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二重季節 -Alignment Minds  作者: 真代あと
マイナス二話目 季節周期 -Dark of Memory
174/287

-2-29 前話一刻前

 塔から光が飛び出していって、直後に塔は音を立てて崩れていった。

 何が起こったのか。考えるまでもない。あの光はエンのものだ。山の方――というか、神社の方に向かっていったんだから、それくらい察する事は出来る。

 塔が崩れたのも、エンの仕業だろう。エンがやったのは、塔の地下にある何かを閉じ込める為に、塔全部を崩壊させた、そんなところだと思う。

 ……じゃあ、

「これで全部終わった?」

 怖いものは、全部地中に消えた。塔の形も既になくて、石で埋もれた穴ぼこだけがここにある。

「まだ、ですわ」

 なのにリリさんは、まだ終わっていないと言う。

「来なさいコイコ。わたくしはあいつを追いますわ」

 追う、と言った。なんで。今エンを追い駆けて、何になるっていうのか。

「はいっ」

 リリさんはコイコさんの手を取って、そして宙に浮かび上がって、エンと同じ方向に飛んでいった。

「あ、ま、待って!」

 私達に空を飛ぶすべはない。制止の声を掛けた時には、既にリリさん達の姿は遠い所にまで。

 ……取り残された。ここにあったのは、既に崩落した塔の残骸だけ。

「ど、どうするよ俺ら」

 イスクが訊いて来るけど、どうしようもない。それこそ今から駆け出して追っていくくらいしか。

「……疲れた」

 シズホの言う通り。これまでの戦いで体力も気力も、そして術力も余裕がない。どうしたらいい、その正解が全く解らない。

「……少し、休むか」

 それくらいしか選択肢がない気がする。幸いなのは、あの宝珠を私が持っていたという事。お陰で既になくなっている筈の術力は、感覚では半分程度は回復している。

 これを二人にも分けてやるべきだろう。そうして動こうとした時、また何か、地面から響く音が。

「またなんか、出て来るのかよ……」

 辟易した様子で、イスクが呟く。リリさん達の居ない今、あの何十もの化物がまた現れたら、とても太刀打ち出来る状況じゃなくなる。

「……だけど」

 放っておいたら、それはどうなる。そんなの、私達に襲い掛かったあと、人のたくさん居る町に向かうに決まっている。

「やらないと、だよな」

 元より、法術師はこの国を守るのが、一番求められる事。逃げても同じだ。標的が、私達から町に変わるだけに決まっている。

「くそ……」

 どちらにしても、どこかが被害を受けるなんて。

「シズホ」

 そちらに向かって、赤い宝珠を放り投げる。私はもういい。あとの二人が回復してくれれば、私達の生き延びる確率は上がる、筈。

 そして、穴ぼこの石がはじけ飛んだ。

 そこから現れたのは黒衣。砂埃にまみれたあの女が、たった一人で這い出て来た。

「な――」

 逃げた筈のあいつが、なんで塔の下から出て来るのか。

 ……解らない。解らないけど。

 仇である筈の、あの女が目の前に。

「……お前が」

 なんで生きていて、父さん達が死んでいるのか。

「……許さない」

 今度こそ逃がさない。ここでけりを付ける。

「絶対に許さない」

 泣いて喚いて許しを請うたとしても、こいつだけは。

“じりじり”

