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二重季節 -Alignment Minds  作者: 真代あと
マイナス二話目 季節周期 -Dark of Memory
172/277

-2-27 希望の最後

「聡明な貴方、索敵体の存在に気付いたのは、貴方が初めてですわ」

 そう言うと、リリムラは一旦外套の中に全部の小槍を仕舞い込む。

「ですが無駄ですわね。貴方にはそれがどれなのか、簡単に解る手段はありませんわ。その程度の対策も、怠ってはおりませんもの」

 そしてまた小槍を外に展開する。恐らく外套の中で混ぜ合わせて、またどこかに紛れ込ませたんだろう。

「……解らない」

 おーほほほほほほ!

「そうでしょうとも。わたくしの優位、貴方の不利に変わりはございませんわ。とどめを刺される前に、頭を下げ降参するなりすれば――」

「どれかなんて解らない……」

 そう。リリムラの言った通り、さっき出て来た小槍のどれが索敵体なのか、それは今もはっきりとは解っていなかった。この辺りかも、という当たりは付けていたけど。

「だから、黙らせるより、騙って貰う事にしたよ」

 嘘の情報が流れて来ても、受け取る側が真偽を考えないなら、

「……なんですって?」

 その時点で、こいつの負けは確定する。だってそれが致命的なんだもの。

 その異質に、リリムラの動きが止まる。高笑いももう聞き飽きた。

「索敵体がある事は、とっくに知ってたよ。そいつがなければ、あんたのその法術も役立たずになるって事もな」

「それだけで――!」

「それがどれか解らないから、」

 一旦、言葉を区切る。私の絶対性を示す為に、最も効果的な言葉を紡ぐ為に。

「全部に仕掛けてあげた」

「な――」

 絶句するリリムラ。それもそう、彼女はこの術に絶対の自信を持っていた筈。だから出し惜しみもせずにいた。私の目の前でも、何度も使って見せていた。

 甘過ぎる。故にこそ、それを私は、全く通じないんだと言ったんだ。

「撃てばいいよ。反逆される覚悟があるならね」

 小槍の全ての機能が狂っている筈。正常に働いていない。

 索敵が間違えれば、それを逆に操作出来れば、標的を私でなく、他のどこか――或いは本来の術者であるリリムラへと誤認させる事も出来る。要は小槍の主導権を、こっちが握っている。八つの小槍、全てが索敵体であると仮定して。

 いつの間に――いや、どうしてこんな事が出来る。そう思っているが如く、リリムラは動きを完全に止め、押し黙る。

「……武器がないなら、私の勝ちだ。頭を下げるまでもない。消えなさい」

 突き放す。そうしてもう目もくれないまま、歩き、彼女の横を通り過ぎる。

 徹底的にした。自尊心など滅茶苦茶にした。お前は私に、元より勝てる筈がなかったんだと。今までの相手は単なるお遊びだったんだと。言わずとも、結果でそう示した。

 だったらもう。

「……まだですわ」

 そんな言葉を言える筈がない。

 ……なのに、そいつはしっかりと言った。

「お待ちなさいアサカエ シエン。またわたくしから逃げるおつもりですの」

 また――二年前の事か。決闘をすっぽかして、寺院を出ていった時の事。

「……わざわざ言わせるか? あんたにもう、勝ち目はないって」

「勝ち目が、ないですって?」

「はっきり言うけども」

 立ち止まる。そうして、はっきりと聞こえるように、とどめの言葉を言う。

「その程度なんだよ。私にはお前は」

 振り向き、リリムラに向かって、現実を。

「それが――どうしたああああ!!!」

 突然、向かって来る。何もない。なんにもない。小槍も通じないのなら、上等な得物もない。

 そんなリリムラが拳を振り被って。

 え?

 がつんっ!

