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二重季節 -Alignment Minds  作者: 真代あと
マイナス二話目 季節周期 -Dark of Memory
168/277

-2-23 共闘

 寺院の外に出ると、辺りはすっかり夕焼け色だった。

 朽ちた塔まで、町からはそう離れていない。今日中に家に帰れるかなあ、なんて事を思った時、重要な懸念がある事に今気付いた。

「なあ、イスク、シズホ」

 寺院の門の前で、私は立ち止まって二人に声を掛ける。

「あ? なんだ?」

「ん」

 二人も足を止め、何事かと私を見やる。

「帰ってもいいんだぞ。私はエン、いや姉を追っているだけだ」

 そう、この事は二人には関係ない。大事な友人ではあるけど、先生の言い分を聞いていると、塔には多分――いや絶対危ない事があると思う。

「わざわざ巻き込まれなくても」

「まあ、乗り掛かった舟って言うからな。一応恩義もある事だし」

 意外な事を、イスクが口にする。態度は素っ気なかったけど。

「恩義?」

 なんの事。エンに対しての何かか。

「俺らも法術師にして貰えた」

 こくりと、シズホも一つ頷いた。

「……巻き込まれるのも、今更」

 小さな声で。だけどそうか。私達はいつも誰かが誰かを巻き込んで、色々と馬鹿騒ぎをして来たんだった。

「じゃあ行くか」

 足を速める。私のすぐ後ろに、二人と、コイコさんが付いて来ていた。空は赤い。それももうすぐ、暗い時間に変わっていくんだろう。


「遅かったですわね」

 塔の前には、先輩――リリさんの姿があった。遅くなったのは同意。これでも急いだ方なんだけどな。

「先輩っ」

「あら、コイコも来ていましたの。寺院で待っていなさいと、言っていましたのに」

「嫌です。先輩を、一人で待つくらいなら」

「まあいいですわ。何やら不穏な空気も致しますし、人手は多いに越した事はございません」

 そう言って、塔のてっぺんを見上げるリリさん。人手が居るって?

