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二重季節 -Alignment Minds  作者: 真代あと
マイナス二話目 季節周期 -Dark of Memory
175/287

-2-30 決着

 奴の頭は、消した。

 だけどまた、その開いた部分から薄黒い“何か”が這い出て来た。

 蛇のような、触手のような。それが本体だ。これを消さない限り、私達は勝ったとは言えない。

 だから、揺らぎを纏った手をその本体に向かって振りかざす。

 ずん!

 と、その時体が急に重くなった。――重力。自分を巻き添えにして、だけどまだ使えるのか。

“おまえをもらう”。

 その野太い声は、誰の言葉か。

 重さが掛かる。私の全体が。そしてその下にはウズハヤが居た。額から上を消して、だけどその口は残っていて、

 ――ウズハヤが、その口を私の口に触れさせた。

「ぬ――!」

“何か”が、口から入って来る。それは多分、駄目なものだ。

「うううううう――!」

 揺らぎの手を、奴の顔に気付いた時には、蠢くものはなくて、あとには頭だけのない、黒衣を纏った体だけが横たわっていた。

「ごほっ。うえ――」

 地面に手を付き、咳き込む。気持ちが悪い。……だけど、それ以上の変化は起きなかった。

 少なくとも、私の感覚では。

 解らない。

 解らないけど。

 感染ってはいない。

 自分がちゃんとあって、人間とかを襲っている訳じゃない。

 触られ。触れる。だったら。この手で。狂気病を――。

 ――。




 ……やっと。動かなくなった。

 動かなくなったよ。

 ……。

 私は、何をしたんだろう。

 エン。

 私は何をしたんだろう。

 なんでこんな事をしたんだ。

 どうしてこんな事をしないといけない。

 どうして私、今生きているんだろう。

「ユエン、お前――」

「触らないで」

 友が寄る。それを留めた、その事に、留まった事に、なぜか少し安心した、気がした。

「感染るぞ」

 そちらを見やって、少し笑んで言った。

 なぜか。知らない。一つの答えではないのだろうから。

 でももうどうでもいい。

 そう思いながら、空を仰ぐ。

 ――どうして。

 ――父さん。

 ――母さん。

 ――エン。

 私はどうして。

 ――ほんに、お主は虚けよの――。

 ……トオナ。ごめん。

 もう全部――。


 ――死んだと思っていた。

 だけども居た。そこに居る。

 エンが、こちらを見て。

「死んだの?」

「え……」

 こちらへ来る。しっかり足があって、一歩ずつ踏み出して、

 歩んで、手を上げ、

 ぐっと、私を押し退けた、

「そいつは死んだの?」

 死体に寄る。

 手には短刀があった。

 それを、倒れているそいつの胸に、心臓に、

 ずぶっ、

 ずぶ、ずぶ、ず、ぐちゅぐちゅぐちゅ、ぐ――。

 ……。

「これで死んだよ。多分」

 ……何度も何度も、刃を心臓に突き立てて、

 その上かき回して、血溜まりがどんどん広がっていって、

 それでやっと、多分死んだと言う。

 ……なんなんだこれ、やり過ぎだろう。

 動かないものを相手に、

 滅多刺しにしてまで。

 だけどそう、そうまでしないと。

「狂気病は執念を生み出す。もし、こいつに生き続けたいとか思う執念があったとしたら、これくらいしないと安心出来ないんだよ」

 ……解らなくも、ない。だけどここまで念入りに殺し尽くさないといけないのか。

 もう死んでる事は明らかだったのに。だけど――。

 たっと、

 突然エンが駆けて、離れていく。

「エンっ!」

 追い駆けた。当然。

「待って! 待って!」

 居ないと思っていた。居てくれた。それがどうして逃げていく?

 居なくなったら、もう、

「なんで逃げるの、エン!」

 やっとだ。やっとの事、元凶を倒す事が出来た。

 復讐してやる。それが終わった。なのにエンが、それはまだだと言っているようで。

 背中を見せる、エンを追う。手を伸ばすけど、まだ届かない。

 ――す、と。

 唐突に姿が、薄れて消えた。

「待っ――」

 目の前なのに、居なくなるのは、もう嫌――、

 ――すう。

「え……」

 何かを通り過ぎた。

 何かの区切りを越えた。

 確かに、これは、結界。アサカエで使うものの。

 なんだこれ、見えなくなったのは結界があったから、でもこれは事前に張っていないと、

 ――目の前にはエンが居た。

 どうして。

 隠れる必要がない。

 隠れたいなら、なぜ追い駆けさせた。なぜ私をここに通した。

 ……連れて来たんだよ。

 一つ結論が浮かぶ。

 いや待てそんな事があるか。そうする理由が。

 でもそうとしか。

 だって、エンは立っている。逃げていたのに、ここから動いていない。

 そこに居てくれた。

 生きていてくれた――。

 ――っふふ。

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