれた。ツヅカ サキの最初の傷は深かったものの、運良く――いや悪運とでも言うか。急所は外れていたが故に、今尚意識もしっかりとしていた。しばらく法術を当て続けていると、時間は掛かったが傷は塞がっていき、

「っふふ、いい塩梅で痛みも取れたよ。流石は法術だ。これなら君とのまぐわいも問題なく出来るだろうね」

 そんな変態的な物言いが普通に出来るくらいには回復したようだった。

「いや、何度も言うがそんなつもりは微塵もないんで」

「むう、男だというのにその気がないのはどうかと思うけれどねえ。ああ、一つここで衣を脱いで見せようか? 僕の肢体を見たならば、考えも変わるかも知れないよ」

「やめんかこの変態が」

 恥じらいという言葉はこの女の頭にないのか。ないんだろうからそんな言葉が簡単に出て来るんだろうがな。

「君は真面目過ぎるなあ。傷の確認の為にも、一度は脱がないといけないというのに」

 む、まあそれはそうか。確かにかなりの怪我だったんだ。退院する為にも傷跡は見せなければいけないだろう。腹の部分までとはいえ、脱ぐ事に変わりはないか。

「むう、そうだな悪かった。そんな当たり前の事にも気付かなくて」

「そうともさ。では刮目し給え。これが今から君のものになる女の体だよ」

 そう言ってツヅカ サキは甚平の帯を持ち、それをゆっくりと解き、白い肌をはだけさせ――、

「って騙されるか」

 それには大前提がある。医者の前でというところがな。

「っふふ、残念引っ掛からなかったか」

 言って、本当残念そうに裾から手を放す。腹の辺りまでは見えはしたが、そんな事関係なくこいつで欲情したくはない。

「引っ掛かるも何もあるか。この露出狂め」

「酷いなあ。僕だって女の子なんだ。好いた人の気を引く為ならなんだって出来る覚悟があるというのに」

「安心しろ。例え血迷ったとしてもお前に恋愛感情など抱かん」

「そうかな。知らないのかい? 血迷う程の刺激がなければ、とても世の中つまらない」

 まあ、それは解る気がする。私もつまらん生き方を全うしたいと思う程、単純な思考はしていないつもりだし。

 だが腹を刺される程の血を吹き出す刺激は欲しくはないなあ。

「さてと」

 ツヅカ サキが、うーんと伸びをする。それで傷に響かない様子なら、まあ大丈夫と言えるだろうかね。

「首尾良く退院出来たなら、君にはお礼をしないといけないね。君は僕の命の恩人なのだから」

「変態的な礼なら要らないぞ」

「っふふ、君が望むならそんな事でも良かったんだけどね。まあこれは真面目な話さ。君に幾つか仕事を手伝って貰いたいと思ってね」

「仕事だ?」

「そうさ。少しばかり危険な感じのものもあるんだけれどね。多分君なら大丈夫じゃないかと踏んではいるけれど」

「……なぜに」

「君はリーレイア・クアウルを探しているんだろう?」

 ……なぜ。そんな事、誰の前でも言った事はない筈だぞ。

「っふふ、僕達にとってはそんな情報、隠し事にもなりはしないんだよ」

 迷惑だし怖いわ。私の目的までも筒抜けだとか、どんな集団だ。

「まあ、僕も彼女の所在を掴んでいる訳じゃあないんだけれど。僅かながら手掛かりも掴む事もあるかもだからね。いわゆる西方語で言うギブアンドテイクというやつさ」

「助け合い、と言いたいのか?」

 或いは利用し合いと。こちらの方がしっくりと来るがな。物事には殆どの事に対価が必要だという。こいつは私を利用したい腹積もりなのだろうが、私もそう。先生の居場所の手掛かりでも手に入るならば、なんでも利用したい。

 成程確かに思惑は合致する。私もあてもなく、下手をすると全国を巡るような旅なんてしたいとは思わないし。

「そうさ。僕が居れば、君の知りたい情報を渡す事が出来る。その代わりに、僕の仕事の手伝いをしてくれればいい。どうだい? 僕に協力してくれるのなら、少なくとも金に困る事もないとは思うよ」

 そして、先生の情報も手に入るかも、か。

「……解った。先生の事を最優先にという事なら、話くらいは聞いてやる」

 っふふ。

「では行こうか。君の期待には応えてやらないと」

「行く……と言ってもどこにだ。一応まだ安静中の身だろうに」

「心配無用さ。医者には既に話は通っているからね」

 はい? 言っている意味が解らないんだが。

「実はこの診療所も僕達の息が掛かっている所でね。そういう意味ではここは最も安心出来る診療所だったという事さ」

 ……まさか。何から何まで計算づくだったのか。

「そこまでして、どうして私に」

「勿論、君の気を引く為さ。状況を間違えれば本当死ぬところだったけれど、まあ助かったし結果は上々という事で」

 あっははは――。

「笑い事にするなっ! 手の込んだ事を……という事は、あの悪漢も仕込みか」

「それは別事さ。本当に襲われて、本当に死にそうになった。一応は被害者という事になるね僕は。本来ならそれに見合うお仕置きが必要だろうけれど、首尾良く君に出会えたからそれも帳消しでいいかなと」

「どこまで本当やらな」

「まあ大切なのはそこじゃあないよ。考えるべきは、これからの君との付き合い方になるだろうからさ」

 付き合い方、ね。また変な者に目を付けられたものだな。

「じゃあ、本当そろそろ行こうか。“命の恩人君”」

 ……まあいいか。先程こいつも言っていた、ギブアンドテイクという、そういう進み方も悪い事とは思わんしな――。


 ……以降。私は事あるごとにこのおかしな女に付き纏われている。

 先生の事を、あてもなく自分で歩き探すという事はせずに済んだ。また、こいつの持って来る依頼とやらで、金――報酬も定期的に貰える事も出来た。

 時間と金に余裕が出来た。それ自体は人としての最低限以上の生活が出来るといいう事で、ありがたくは思うのだが……。

「やあエン君。お陰様で傷はすっかり完治さ。見たいかい? 見給え、これが僕の生まれたままの姿さ」

「だからやたらと脱ごうとするのはやめんか、この変態が!」

 こんな騒がしさは無縁な事と思っていたんだがなあ。とにかくサキの変態要素が強過ぎて、心休まる日々が減ってしまったと思えなくもない。

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