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二重季節 -Alignment Minds  作者: 真代あと
マイナス二話目 季節周期 -Dark of Memory
165/276

-2-20 法術師の資質

 いきなりだがな××。ここに二つのコップがあるとしよう。

 ――。

 まあ聞け。コップの中には水がある。一方には甘い水、一方には苦い水が入っていると聞かされるとしよう。

 さあ、お前はこれをどうやって検証する?

 ――。

 単なるアンケート――いや、意見収集と言うのか。素直に考えが浮かんだ事を言ってくれればいい。

 ――。

 そうか。ああ解った、もういいぞ。

 ――。

 んあ?

 ――。

 聞きたいか。うん、あまり面白くはないと思うが……。

 ――。

 ああ、まあ聞かれたからには教えてやろう。

 アンケートには違いないんだがな。現実的な謎掛けでもある。お前は飲めば解ると言ったな。口に含めばいいと。そうだな、確かに味を検証するにはそれが一番手っ取り早い。だがそれでは不合格だな、真っ当な評価は下せない。

 ――。

 ああ、確かにこれは味を検証する質問だ。素直に答えればいいと言ったが、少なくとも私はそんな検証をする気はないな。

 片方は甘い水。片方は苦い水。

 解らないか。これが只の水ならば飲んで確かめるというのも間違ったものではない。問題は水に違う味があるという事だ。只の水ならば異なる味など付きはしないだろう? それには何かが混入されているんだ。甘いか苦いかに関わらず、水に異物が混入されている。砂糖や塩ならばまだいいが……それが毒ならば? 毒とは限らない、口に含む事で生体になんらかの悪影響が生じるものが混ざっていたなら。

 あり得ない話ではないだろう。毒やそれに準ずるものなど幾らでも手に入れる手段はある。また、苦みを感じるというのは、それが生物にとって口にするべきでない、或いは摂取するべきではないという警告を発する生体反応にも成り得る。それに甘みを感じる毒も、少ないがない事もないぞ。果たしてその正体不明の水が、危険ではないとお前は断言出来るのか? 安易に口に含んでもいいものだと?

 ――。

 いんちきなものか。普通の水だとは一言も言っていないぞ。単にお前が勝手な先入観を持っていたに過ぎないな。

 ――。

 検証方法もない事はない。私ならまず聞いてみるがな、コップに水を入れた当人に。

 ――。

 それは聞かされたと言った筈だが。水を入れた本人はそれが甘いか苦いかという非常に重要な情報を持っていたんだ。

 ――。

 答えないと思うか? 私はお前の質問に答えてやったぞ。お前には危機感が足りないよ。もう少し日々の生活に気を入れた方がいい。でなければ本当につまらない事に引っ掛かりかねないぞ。最悪そこで人生が終わるな。

 ――。

 んあ?

 ――。

 ……うん。そうか……そういう手段も使えない事はないな。機会があれば試してみるといい。私は臆病だからもっと確実な手段を取らせて貰うが。




 ――結界に穴を開ける。そうしてその穴に飛び込んで、次に目に付いた先は――。

「は?」「え?」

 出て来たのは、門の間だった。入口の場に居た試験官達が、何事か解らない声を上げた。

「あ、貴方達どうやって。門から出た、じゃなくて!?」

 そう。私達は門の前にはおらず、門の間の端っこから出て来たらしい。背後には、空間に裂け目が出来たような跡があった。

「……戻って来た?」

「だな」

 ……こくり。

 イスクもシズホも、そう認識している。ならこれは現実で、だけど予想外の反応なんだろう。

「異界に裂け目を?」

「だけどそんなの聞いた事も……」

 そう。これは本来想定された道筋じゃない。強固な異界の結界をぶち破って外に出た、試験官はその事に驚きが出たらしい。

「そうか。結界そのものを崩して出たか。確かに状況を考えれば、それが一番手っ取り早かろうがな」

 先生が、まさに見たままの現実を受け止めて話していた。

 先生は――あの時の先生とはどこか違う気がした。あの真白の部屋で、私には解らない、難しい事を“誰か”と一緒に喋っていた、先生とは。

「先生……」

「いいだろう。過程はともかく、結果としてこいつらは条件をクリアしている。認められて然るべきと思うがね」

 先生が、そう口添えしてくれる。

 ……ならばと、反論をする試験官もここには居なかった。

「異論はないか? なら結果だけを見てみるがいい。今この時からこいつらは法術師だ」

 誰も、何も言わなかった。黙認――そんな言葉がぴったりだと。

 ……どうにも、嬉しさが沸いて来る事じゃあない。だって、あの異界の森で、死んでいる二人を見てしまったんだから。

 ……人が。私達の、仲間が。

「ここって、人は死なない筈じゃあ……」

 私の呟きに、先生は一つ煙草を取り出し、吹かせた。

「どんな状況であれ、人は死ぬ。その可能性は零には出来ん。そこにシエンが居たとしても、全てを見通し守る訳にはいかんだろうしな。運が悪い奴が居た、それだけだ」

 先生の言葉は、冷たいようで、だけど間違いだとも言い切れない。納得は、出来ないかもだけど。

 ……あれ。そういえば。

「エンは?」

「エンさん? 誰を?」

「ああ、いや、アサカエ シエン試験官はどこに」

「……そういえば」

 他の試験官が、顔を見合わす。

 私達は、出口の門の場所で別れたきりだ。だとすると、まだ中に居るかも知れないんじゃないか?

「あいつならば、この事件の裏を取りにいった。今回の妨害を仕組んだ、黒幕を追ってな」

 先生が、そう説明をしてくれる。

「黒幕……」

 そんな者が居るのか? 試験中に人死にまで起こした、その元凶が?

「そいつは、どこに?」

「やめておけ」

 訊いただけで全てを察したのか、先生がすぐさま制止した。

「お前達の力はもう限度の筈だ。成ったとはいえ、あの化物共を相手していたんだからな。それではシエンの足を引っ張るだけだ」

「でも――!」

「工房まで来い。少しは休めと言っているんだ」

 有無を言わさず、というように先生は踵を返して歩き出し、門の間を出て行こうとする。……そう、確かに三人共ぼろぼろの状態なのは確かだし、情報も先生が握ってる。……もどかしいけど、素直に従う以外にない。

 ……せっかく法術師になれたのに。これじゃあ何も意味がない。エンは一人で、化物共と戦っているというのに。

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