表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二重季節 -Alignment Minds  作者: 真代あと
マイナス二話目 季節周期 -Dark of Memory
171/287

-2-26 認められない

 風の法術を使い、全速で塔の地下から空洞を飛んでいく。エクスフレイアをぶっ放した結果は見ていない。只、急いで逃げないと塔の崩落から逃れられない。どのみちあれらは全部生き埋めだろう。

 上る上る。途中で、螺旋階段を駆け上っていくリイの姿を見付けた。

「エンちゃん!」

 その声に、宙に浮かぶ格好で止まる。

「まだこんな所に……」

 ……塔の崩落が早い。このままだと巻き込まれる――即ち生き埋めになる可能性は大分高い筈だ。

「ああもう」

 詮無い事。リイの方にゆっくりと寄っていって、

「掴まって、リイ」

 右手を差し出す。利き腕じゃないけど、とにかく助けないと逃げ出せないという事は察しが付いた。

「行くよ。少し我慢しなさい」

 そうしてまた、足から風を吹き出し、上る。二人分の重さで大分速さが落ちたけど、気にしてられない。それに塔が崩れるよりかは早く、外に飛び出せそうだった。

 そうして、勢いよく塔の最上部を抜ける。

 塔を抜け出す事には成功した。だけどまだ。私には、確認しないといけない事がある。そのままの速さで、私は神社の方に向かう。リイが何か言いたそうだったけど、この速さだ。全部風の音でかき消された。

 そう、この目で確かめない事には、どうにも。あいつらのやる事なんて、簡単に信用が出来る訳がない。


 日は、殆ど沈み掛けていた。アサカエ神社に隣接する、道場の中。

 人の姿はなかった。代わりに、道場はどす黒い血まみれで、すっかり汚れていた。

「……こんな」

 明らかに、人間が流して助かる血の量じゃない。どれだけの事が起きたのか、想像で結論付けるには充分な状況だ。

「……エンちゃん」

 リイの声にも、反応するだけの余裕がない。只、このさまを他人事のような感覚で見ているだけだった。

「おっとさんとカイさんは、狂気病と認められたって。おっかさんが、それを止めたんだって」

 現実感がない。だけど、リイの言葉は淡々と。それこそ諜報員としてのお勤めを果たすだけのように聞こえた。

「本当の事、だって?」

「うん。そう報告が来たからさ」

「こんなの、認めろって?」

「……うん」

 悲痛そうな返事。成程他人ならそう心を痛める事もないだろうさ。

「ふざ、けんなあ!」

 道場の柱を殴り付ける。握った指の皮が破けて、血が滲んで来る。

 だけど。

 私達の痛みはどうなる。この心は。こんなの、他の誰にも解るものか。手の痛みだって、そんなものこれっぽっちのものだ。

 私と、エンにとっては、実の親だ。カイだって、実の兄のように、付き合って来た筈。

 なのにそれが、たった一日で?

「……かは」

「え?」

「かははははははははは――!!」

 逆だ。悲しい、つらい、痛い、そういうものを通り越して、笑えてしまう。

「エ、エンちゃん」

 狼狽するリイにとっても、どうなんだろうね。同じだ。この感情は、誰にも共有出来る筈がない。

 あるとすれば、エンだけしか。


 あいつらの動機もはっきりしている。ウズハヤとキオセ レオイも、私との関わりは充分にある。

 つまりはこれは、狂気病を使った復讐だ。

 もしも狂気病が、死んだものと近い状態にあるのだとしたら。

 だったら、死霊使いのあの女がキオセ レオイを操れる、充分な理由になる。

 キオセ レオイを表に立たせて、気を引いている間に、あいつがここを襲ったんだ。

 ……キオセ レオイには、元々復讐心なんてなかったのかも知れない。

 だけどあいつが狂気病になったなら、私の所への襲撃の訳も解る。

 あいつが感染して、

 死ぬ時、

 死んだ時、

 一番近くに居たのが私なんだから。

 ……私を好きだと言って追って来たのなら、私に近い者が、危険になるのは当然。

 っ――!!

 ……やりきれない!