 妙な雑音が、また聞こえる。

 だけど。この力の正体が何であれ、今この時に限っては最も効果的に使える術だ。

 そう、こいつが死霊を弄ぶつもりなら、

「お前も死霊の仲間にしてやる」

 駆け出す。あいつに向かって、一直線に。

 だけど、私の手を一度見たからか、後ろに跳んで距離を離しながら、術弾を放って来る。

 そう来るだろうとも解っている。弾の間を縫って、当たりそうなものに対してはこの揺らぎの手でかき消す。

「邪魔だ!」

 あいつの姿を捉えた。前へ。前へ行ければ、あの姿形さえ、消す事が出来る。

 その時、す――と手が上がる。あれはあの時と同じ、重力を加える術だ。

 二度も同じ手には。

「解呪!」

 術力が来る場所も解った。頭上だ。そこから私を押し潰そうとしている訳だ。

 それを右手を上げて打ち消す。術力を分散させる法術をぶつけて、その術を発現出来なくさせる。

「っ――」

 ウズハヤの顔に苦みが。術を打ち消され、隙が生まれる。

「待ってたぜ!」

 イスクが腕の矢を放ちまくる。邪魔じゃないけど、余計な事をしてくれる。

「おらおらおらあっ!」

 あいつ、ありったけの矢を撃つつもりか。だけどそれは、ウズハヤが周りに張っている重力の壁に阻まれる。解っている事。だけど。

「シズホ!」

 イスクの一言。そうか。遠くからだと効果は薄くても、間近から術を放てば。

 その仕込みは既にある。イスクの撃った矢は、只攻撃する為のものじゃない。“何か”をあいつの間近に寄せられれば、それで良かったんだ。

 近付ければそれで良かった。それが生身だと危険過ぎるけど、只の物であれば――。

「……悪くない」

 シズホが、私の隣に居て、片眼鏡を外していた。そして、矢の一つから雷の球が。

 ばちんと。

「ぐ……」

 直撃した。あいつの体の動きが麻痺して、当たった所は黒ずんでいた。

「今だ!」

 イスクが言う。確かに、怯んだ今が好機。重力の壁が消えているなら、今こそ攻撃を叩き込む時だ。

 只、イスクにはもう矢がない。シズホにしても、今魔法を使ったばかりで、すぐには攻撃に転じられないだろう。

 なら、私だ。

 駆け出す。やるべき事は一つ。

“じりじり”

 揺らぎの力を、左手に込める。触れられれば終わりだ。触れられれば。

 だけど。その手は向こうも解った筈。また後ろに跳んで、距離を取る。だとしてもやる事に変わりはない。寄って、触れる。それだけだ。

 奴が手を顔の前に上げた。重力? それも通じないと、解っているだろうに。

 ――だけど、そうじゃなかった。上げた手のひらからは、術力の光が現れて、その光が弾になり、それが幾つも撃ち出された。

 単純な、術弾の乱れ撃ち。やけを起こしたとしか思えないけど、それでもさばき切るのはかなり厳しい。

「ぐ――」

 幾つかの術弾が体をかすめる。その度に力を奪われる感覚がする。これは、まずい。あいつの力が切れるのはいつだ。底なしな訳がない。ないとは思うけどいつまでも弾が途絶える事がない。このままだと――。


 私としては、それを待っていた。

 奴の攻撃が単調になる時。守る暇も与えず、やけになって近付ける事を良しとしなくなる、術弾の乱れ撃ち、最後のあがき。

 そして最後に――“視た”。

 それは、こちらに向かう、奴の術。そこから、全く逆方向に術弾が飛び出した。

 それはまさしく奇襲。これから相手を殺す筈のものから、自分を殺すものが飛び出て来るなんて、そう思える筈もなかった。

 ――直撃。

 人を超えた法術師は、人に成り切れない魔法使いに、敗れた。


 術弾がやむ。あいつはふらつきながらも、まだ立っている。

 まあ倒れていようが立っていようが、関係はない。只、私はあいつを完膚なきまで消すだけだ。

「……揺らぎ――」

 跳び掛かり、左手で額を掴む。勢いのまま地面に押し倒し、

“じり”

 と、掴んだままの左手を一つ、揺るがせた。




 ――成程、今解ったよ。

 狂気病は執念を生み出す。

 普通の人間だったら、それは毒にしかならないけど、

 私なら、それを利用出来る。

 ……待っていて、二人共。

 このおねーさんが、しっかりと助けてあげるから――。

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