 凄い衝撃が、した。

 顔面を殴られた。

 ――でも。

 それは弱い。非力なもの。

 がしっとその伸び切った腕を掴んで。

「ぅあっ!」

 引っ張って、放り捨てる。

 そうして、地面に打ち付けられる。それもそう、リリムラは元より技能派。こんな単純な力技なんて。

「まだだあ!」

 それでも、なのに、すぐに立ち上がって来て、

 握り拳を作って、

 ――そんな単純なのが通用する筈がない。そんなの、こいつに似合わない。

 顔に来る拳を、右手で捌いて、

「がぅっ」

 がら空きの腹を殴る。

 ふらふらと崩れて、地面に膝を付いて、

 綺麗な装束も、すっかり砂だらけに、

「――まだだっ」

 なのに、まだ来ると言う。

 立ち上がって、敵対する意思を見せる。

 ……なんなんだ。これは、やけを起こしたとしか思えない。

 そんな馬鹿者なんて――付き合っていられない。

「もう寝てなさい」

 音符。

 次はそれをぶち当てる。

 これに殺傷能力はないけど、当たれば少しの間、無事では済まない。

 これを構える形を見せた事で、リリムラの動きがぴたっと止まる。

 ……だけどそれも少しだけだった。それでも、必止となる筈の符を構える姿を見ても、リリムラは握り拳を作って向かって来た。

 ――なんなんだこいつは。解る筈だろうに。これを喰らえば、頭を揺らされ、しばらくの間動けなくなる。

 解る筈だ。無防備になるんだ。勝てる筈がない。

「まだだと言った!」

 そんな勢いだけで掛かって来るリリムラに、私はためらいなく音符をぶち当てる。

 どかん! と爆音がして、その衝撃を受けたリリムラは崩れ落ちていく。

 ……筈だった。

「まだ、ですわ」

 ふらふらになりながら、そいつは私の体に、倒れ込むように身を寄せ、

 その、弱々しい拳が、私の胸を一つ叩いた。

 ……馬鹿な。

 なんで。そこまでして動ける。一体どうして、踏ん張れる。

「ふふ……やっと、勝ちましたわ」

 顔を伏せたままのリリムラが、小さく笑って言った。もう、私を直視するだけの力もないのに。

「……そんなになってて、よく言えるな」

 私には、まだ余力がある。空っぽになったこいつを倒す事なんて、蟻を踏み潰す程度に楽な事。の筈なのに――。

「現状と勝敗とは別ですわ。わたくしは、意志を貫き、通したのだと、今思いますもの」

 顔を上げて、そいつは私を見据える。その眼差しが、とても強い力をたたえていた。

「貴方は、折れましたわ」

 ……。

「幾らでも、言って差し上げます。貴方の無様を、笑って差し上げますわ」

 ……黙れ。

「貴方は弱虫こ虫ですわ。万策尽きた、そうさせたわたくしに、怯えさせられたのですから」

 黙れ。

「今を見ていませんわ。貴方は今も、勝っている気でいるのか、それとも興味を持たないふりをしていらっしゃるのか。どちらにせよ、貴方は今現実を見る事が怖いのですわ」

「黙れ」

「先を見る事もしない。自分で勝手に終わりを決めて、ずっと思い込んでいるのですわ。そんなつまらない貴方に、わたくしが負ける道理など一っつもないのですわ」

「黙れえええ!!」

「貴方は、まだ全てをなくしてはいませんわ!」

 刃を、取る。黙らせないと黙らせよう黙れ黙れ閉じろ。お前は要らない!

 す――と、思い切り、

 それが、

「っくああああああああ――!!!」

 刺し込んで、

 凄い音で、

 目の前のものが、地面でのた打って、

 のた打ち回って、

 血が出て、

 角が生えて、

 生えたみたいで、

 そう見えて、

 小刀が、眼に、左に刺さった、

 変なリリムラ クグルミ。

 ――が、なんで、ここに、

 ここで、どうして、こうなって、

「アサカエ シエン……」

 這いつくばって、私を見上げるリリムラの、

 右目が。

 あ、だめだかんがえたら、

 ちがう、だめ、これ、これゆめ、こんなのちがう、こんなのちがう、これはちがう、

 ちがう、わたしじゃない、わたしじゃない、いまじゃない、

 あう、あう、あ「ああああああ――!!」

「リリムラせんぱあい!!」

 ごう!! とひかりのせんがむかってくる。

 よけないと。でも、あしがすくんで――。

 ふきとばされる。みえたのは、リリムラのそばにずっといた、あのおんなのこが。

「くう――はあ――」

 ああ、いきもたえだえだ……こんなもの、きょういにもならない。こわくもなんともない。

 はず、なのに。

「っ――ああああああ!!」

 たちあがる。わたしは、あいつのところに――なにがあっても――。

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