 全部手遅れだ。

 最初から、骨も残らず燃やすなりしていれば――。

 ――しなかったから、今なんだ……わたしのせいだ。わたしのせい。わたしのわたしのわたしのわたしの、

 ……わたし、なんのために、みんなをまもるって、まもれていない――。

 とうさんもかあさんも、みんながわたしのせいで、

 わたしのせいだ。

 さいしょから、

 わたしがぜんぶしっかりしていれば、

 こんなことには。

「っ――!」

 とびあがる。そして、あいつのところまでとんでいく。

「エ、エンちゃあん!!」

 だれかのよぶおおごえがした。だけど、それもすぐに――。

「え……?」

 何か。私の行く前を邪魔するものがあった。宙に浮かぶ小槍、八つ。

 そこから放たれた光が、私を捕らえ、撃ち落として来た。

「ぐっ」

 直撃を喰らった。飛ぶ力を失って、地面に落ちて倒れ伏す。

「エンちゃん!」

 リイの声。それが私に少し、現実感を与えた気がした。

「ここで待っていれば、来るものと思ってましたわ」

 ……この声。

 いや、あいつの声じゃない。

 立ち上がる。行かないと。私はあいつの所に行かないと、なのに。

「お待ちなさいアサカエ シエン」

 それを止めようとする者が居る。リリムラ クグルミが。どうしてここに居る。どうして私を呼び止める。そんな理由がどこにある。

「面白くはありますが、酷過ぎますわね。法術師、兼作業傭兵のアサカエ シエン。そこまで派手に動いておいて、こんな結果も予想出来ない貴方ではないでしょうに」

「く、う……煩い……」

「貴方は高望みをし過ぎたのですわ。何もかもを自分だけで仕舞い込んで。その腐れた性根、わたくしが叩き直して差し上げます」

 リリムラが、身を屈めて両手を前から、背中に回す。そう、その外套にリリムラの必殺を仕込んでいる訳だ。

 外套がはためく。そこから八つの小槍が飛び出て、宙に浮いていた。

「決闘ですわ。今までの因縁、ここでその決着を付けましょう」

 どうやら向こうはやる気だ。本気で私の邪魔をしようとしているんだ。

 ……私に向かって来るなんて。……だけどそう。暇潰し程度になら、

「決闘……」

 恨みっこなしって事なら、少しだけ遊んでもいい。

「ふん。少しはいい目をするようになったじゃありませんの」

 そう。遊びだ。だって、あいつの攻撃方法は、全部知ってるんだもの。

「あんたの手の内……解るよ。術力を込めた小槍を使った、遠隔攻性術」

 だけども、それだけじゃない。それが主だとしても、その中に約一つ、違う役割を持ったものがある。

 形は同じだけど、実際には攻撃とは異なる能力を持たせている、観察、索敵体。それがある故に、戦闘において圧倒的な把握力、戦略的な絶対優位を持っている。そしてそれを悟らせない事で、相手に見当の付かない要素を、押し付けられる事が出来る。

 後者は、私には通じない。それを知っているからだ。

 でもその上で厄介事が二つ。

 今どれが――。

 潰しても――。

 ……、だったら、取り敢えず動く。

 手はある。なければ動くものか。あいつを、

「行くよ、リリムラ クグルミ」

 完膚なきまでに叩き潰す、それが出来る故に。

「っふふ、こんな形で、わたくしが本気を出すなんて」

 そう笑いながら言って、リリムラは全部の小槍を出す。向こうも完全に、絶対に私を倒すつもりなんだな。

 ……無駄な事なのに。

 だけど実際、厄介な事には変わりない。一対多数。リリムラ本人を黙らせれば一番楽なんだろうけど、向こうも勿論それをさせまいと小槍を展開させ、そこから光線を放たせる。

 射軸から飛び退いて、避ける。あれに対して策を施そうと思うなら、まず小槍の向く場所に居ない事。小槍の全ての動きを把握して、その動きを読み切る事。

 そしてもう一つ、重要な事がある。それは――。

「そこ!」

 小槍からの光線をかいくぐって、小槍の一つに符を投げ付ける。それは、私の方に向いていながら、攻撃を仕掛けて来なかった、恐らく最も重要な役割を持つ小槍。

「っ!」

 リリムラが、苦い顔をする。瞬間、その小槍をかばうかのように、別の小槍が飛んで来て、それが代わりに符を当たり止めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