 ――そう思った時、何やら地響きのような、重たい音が辺りに。

 そしてゆっくりと、その音が大きくなって来た。

「んなっ!?」

 何事かと構える。と、塔の天井、崩れてしまった所から、轟音と共に一斉に何かが飛び出して来た。

「来ましたわ。わたくしに続きなさいひよっこ法術師達!」

 リリさんが身を屈めて、両手を背中の方にまで回す。外套が、風もないのにはためいた。それがリリさんの戦闘態勢だ。

 そしてその隣に並んで、コイコさんも鞭のような何かを手にしていた。リリさんに続いて戦うつもりだ。

 だけど、奴らはなんなんだ。よく見ると何やら体の所々が腐ったような、大きな羽の生えた化物の集団だった。それが寄せ集まっていて、一体の巨大な化物にも見える。

「これは!?」

 見た事のないものども。それらが空や、塔の入口から次々と出て来た。

「湧いて出たのですわ。恐らくは、この中に陣取る者の仕業ですわね」

「ここって、封印されてる筈じゃないんですか!?」

 イスクがリリさんに問い掛ける。そう、ここは本来、入る事も出る事も容易には出来る筈のない所なんだ。

「その封印に干渉出来る者が居る、という事ですわ」

 そう言って、リリさんが幾つもの小槍を放つ。あれは確か、飛んでいく小槍であって、それらの先端から光線を放つ事の出来るものだった筈。

「舞いなさい!」

 それらが分散していって、一気に光の線を放つ。数にして見えたのは八つ。それらの光線が全て、化物達を捕らえ貫いていた。

 一気に八体を倒した。だけど、

「――まったく、きりがありませんわね」

 化物の数は、それよりも更に多い。空を覆い尽くさんとする化け物の数は、先程倒した数の十倍くらいは見える。

「コイコ!」

「はいっ」

「あれらが近付く前に倒しますわよ。援護なさい!」

「はいっ!」

 リリさんの小槍の光線は、何匹もの化物を撃ち落としていく。だけどそれだけじゃあ足りない。それを補うものは、

「イスク、シズホ! 行くぞ!」

 二人に合図を。巻き込む形で申し訳ないけど、戦力に数えさせて貰う。

「応よ!」こくり。

 という訳で、とにかく法術を撃ちまくる。あれらは近寄らせたら駄目な奴だ。恐らくは、狂気病に関わるもの。触れないように戦うしか。

 そういう事の為に、法術は有効だ。充分な距離を取って戦える。実際私達も、振動を放ち、火矢を撃ち込み、暴風を吹かせ、遠くからの攻撃に徹していた。

 だけどまずい。向こうの数が多過ぎるんだ。今は押しているけど、撃ち落とすにも限度がある。そのうち術を放つ術力もなくなって――。

「おにーさんどいて下さいっ!!」

 突然の、コイコさんの声。何をする気か、取り敢えず、後ろに居たコイコさんの前から、真横に身をずらす。

 コイコさんの手には、光を放つ源素の塊が――。

「っ――!! ふれいあっ!!」

 どっごおっ!!

「うおお……」

 なに、なんだこれ、手に何か握っていたのは見えた、そこから轟音と、でっかい光の線が放たれた。

 ふれいあって、あれか、魔術の事か。というかまじか。あの時町の中でエンに向かって撃たれたものと同じと考えれば、やっぱりこれを隠し玉として持っていたという事だ。

 その術はあっさりと敵陣、空に居る化物達を吹き飛ばしおった。

「すっげえ……」

 イスクが、感嘆の声を呟く。

「当然ですわ。あの子を只可愛いというだけで傍に付かせている訳ではありませんのよ」

 凄いなあの子。そりゃあリリさんも目を掛ける訳だわ。

「……うう」

 コイコさんの体がふらつく。あれだけの力を出したあの子だけど、やっぱり、それなりの負担もあったのか。

「宜しいですわ。よくやってくれました、コイコ」

 消耗したであろうコイコさんを、リリさんがそっと支えた。

「……せんぱい」

「あとはわたくしに、お任せなさい!」

 ばっと。振り上げた右手から、あの小槍がまた一斉に出て来た。

 コイコさんの魔術、フレイアを警戒して、ばらけた位置に居る化物達。だけど小槍は、その全て――ばらばらに飛んで行って、そこからの光の線が化物達を次々に貫いていった。そしてそれらは、崩れ落ち倒れ伏し、ずぶずぶと腐り地面に溶けていった。

「おーほほほほほほ!! 当然の結果ですわ!」

 あっという間に、敵側に残っていた全員がリリさんによって倒された。頬に手の甲を当て、リリさんが高笑いをした。

「他愛無いですわね。……さて」

 一通り笑ったあと、リリさんは自分の後ろでかばうようにしているコイコさんに顔を向ける。コイコさんはまだ、一人で立っている事もつらそうだったけど。

「コイコ、貴方に足りないのは容量だけですわね。ですがそれを解ってらっしゃるならどーとでもなりますわ」

「せんぱい」

「わたくしを助けなさい。頼りにしていますわよ」

 と、リリさんがコイコさんに何か、赤い珠のような物を手渡した。

「っは、はいっ」

 あれは――先生から貰ったものと同じか。宝珠に術力が篭っていたのが解った。やっぱり、あれは術力補充用の道具なのかも。

「さあ、少しお休みあそばせ。少し経てば、もう一発分の力は回復する事でしょう」

「は、い……」

 ゆっくりと、コイコさんが目を閉じる。少し休めばと言った。取り敢えず、コイコさんの事は任せていいんだろう。

「――さて」

 障害はなくなった。これでもう面倒な事は――。


「……予想外。置き土産を全部平らげられるなんて」

 突然の女の声。塔の陰から、黒い着物に身を包んだ、真っ黒の長髪の女性が出て来た。

「何者ですの?」

 リリさんが問う。だけどそいつは、何も表情がない。誰を見ているのか、誰も見ていないのか。ふらりと現れて、だけどなんの色も、表情には浮かんで見えなかった。

「私は、私は――」

 姿を見ても、不吉としか思えない。嫌な予感しかしない。

「“ウズハヤ マヤ”。貴方達を潰すもの」

 ……それはなぜか、私の方を向いて言われたように思えた。

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